第十話 チームエーメン戦 其の三
「大ちゃ~ん? 話し終わった?」
星が大地に呼びかける。
「ああ。終わったよ」
「ふ~ん。で、どうする?」
「好きにしろだとよ……」
「そうなんだ。でもさー、今の大ちゃんと戦っても面白くないんだよねー」
「はあ? 巫山戯んな!」
星は退屈そうにしていた。チームエーメンの仲間が二人追いつき、星に声を掛ける。
「うーん。このままジリ貧だからな。とりあえずさ、二人であの砦みたいなのに突っ込んでよ。一人が、先行して、一人がその後を追う感じー。よろぴくー」
「おい、無視してんじゃねえ!」
「だって、今の大ちゃん、ワクワクしないもん」
「なんでだよ?」
大地は体を震わせる。
「うーん、前の大ちゃんってさ、ギラギラしてたんだよ。でも、今の大ちゃんは牙抜かれた犬みたいにお利口さんだよ。そんな相手とやっても楽しくないでしょう?」
大地は全身に炎をまとわせた。
「うるせえ……」
星はため息を吐く。
「やる前から勝敗が分かってんのに、戦うのってつまんないでしょう? 成ちゃんがつまんなそうにしてたの分かるよね……」
「うるせえ!」
大地は小刻みに動き、ジャブをする。星はその攻撃を簡単に避けていた。
「ほら、やっぱり。それで、そこでストレートでしょう?」
大地は読まれていることに気づき、星の顔を前で止めた。
「大ちゃん、頭いいわけじゃないからすぐ読めるんだよ。それにキレイになりすぎて簡単に避けられる。その炎だって纏っても全然怖くない。ギラギラしてないもん」
「うるせえーー!!」
大地は炎を放つも、星はそこにもう居なかった。大地の側面に回り込み、蹴りを加え、大地を吹き飛ばす。大地の炎は消え、それでも立ち上がろうとしたとき、星の最高のケリが飛んできた。
「ふぉぉぉぉぉ、あたッ! あたッ! あたッ! ほおわったぁぁぁぁ!」
顔、胸部、腹部に三連撃の足刀が飛んできて、最後に大地の顔回し蹴りで払った。大地が倒れ、呪防壁が展開すると、鼻を親指でこすり、気合を入れる。
「ふぉーーーーーおおおお!」
「宮袋選手、意識喪失に伴い、戦闘不能です!」
「星選手の強さが目立ちましたね。今回は功夫とは面白い戦い方をしますね」
「はい! 一方、防御陣地では早くもチームエーメンの永田選手が戦闘不能状態に陥っています」
「リプレイで見てみますと、防御陣地に入った際に落とし穴に掛かっていますね。これは私も想定外です。そこに神宮選手の狙撃で頭一発ですね」
「この落とし穴も賀茂選手でしょうか?」
「そうですね。彼でしょう。この戦い方をみると、彼杵の特殊呪術連隊第一中隊のビリー隊の戦い方を思い出します。堅牢堅固、守りに固く、防御陣地における罠で敵の足を止め、そこを狙撃で取る。演習で彼らによくやられたのを思い出しました」
「瀬島さんでも負けることがあるんですね?」
「あの部隊の連中は一癖も二癖もあって、簡単には勝たせてくれませんよ。ですが、その御蔭で今日の防衛戦術の基礎を作ることができました」
朝子は後ろの追手を見た。距離は五十メートルくらい。このままのスピードだったら、問題なく防御陣地に入れる。
「氷見さん、少しスピードを落として」
「え? なんでよ? このまま防御陣地入れば問題ないじゃない」
「あの二人を誘い込みたいの。貴方がスピートを落とせば、相手は防御陣地の前で倒せるかもと思うはず。私はわざと、金髪の男の方を狙うから」
「それで、私はどうすればいいのよ?」
「賀茂くん」
「うん。防御陣地に入らずに、まずは手前で戦って、敵に勢いづかせれば良いと思うよ」
「はあ? そんなの無理でしょう?」
「氷見さんなら大丈夫。できるよ。相手は二人だ。相手と数回打ち合って、嫌な顔をしてジリジリと後退すればいけるよ」
「簡単に言ってくれて……」
「それとも、賀茂くんにお願いする?」
由美子は不敵に笑う。
「あんた、絶対に私が絶対にそうしないことを分かって言ってない?」
「ええ。そうよ」
「嫌な奴!」
「ゆみさん」
「朝子」
由美子と朝子は互いに鞘夏と葉に怒られた。
「と、とにかく。よろしくお願いね」
「勝つためなんでしょう? 分かったわよ……」
朝子は後ろを向きながら、走るスピードを落としていった。
「氷見選手、スタミナ不足か? 相手選手との距離が縮まっているぞ」
「いや、これは罠ですね」
「えっ? 罠?」
「はい。恐らく、防御陣地に誘い込むためでしょう。氷見選手はこのまま交戦し、上手いこと負けたふりをして、防御陣地へと入ると思われます」
「どうしてですか? そのまま防御陣地入ったほうがいいんではないんですか?」
「確かにそうですが、貴方なら罠があると思う防御陣地へ入ると思いますか?」
「ああ、そうか。入りたくありません」
「そうなると、守る上で防御陣地は非常に有効的ですが、相手が攻めないという選択肢をとると意味がなくなってしまいます。それでも神宮選手のあの狙撃は警戒する必要がありますが、ここで重要なのは決勝リーグにいくためには、得失点差が重要になってきます」
「得失点差?」
「はい。例えば、勝敗点が同点であるとき、どちらのチームが決勝リーグへ上がるかというと、試合における敵を倒した数と敵に倒された数の得失点差です。現在、チーム五芒星が敵を倒した数が四点、敵に倒された数は零点です。一方、チームエーメンは敵を倒した数が一点、敵に倒された数がマイナス四点となります。仮に、昨日と明日の結果で、両チームの得点差零だったとしたとき、より重要になる点数は現在の試合になります。故に、決勝リーグに行くために必要なことはこの試合で相手チームより多く倒す必要があるとなります」
「なるほど。そのためにわざと敵をおびき寄せる。神宮選手は戦略家でもあるんですね」
「戦略家かどうか分かりませんが、この年でここまで考えて作戦を組み立てるのはすごいですね」
「おっと、そう言っているうちに氷見選手は二人相手に交戦に入った!」
朝子は屈強な体を持つ二人に対して、数度攻撃を加える。攻撃は当たるが、この男たちの前で短鞭がただの棒きれに思うほど硬い。それに加えて、相手の重い一撃が交互にやってくる。連携が上手いため、本当に引きたいと思うぐらいだ。
相手の拳が朝子を捉え、後ろへと吹き飛ばす。朝子が防御陣地に入ると、二人共足を止めて、様子を伺っていた。
「ねえ、警戒して全然入らないんだけど……」
「そう簡単にはいかないわね……」
「あんたね、わざとやらせたんじゃないでしょうね!?」
「そんなことないわよ! あ、あんだけ体がデカければ罠に嵌まると思うでしょう?」
朝子もそう思っていたから、これ以上由美子を否定できなかった。
「二人共喧嘩しない! もう一度考えましょう!」
藤が二人を叱咤する。
「氷見さん、鞭はどうかな?」
「鞭? 昨日みたいに捕まえろっていうの? 冗談キツイ。あんな巨体持ち上げるのは無理!」
「いや、違うよ。今度は敵の後方に僕が罠を張る。鞭の攻撃と神宮さんの狙撃で相手をその罠におびき寄せる。どうかな?」
「分かった。賀茂くんの案で行きましょう」
「……あんた、隠形するつもり?」
「うん。気づくとすれば、あの金髪の人だけど、神宮さんが遠ざけているから、その間なら大丈夫だと思う」
「普通、決勝リーグのために取っとかない?」
「氷見さんはご飯のとき、好きなものを残すタイプ?」
「なに悪い?」
「僕も好きなものは残す方なんだ」
「知らないわよ、そんなこと!」
朝子以外全員笑っていた。
「隠形はもう見破られてるんだ。出し渋って決勝リーグに行けないのはもっと嫌だよ」
「……分かった」
朝子は短鞭を鞭に変える。鞭を空中で大きく回し、音を鳴らす。深呼吸をして、冷静になろうとする。だが、体のでかい男を見ると、どうしても、亜門に鞭を掴まれたときのことを思い出す。
今度は速く振り抜く。穂先の動きを止めせない。
朝子は掛け声を掛けて鞭を振り出した。
鞭は屈強な男たちの体に辺り、赤い痣をつける。二人は防御態勢に取りながら、徐々に後退する。
朝子はさらに声を上げて、鞭の速く振り返した。
「氷見選手、得意の鞭での攻撃だ! それにしても速い。目に止まらぬ速さだ!!」
徐々に相手を後退させるも、朝子は罠までの距離があとどのくらいになるのかと思っていた。自身のう腕も徐々に疲れ、鞭の速度が遅くなるのを感じる。
「氷見選手の猛攻が弱まってきたー! 相手もそれに気づき、防御態勢を緩めてきたぞ!」
鞭の勢いが弱まったのを見た相手の一人がその穂先を掴んだ。朝子はその瞬間、鞭の柄を強く引っ張る。しかし、相手は二人がかりで鞭を引っ張り返し、朝子から獲物を取り上げた。さらに男たちは朝子へと突進してきた。朝子がもう駄目だと思ったとき、男たちは止まった。
朝子が男たちの足元を見ると、泥沼になっており、男たちが藻掛けば藻掻くほどずずっと中に入っていった。
「神宮さん!」
「分かってる!」
由美子は一人をすぐに頭を放ち、もう一人を忠陽が石礫で頭部への攻撃をする。二人はその攻撃よって呪防壁が最大稼働し、戦闘不能状態に追い込んだ。
「一体なにが起こったんだ! 急に相手選手の足元に泥沼が現れ、身動きが取れなくなった! そのあとは賀茂選手と神宮選手による攻撃により戦闘不能状態にした!」
「いやはや、恐ろしいですね……。賀茂選手自体が罠のような存在です」
「あの泥沼は賀茂選手でしょうか?」
「彼しかいないでしょう。その種はなんとなく想像できますが、決勝リーグまで取っておくのが良いかもしれません」
忠陽は朝子の短鞭を拾い上げ、朝子に渡す。
「嘘つき……」
「ごめん……」
「あんた、本当は好きなものを先に食べるタイプでしょう?」
「僕は好きなものと嫌いなものを一緒に食べるタイプかな」
「食えない奴。あのグラサンに似てきたんじゃないの?」
「そうかな? それは嬉しいかも……」
「褒めてない!」
朝子と由美子も同時に言っていた。その反応に無線では全員が笑っていた。
「あとは時間いっぱい守り切ろう」
「私に指図しないでよ」
「そうだね」
忠陽は笑顔で答えた。
結局、由美子は最後まで星を仕留められなかった。そのことについて、由美子からの弁明は頭が良すぎる動物を仕留めるには番犬が必要だとのことだった。忠陽も朝子もそれには同意せざるをえない。星は二人に攻めさせたときには由美子たちが防御陣地を築いた場所と対照的に陣取り、距離を稼いでいた。距離が長くなれば、由美子の弦音がなった後とその動物的な反射神経で完全に躱していた。
結果的には引き分けとなったのだが、チーム五芒星はチームエーメンよりも優位な状況にたったと言える。
一方、大地は試合終了後、誰とも会話をせず、作戦室も戻らずに何処かへ行ってしまった。由美子は自身が言ったことを謝る気もないようで、そのことについては誰も由美子を咎めるものは居なかった。典子はチーム全員に対して大地に代わって謝り、明日は必ず連れてくることを言っていた。
忠陽は大地が明日まで戻って来るとは思えなかった。
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