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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
177/210

第十話 チームエーメン戦 其の一

 八


 本予選リーグ二日目。


 昨日とは違い、晴れやかなる空が広がっていた。昨日の午後三時から雨も上がり、演習場は係員のお陰で地面のぬかるみはなくなっていた。


「こんにちわかちー!」


「こんにちわちぃぃぃーーーー!!」


 観戦会場にプリズマの若山千空(ちあき)のファンが木霊する。


「ありがとうございます! ゆうきりんりん、元気ハツラツ~! わかちーこと若山千空でーす!!」


 ブロンドの短い髪に小柄な顔、小さな身体と思えないほどパワフルな気合が会場に伝播する。ファンたちはそれに呼応し、声を上げた。


「うぇぇぇぇぇい!」


 Vサインを頭上に掲げ、声を上げた。


 若山の隣にいる実況席係員の手によって、メインモニターに午前中の結果と点数が表示された。


「本予選リーグ二日目午後! 午前中の結果によりAブロックではチーム武帝が決勝リーグへの切符に王手を掛けた。一方、Bブロックでは臥竜が二勝を上げ、明日の結果に関係なく決勝リーグへの進出を決めています。その中でのBブロック午後の部、エーメンと五芒星(ファイブスター)は互いに決勝リーグへの大事な試合へとなります!」


 係員がメインモニター、各チームのパラーメータを映し出す。


「さて、改めましてご紹介をさせていただいます。実況を務めさせていただくのは、若山千空こと、わかちーと、解説の皇国陸軍、参謀本部第一部、作戦課、作戦班の瀬島(せじま)(ただし)二佐に来ていただきました。よろしくお願い致します」


「よろしくお願いいします」


 瀬島は返礼をしながら頭を下げる。


 瀬島は今年で三十路をすぎる頃であるが、その顔は幼く見え、二十歳前後と言われても納得できうるものだった。軍服には(しわ)がなく、その背筋は伸びており、忠陽たちが見ている軍人とは違い、その所作も人一つ丁寧であった。


「瀬島さん、今回は両者決勝リーグに向けて、負けられない戦いとなりますが、選手たちの事前情報や映像ログを見ているとどう思いますか?」


「そうですね。チームエーメンは獲得点数がないためチーム五芒星より心理的不利な状況でもあります。逆にチーム五芒星は負けなければ決勝リーグへの切符は残っている状態です。ですが、両チームの動きを見ても、非常にいいものを持っているため、どちらが勝っても不思議では有りません」


 瀬島は情報端末を操作し、メインモニターに映し出す。


「昨日、チーム武帝とチーム美周郎(びしゅうろう)の一戦を解説させて頂きました。この両者ともに拮抗する力を持っており、その力はこの大会でもトップクラスです。試合結果は御存知の通り、作戦時間切れの引き分けとなりました。その要因として守りに強い武帝、攻撃に特化した美周郎、両方の特性が相克状態に落ちいてしまったからでしょう。また、チーム武帝の(たけ)選手の間合いに入れば負けるを意味していたため、チーム美周郎の周藤選手はその間合いに入ることをしませんでした」


「なるほど、なるほど……」


 瀬島は機器を操作し、チームエーメンとチーム五芒星のパラメータを映し出させる。


「それを踏まえて、今回のチームエーメンとチーム五芒星の色は、機動特化と攻撃特化のチームとなります。チームエーメンのリーダー星選手は呪力が少ないものの、その格闘センスは変幻自在です。多少戦いに子供っぽさを感じますが、この大会においてはマイナス面ではありません。チームとしてはその指揮系統がきちんとしており、あくまでもアタッカー、所謂点取り屋が星選手とはっきりしており、敵を星選手のもとに追い込み、点を取るという作戦です。そのため、星選手以外の格闘センスは弱く、戦わず囮や星選手が来るまでの時間稼ぎに専念するチームです」


「なるほど。でも機動というよりは防御重視にも聞こえますが……」


「ええ。そう思うのは当然です。ですが、基本的な動きは足で敵を索敵し、足で敵を追い込むというのが彼らの最大攻撃です。言葉は悪いですが走って相手を包囲し、袋叩きにするのが、彼らの手法のようですね……」


 瀬島が苦笑いすると、若山はこころの中でドキッとするものを感じた。


「そ、そうですか」


「今回演習場となる旧海浜公園である平地Bは視界が開けていて、相性がいい場所です。戦場が彼らに味方しています」


「チーム五芒星はどうしょうか?」


「チーム五芒星はなんといってもその攻撃力ですね。先程美周郎も攻撃特化と申し上げましたが、それに匹敵もしくは上回るものを持っています。その要因は予選から名前が上がっている神宮選手ですね。彼女は名家の名前に恥じず、事前調査でも呪力、呪力攻撃ともにトップを取っています。それに彼女、まだ本気で戦っていないみたいなんですよね。それは彼女だけでなく、チーム全体がそう言えるんですよ」


「え? そうなんですか?」


「これまでの戦いでチームとして本気に近い戦い方をしたのはチーム松島に居た松島選手相手だけです。宮袋選手はあれで、だいたいの力は分かるのですが、神宮選手は得な距離である遠距離での戦いはしたものの、見せて良いものしか見せていないんですよ。まったく、あの知恵は誰に教わったのか……。末恐ろしい選手です」


「な、なんと! 私達も気づきませんでした!」


「残りの二人の選手については個人的には氷見選手のあの鞭を使った戦い方を警戒するよりは、賀茂選手に気をつけた方がいいと思っています」


「えっ、どうしてですか? 私は氷見選手の方が物理的に強くて、近寄らせたくないと思っちゃうんですけど……」


「あまり、ここで選手の手の内を話すのはよく有りませんので、それはここの戦いで出たとき、もしくは次の解説者に任せましょう。一つ言えることは、見えない敵とどう戦うかですかね」


「見えない敵ですか? 確かに私も出場したとき、全然敵の位置が分からなくて大変でした。賀茂選手は式神を使った索敵術もあって、敵のことが見えていますからね……」


「そうですね」


 若山は相槌を打つ瀬島の顔を見て、自分の回答が正解なのかどうか不安に思った。


「鏡華ちゃん、鏡華ちゃん! あの解説者、鏡華ちゃんのお兄ちゃんのこと褒めてるよ!」


「なによ、そんなの当たり前じゃない」


 鏡華は冷静を装っていたが、その手は力強く握られていた。


「さて、時間となります! それでは皆さんもご一緒にカウントダウンをしましょう!」


 会場が一体となり、カウントダウンを始める。


 運搬ボックスの中にいる大地は作戦を思い出していた。


「はあ? 一旦退くだと?」


「ええ、退くわ」


 由美子の強気な発言に大地は眉間に皺寄せる。


「なんでだよ。いつも通り、各人で戦えばいいじゃんかよ」


「相手はそれを狙ってるからよ」


「狙ってる? そんなの関係ねえだろ?」


「大アリよ! いい? 相手チームは機動で私達を一人ひとり追い詰める。そんな奴らにまともに付き合っても、やられるのは目に見えてるの!」


「うんなのやってみないと分かんねえじゃん」


「宮袋くん、これは私達も同じ意見。昨日、あなたが居なくなったときに話し合って決めたことよ」


 藤は冷静に大地を諭していた。


「そりゃ、おれが作戦を考えてもしょうがねえから……」


「アホ大地! だから、昨日居ろって言ったでしょう? 由美子さんの言う通りにしろ!」


「うっせぇ!」


 大地は典子に悪態をつく。


「いや、だけどさ、私達もログで相手の戦術? それをご盤上で追ったけど、かなりの確率で相手のチームは動かされて、袋叩きにあってるんだよ? 由美子の作戦のほうがいいよ」


 葉までが由美子の肩を持っていた。


「お、お前はどう思うんだよ……」


 大地は朝子に尋ねる。朝子は興味なさげに答えた。


「お姫様の言う事に従ったほういいじゃない? 私はお姫様なんかより葉や藤ちゃんの言うことを信じてるから。でも……」


 朝子は大地を見る。


「なんだよ……」


「あんた、お姫様に逆らえると思ってるの? ただでさえ、前科持ちの上、また馬鹿なことやるんじゃないでしょうね?」


 大地は心臓を射抜かれた感覚になった。


「大地くん、これは決勝リーグに行くためなんだよ」


「ボン、てめえまで……。じゃあ、姫さんよ。退いてどうするんだ?」


「退いた後、忠陽くんに防御陣地と罠を作らせる。敵をその陣地に呼びよせて、近距離ではあなたと氷見さんが対処。私は遠距離から敵がここに来るしかないように仕向ける。そして、点を取るのは賀茂くんよ!」


「なんで、ボンが点取なんだよ?」


「アタッカーは紛れもなく、あなたと氷見さん。でも、今回は相手の足を止めることと、隙をつくことが重要。それができるのは、賀茂くんしかない」


 大地は舌打ちをする。


「納得いかないのは分かってる。でも、ここで負けるよりは勝って決勝リーグに行くことのほうが重要だわ」


 勝つことが重要なのは分かっている。だが、この戦いは俺の戦い方じゃないと大地は思った。


「試合開始!」


 運搬ボックスが開くと、大地は我に返り、外へと出る。

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