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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第十話 チームエーメン戦 其の二

忠陽たちの居場所が分かりやすいように戦場を五目のように区画を分けています。

本文最初に戦場区画分けを乗せますので、ご利用ください。

挿絵(By みてみん)


 由美子は全員の初期位置を確認した。


 朝子がアルファ7、由美子がデルタ4、忠陽がイプシ2、大地がゼータ7だった。


 これを聞いて、由美子は忠陽と近いことが幸いだと思った。逆に朝子が遠く、合流できるか不安でもあった。


「集合地点ははイータワン。作戦範囲ギリギリの場所よ。氷見さん、真反対になるけど、私達にところへ突きって頂戴。あなたが着いたころには賀茂くんが防御陣地を作り終えているはず。賀茂くんは索敵は良いから、先行して防御陣地をお願い」


「分かったわ」


 朝子はすぐに動き出した。


「宮袋くん、返事は?」


 藤に急かされ、大地はやる気なさげに返事をする。


「大地! ちゃんと返事しろ!」


 大地は典子に急かされた。


「はいって言ってんだろ!?」


 観戦会場のモニターではチームエーメンが辺りを捜索する一方で、チーム五芒星の動きが迷いのない直線的な動きに見えていた。


「どうやら、チーム五芒星は相手の土俵には立たないようですね」


「え? まだ開始早々なのに分かるんですか?」


「チーム五芒星(ファイブスター)は恐らく、作戦区域内のギリギリを目指すはずです。チーム全体の動きが迷いなく、マス目の斜め上の目指しています。これは相手選手の機動力を()ぐために固まって戦うことを選んだのでしょう」


「なるほど、初動でそこまで分かるんですね!」


「それと、賀茂選手に注目していたほうが良いと思います。私の読みが正しければチーム五芒星の作戦で重要なのは賀茂選手です」


「鏡華ちゃん、鏡華ちゃん!」


「う、うるさいわね! 分かってるわよ!」


 鏡華は友達からしがみつかれていたが、メインモニターに見える自分の兄の姿を追った。


 忠陽はイータワンにつくと、呪符を取り出し、地面を隆起させる。それは平地だった山の形状となり、それを複数作り上げる。


「賀茂選手、山を作っているぞ? 瀬島さん、これはどういうことでしょうか?」


「これは防御陣地を作っているんです。この平地Bは(ひら)けた場所です。そんな場所での機動戦はチームエーメンの方が有利です。そのため、チーム五芒星は相手の作戦に乗らず、相手に自分たちの方へおびき寄せる手段を取ろうとしています」


「なんと! この防御陣地でそんなことができるですか?」


「いえ、できません。ですが、この防御陣地を作ることによって、敵が複数人攻めてこようと、相手に袋叩きに合わないようになります」


 会場から疑問視する声が上がり、どよめきが生まれていた。その中で、一人だけ笑みを浮かべ、楽しんでいた男が居た。メガネを掛け、黒髪の平凡な髪型、翼志館制服を着ていた。そのに胸は生徒会長を示す特別なバッジをもっていた。


「さすがだね、賀茂くん……」


「会長……」


 黒い長い髪を赤いスカーフで整えた女子生徒が怪訝な顔をする。


「絹張くん、すごいじゃないか。喜びたまえ」


「次の対戦相手ですよ」


「それは関係ない。我が校に有能な人物がいることを喜ばないといけないよ」


「絹張、亮に言っても無駄だ。いま、そいつが考えていることはあの賀茂を次回の学戦でどう使うかだけだ」


 ウニのようなツンツン頭をした制服を来た男が言った。


「安藤先輩……」


「まあ、敵になると面倒くさそうなのは確かだな。あの一年コンビ……。さて、どうするかね……」


 安藤は手で何かを弾くような形を取っていた。


 絹旗は自分の世界に入ってしまった二人を見て、不機嫌になっていた。

 

 忠陽は防御陣地作り終えると、由美子が合流し、忠陽が作った陣地の中心点へと向かう。


 忠陽は呪符を取り出し、内側の方から作った岩の柱や地面に呪符を入れ込んでいく。その間に由美子の弦の音がなった。


「由美子選手、弓矢による遠距離攻撃です!」


「早速、始まりましたね」


「どういうことですか?」


「防御陣地は相手から身を守るのと、相手を寄せ付けないという意図があります。また、今回のような平地で高い台を作るということは、そこから敵の位置や動きを見晴らせることになります。そうすると……」


「昨日の試合であった神宮選手の狙撃が行えるというわけすね!」


「はい。しかも、相手には隠れる場所はありません。神宮選手の狙撃はどのぐらい正確かは分かりませんが、相手にとってはいつでも、どこからでも撃たれる恐怖心が芽生えてきます。必然的に向かわなければ行けない場所は?」


「防御陣地!」


「そうです。防御陣地向かわなければその手は止みません。この防御陣地は相手チームの機動力を削ぐだけでなく、自身のチームの最大火力を持つ神宮選手に対して強化効果を与えます」


「す、すごいぞ! 賀茂選手!」


 会場から声が沸き立った。


「氷見さん、デルタスリーに敵が居るわ。イプシスリーにも敵がいるけど、宮袋くんもいるし、私が狙撃するからそのタイミングでこっちに来て」


「了解」


「宮袋くん、分かった?」


「へいへーい」


「大地、ハイは一回!」


 典子は大地に指摘する。


「ハイハイ」


 大地は眼の前を走っていると、金色の獅子な髪と白いタンクトップに白いズボンを履いた男が見えた。それだけで口元が綻ぶ。


玉嗣(おうじ)ーー!!」


 星は後ろを振り向くと、見知った顔が炎を出しながら、突っ込んでくるのが見えた。


「大ちゃ~ん! 探してたよーー!」


 星は両腕を広げて、大地に近づこうとした。星が抱きつこうとした瞬間、大地は炎で薙ぎ払う。そのときには星は空中を飛んでおり、大地の頭に手を乗せていた。


「頂きまうチュッ!」


 星は大地の頭を掴もうとした瞬間、弦の音が聞こえた。聞こえた瞬間、星は大地の頭を押し込み、その反動でさらに空中を飛んだ。由美子の矢は外れ、駆けつけた朝子は呆気に取られた。


「イッテェな! このクソ野郎!」


「だってー、大ちゃん僕のハグを拒否したでしょう? その仕返し」


「へ、相変わらず、訳わかんねえ戦い方だな……」


「こいつ……あの夜の……」


 朝子が短鞭を構える。


「あれー? どこかで会ったっけ? 女の人の顔は忘れないんだけだなーー。どこだっけ?」


 弦の音が聞こえると、星は一瞬だけ見て、すこしだけ動く。矢は星が元いた場所に着弾し、地面を抉った。


「あ! あれだ! 昨日のファミレスだ! 忘れてごめんなちゃい! 僕の電話番号教えとくね」


 星は無防備に朝子に近づく。朝子はその星を薙ぎ払う。だが、星は眼の前におらず、朝子の背中で自分の背を合わせていた。


「あれ? なんで怒ってるの? あのとき、仲良くしてたじゃん?」


「おまえ、違う女と勘違いしてねえか!?」


 大地は星に飛び蹴りを入れようとするも、しゃがんで躱された。由美子は星と二人の距離が近すぎて狙えなかった。


「二人共、そこからすぐに離れなさい!」


 由美子は二人に対して無線で指示を送る。


「分かってるわよ!」


 朝子は星を引き剥がそうとしていたが、全く離れる気配がない。


「あー、思い出した! 大ちゃんと鴨くんとクラブで一緒で暴れまわって逃げた子だ!」


 朝子はその言葉に気を取られ、踏み込みが甘くなった。星は短鞭を持った手を蹴り上げた。短鞭は空中に舞い、地面に落ちる。それを星が拾い上げた。


「今日は私がお嬢様よ!」


 短鞭を振り回しても、鞭に変わることなく、ただ空気を切る音しか鳴らなかった。


「大ちゃん、これ鞭に鳴らないよ? どうして?」


「知らねえよ! そんなのはお嬢に聞けよ!」


 大地が距離を詰め、小刻みに攻撃し、相手の出方を伺っていた。


「ふーん、つまんないの!」


 星は短鞭を朝子へ投げ返した。朝子はそれを受取、鞭に替えて、大地から星を引き剥がす。


「邪魔すんな!」


「あんた、何いってんのよ! ここを離れるのよ!」


「そんなクソみてえな作戦、どうでもいいだよ!?」


 朝子はムッとした顔になった。


「あんたね!」


「二人共、そこを離れなさい! 敵がそっちに集まってくるわよ!」


 藤から無線が入り、朝子は苦い顔をした。


「藤ちゃん、こいつ、作戦無視しようとしている!」


「え? なんですって!?」


「こら、大地! 神宮さんの作戦に従え! この前みたいになるつもり!?」


 典子が叫ぶ。


「っるせぇ! 眼の前にいるやつと戦わねえで、なんのための修行だったんだよ!?」


「バカ大地!」


 その通信と状況を見て由美子はすぐ判断した。


「氷見さん、あなただけでも良いから、離れなさい! その人はもういいわ」


 由美子は弦を引いた。


「分かった」


「ありがとうよ! 姫さん!」


「誤解しないで。私はあなたを切り捨てるのよ」


 弦の音が鳴り、由美子が放った矢は放物線性を描くように空に舞った。ちょうど空中で止まったときに、矢は複数に分かれる。星はそれを肉眼で確認し、大地から大急ぎで離れた。


「おい! 逃げんなよ!」


「いやいや、無理でしょう! 大ちゃん空見なよー!」


 星は大声を上げて一ブロック退去する。大地は空を見た瞬間、矢は雨のように降り注いだ。大地は防御態勢を取る前に呪防壁が起動した。


「なんだあれは! 矢の雨が降り注いだぞ!」


「流星……。それにしても、神宮選手は冷徹ですね」


「ど、どうしてですか?」


「彼女は宮袋選手を切り捨てたようです」


「え?」


 観客席ではざわざわと音がなった。


「なにがあったかは分かりませんが、本来あの技をするなら、敵にも確実に当たるようにするべきものです。ですが、今回、敵が当たるかどうか関係なく、氷見選手を逃がすために、あの矢の雨を降らせたと考えたほうがいいと思います。氷見選手が防御陣地に向かっていること、宮袋選手が未だにその場で立っているのを見ると、その確率が高いでしょうね」


「なんだよ、それ! てめえ、仲間じゃなかったのか!?」


「仲間なら何故、私の作戦に従わないの。私はこのチーム勝たせる義務があるのよ」


 大地は拳に力を入れる。


「藤先生、宮袋くんの通信をすべて切ってください。彼は自分の戦いを望んでいるみたいですから」


「神宮さん! ……宮袋くん、今日は好きに戦いなさい。でも、あとで皆に謝りましょう?」


 大地はそれに対して返答しなかった。

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