第十話 チーム櫻田一家戦 其の二
忠陽たちの居場所が分かりやすいように戦場を五目のように区画を分けています。
本文最初に戦場区画分けを乗せますので、ご利用ください。
演習場に試合開始のブザー音が鳴り響く。
窪畑は意気揚々と実況を始めた。
「さて、時間になりました。各運搬ボックスが開きます! 演習場は市街地B、ビルの解体跡地の更地です。解体後の残骸を使って、戦うのがセオリーとなっています。観戦会場の皆様には左サブモニターに各選手の位置が分かるようになっています」
メインモニターの隣サブモニター二つあり、右側には選手と呪防壁の発動状況、左側には七×七マスに赤と青の丸が点灯している。
「青の丸がチーム五芒星、赤の丸がチーム櫻田一家。初期位置を見てみますと……」
由美子の初期位置はガンマ1におり、相手の三選手がガンマ4、イプシ3、ゼータ1におり、下手すれば囲まれる状態ではあった。一方、忍はデルタ7におり、ベータ6にいる忠陽とゼータ5にいる鞘夏に囲まれそうな位置いる。
「櫻田選手と由美子選手が孤立した位置にいるようです。解説の宇曽さん、どうですか?」
「そうですね、神宮選手を包囲できる機会がありますが、相手選手は神宮選手の位置がわかっているわけではないので、そうなるかは分かりませんね。それは櫻田選手も同じです」
由美子は手元の呪防具から投影される地図を確認とチームメンバーの初期位置からすると、自分だけが孤立していること確認した。その次に辺りを見回すとちょうど高い台になっているようなビルの残骸があった。
「賀茂くん、索敵はいいわ。今、私の近くにビル残骸があって、それが高い台になるわ。ここからなら、敵の位置が把握できる。もし近くに敵がいるなら、位置を葉さんに伝えて!」
忠陽たちは由美子の指示に了解と返事をする。
「賀茂くんはそのまま、単独行動。氷見さん、鞘夏は合流して、私はここから狙えるなら、敵を狙うわ」
忠陽たちは一斉に走り出す。
一方、櫻田一家の連中は全員集合の行動を取っていた。
「神宮由美子は見えた?」
「こっちは見てないぜ、忍!」
「こっちもよ、忍ちゃん!」
「見つけ次第、私はアイツに突撃する。皆はその援護!」
「OK、忍!」
忍以外、全員そう答えた。
「さあ、やるわよ!」
由美子は廃ビルの残骸を見つけ、その上へと乗る。呪力で視力を強化し、数百メートル先を見た。
「二人居た……。たぶん、敵は集合しているわ。場所はデルタスリー」
「ど真ん中……。どうする、お姫様。私達がそこに向かう?」
「ええ、お願い。私が狙撃をするからそれが突撃の合図。賀茂くんは隠形使わなくてもいいわ。二人が取り損なった相手を落としていって」
「わかったよ」
由美子は集結する敵を見る。敵は二人、鞘夏と朝子は一ブロック隣にまで来ている。そこで由美子は弓と矢を作り出す。
「おおっと、神宮選手、何もないところから弓と矢を作り出したぞ。これはどういう原理だ? 宇曽さん、分かりますか?」
「ええ。恐らくはあれ自体が呪術ですよ。弓も矢もそれぞれ呪術でしょうね。さすがは神宮家ですね」
「ええっと、どんな呪術なのでしょうか?」
「そ、それは……」
「それは?」
「あ、あれは……」
「あれは?」
「いや、ですから、あれが呪術なんですよ!」
「よく分かりませんが、あれは呪術なんですね」
「……はい」
「その神宮選手、弓を引いています。恐らく狙い撃ちですね。方向からすると悠木選手と、式野選手を狙っているようだぞ!」
由美子は相手を射形に入った。弦を引き、綺麗な会が見えるようになる。観戦会場からもその会の優雅さに声が漏れるほどだった。
だが、心身がともに一つになるよりも由美子の頭の中に忍の顔が映り、思わず矢を放してしまった。弦の音は雑な音にはじき、矢を飛ばす。矢は狙いよりもそれ、相手に居場所だけを教えてしまった。
「おおっと、神宮選手の矢ははずれ、変な所に着弾したぞー! これによって相手に位置を知られてしまった」
由美子は動揺しながらもその場から離れる。
「忍、見つけたぜ! お前の位置から北北東、距離五百!」
「分かった! 私はそっちに向かう。お前たちは他の奴らの足止め!」
「OK、忍!」
声を揃えて忍に返事をする。
「なにやってんの、お姫様!」
朝子は外れた矢を見て、叱責する。
「わかってるわよ、そんなことぐらい!」
「わたしたちは、そのまま二人とぶつかるわ!」
「ええ、お願い!」
朝子は鞘夏を見ると、鞘夏は黙って頷く。朝子は走り出し、悠木と式野と距離を詰める。
先に手を出したのは朝子であり、悠木の死角から入り込み攻撃を短鞭で加えようとすると、式野が気づき、片腕で防御し、その攻撃受ける。式野には激痛が走り、声を上げた。
悠木は体制を整えて、朝子に攻撃をしようとしたが、鞘夏が悠木の動きに合わせて出ようとしていることに気づき、一旦、朝子を追い払い、式野を連れて後ろに後退する。後退したところにチーム櫻田一家の福田が居り、三人となった。
「こっちは三人になった。デルタスリーで応戦中」
すると作戦室では葉がデルタスリーに赤い丸を三つ配置する。
「あと一人、どこだろう……」
葉がそう思っていると忠陽から通信が入る。
「今、小さい人とすれ違った。場所はガンマフォー。この間、神宮さんに絡んでた人! たぶん、神宮さんに向かってるっぽい」
由美子はその無線を聞くと、どうするかを迷ってしまった。あの女には得体のしれない何かを感じる。一人で対決はしたくないが、そうも言っていられない。
「僕、その人を追うよ!」
「待って!」
由美子の声で忠陽は足を止めてしまった。
「私が……一人でやるわ。……賀茂くんは予定通り鞘夏と氷見さんのフォローを」
「そっちに合流して、戦えばいいじゃない?」
朝子が言った。
「駄目よ、眼の前の敵に集中して! 背中を見せれば相手の追撃を受けるわ」
「分かった。遠慮なく眼の前の敵に集中するわ」
朝子は眼の前に三人を見る。
「あんたは、フォロー。私が突っ込む。いい?」
鞘夏は頷く。
朝子はそう言いながらも、鞭にすべきか迷った。その前に相手が動いた。福田が前に出て、朝子に殴りかかる。朝子はそれを簡単にいなし、顎に打撃を与え、腹には突きを与える。そこで怯んだ所に追い打ちをかけようとしたが、悠木が両手で作った水たまりを朝子に放っていた。朝子は後方に飛ぶと、タイミングを見計らったように式野が木刀を振りかざしていた。
「貰ったあぁぁ!」
その叫びは紫の防壁によって防がれる。式野はその硬さに驚きつつも、無理やり突破を試みていた。
「防壁を解いて!」
朝子の指示で鞘夏は防壁を解き、朝子は解かれた瞬間、短鞭から鞭に変え、式野を鞭で四、五回叩く。式野の服は避け、肌が露出し、赤くなる。そこから血が出始めた。
「なんという威力でしょう! 見ているだけ痛い。そして、氷見選手が女王様のように見えてきます。……宇曽さんはああいうプレイ好きですか?」
窪畑は隣にいる宇曽にニッコリと甘えるように問いかける。その可愛らしさに宇曽は鼻を伸ばしていた。
「いや、わ、私は……でも、君なら……」
窪畑のファンもとい、犬たちが唸り声を上げていた。
「ここで氷見選手、式野選手を鞭で掴んだ! 鞭の使い方もすごいぞー」
朝子は鞭の長さを変え、式野に巻き付けると、両手で柄を持ち、そのまま振り回しながら、自身も回転し始めた。
「重い、のよ!」
式野選手は慌てふためき、助けを叫ぶも、悠木は何をしていいのか分からず、突っ立っていた。
朝子に受けたダメージから立ち上がった福田はその状況を見て、大声で悠木に指示した。
「水の魔術だ! 奴にぶつけろ!」
福田が指さしたのは朝子の方だった。朝子はそれに気づき、回転しながら悠木の位置を見る。
「なら、返してあげるわ! 受け取りなさい!!」
方向を定めて、悠木の手前で自身の回転を止め、鞭を自分にの方へ引きつつ、長さを収縮させた。すと、式野はクルクルと回転しつつ、悠木の方へ飛んでいった。
悠木は両手に水たまりを作りかけている状態で、そのことに気づき、叫び声を上げる。
「こっちに来るな! 何してんのよ!」
「ぞぞぞんなごどいばれでもでぎまじぇーーーん!!!」
「悠木、受け止めろ!」
「無理ぃーーーー!!!」
悠木と式野は互いに悲痛叫びを上げつつ、ぶつかった。式野は目を回しながら、体が痙攣した状態で伸びており、その後すぐに意識喪失として見なされ、呪防壁がフル稼働していた。悠木は水の魔術がクッションになったのか、痛みに耐えながらも、立ち上がった。
「式野選手、戦闘不能となりました! それにしてもハンマー投げみたいですごかったですね、あれ! 私も回ってみたい!」
観戦会場から笑い声が上がる。宇曽はこんなのは呪術大会と呼べないと内心思っていた。
「み、味方を投げるなんて、なんてやつ!」
「悠木、は、鼻血……」
福田の指摘に悠木は青ざめながら、鼻に手をやり、その手を確認すると、赤い血がべっとりとついていた。悠木は体を震わせながら、涙を流す。
「調子こいてんじゃあねぇーぞ、ワレ! よくも、よくもアタイの可愛い顔を傷つけたな!」
顔と口調が変わり、立ち姿は粗暴で下から朝子を覗き込み、がんを飛ばしていた。
「それ以上調子こくと、ワレの頭かち割って、脳みそチューチューしたるぞ、ボケカスぅー! ほんま、くらすぞ!」
その怒りように朝子は蔑むように笑う。
「御託はいいからさ。早く来なよ」
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