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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
168/206

第十話 チーム松島戦 其の一

 六


 二次予選リーグ 三日目。


 二次予選リーグは最終日となり、忠陽たちはこれまで順調に勝利を重ねている。本日の相手に勝てば本予選リーグへ進出する。


 相手は松島成実(しげざね)が率いるチーム松島だった。一次、二次予選リーグの映像ログ内容を見ても、チーム松島は喧嘩のような格闘戦をメインとした戦い方であり、主に三本松と呼ばれる一松、二松、三松の三人だけが戦っていた。チームリーダーの松島はこれまで戦うことなく、後ろにいるだけで、二次予選リーグに入ってからは三本松が負けた瞬間にリタイヤするというのが流れだった。


「なあ、姫さんよ。今回は松島さんと一騎打ちをさせてほしい」


 市街地Aの演習会場に置かれた作戦室で大地は由美子に土下座していた。


「ちょっと何よ、急に……」


 由美子はその出方に身構えていた。


「あの人とは、差しでやりたいんだ。頼む!」


 由美子は忠陽を見る。忠陽はいつものように笑顔で誤魔化していた。その忠陽が頼りないことに苛立ちも覚えつつ、藤や典子を見る。典子は視線に気づき、口を開いた。


「えっと……大ちゃんと松島さんはよく喧嘩していた間がらで互いを認めていたライバルみたいな感じなんだ。だから、思いが強くてさ、一対一に拘ってるんじゃないかな……」


「でも、勝率を上げるにはあんまり……」


「それは分かってる。勝手なことを言ってるってのは分かってるが、あの人との戦いは差しでやりたいんだ」


「別にいいんじゃない? そいつが負けてもあたしたちが負けなければ……」


 朝子が呟く。


「お嬢! お前、分かってくれるか!」


「勘違いしないで。駄目だと言っても聞かないだろうから言ってるのよ」


「俺は……負けねえ!」


 由美子は朝子が言う通りであることは理解している。だが、それよりも気になっているのは朝子の動きの悪さだった。一次予選リーグでは軽快に動いていたが、二次予選リーグに入ってからなにか慎重な動きに変わっている。


「神宮さん、今回は彼の希望通りにさせてあげたら? 松島くんは他のチームメイトが負けたら、リタイヤしているから。今回もそうだと思うわ」


 藤の言っていることは分かるが、今回がそうだとは限らない。由美子の中ではこのちぐはぐな状態がもっとも不安なところである。


「絶対に勝つ自信があるのよね?」


「ある! 男に二言はね」


 由美子は自分の中のもやもやが消えない状態で、許可を出したくなかったが、周りは大地の意見に賛同している。たとえ、ここで負けたとしても勝利数では三チームが同点になるが、五芒星(ファイブスター)は今まで誰も戦闘不能になっていないため得失点差で必ず本予選リーグには進出することは分かっている。


 由美子は深呼吸をし、口を開いた。


「分かったわ。あなたに任せる。でも、必ず勝ってきなさい。そうしなければ、次から絶対に私の指示に従ってもらうわ」


「勝つのは当たり前だ!」


 その意気揚々を由美子はどうしても信じられなかった。


 市街地A、住宅地での戦いを想定した場所である。戦闘開始五分前に各チームは専用の運搬ボックスに入り、大会本部が決めれた所定の位置に運搬される。運搬ボックスでは呪具の通信機能の確認と、呪防壁の起動確認を義務付けられており、各学生は指示された所定の行動を取る。


「宮袋くん、聞こえる?」


 藤が作戦室にある通信機材を使って呼びかけると大地から返答が帰ってきた。


「ああ、聞こえるぜ、藤ちゃん先生」


「なら、いつも通り、皆に声を掛けてみて」


「お前ら、俺の声が聞こえるか?」


「うるさいわね。聞こえるわよ」


 朝子の返答に作戦室内外でも笑い声が聞こえた。


「宮袋くん、神宮さんが許してくれたけど、負けそうになったらちゃんと引きなさいよ」


「藤ちゃん先生、そりゃないぜ。おれは負けない」


「そうね、頑張ってね」


「大ちゃん、負けて帰ってきたら、ご飯抜きだよ」


「おい、そいつは困ったなぁ」


 大地との典子の夫婦漫才のようなやり取りに皆笑った。


「鞘夏、これまで通りサポートお願いね」


「はい、ゆみさん。サポートします」


「賀茂くん、まずは索敵お願いね」


「分かったよ」


「忠陽様の情報をデータにして皆様の呪防具に送ります」


 呪防具は合宿で忠陽たちが使っていたものから改良されており、小規模にマップを展開する機能が盛り込まれていた。これによって、どこに人員を展開するのか、また集合するのか簡単になり、戦術の正確性が生まれていた。


「賀茂くん以外の集合ポイントはアルファファイブよ」


「お姫さんよ、おれはそのまま松島さんの方へ向かっていいか?」


「まずはアルファファイブに集合して頂戴。他三人の居場所が分かったら、私と賀茂くんと、氷見さんで他の三人を抑えるわ。そうすればあなたが望んでいる一対一になるでしょう?」


「なるほど、さすがお姫さん」


「それ、馬鹿にしてるの?」


「違うぜ。本当に感謝してるだよ」


 由美子はそれでも釈然としなかった。


 総合体育館での一室では市街地Aの観戦会場があり、その場所には多くの観客が居た。そこには午前中に本予選リーグを決めたチーム武帝、チーム美周郎、チームエーメンがおり、設営していた椅子が足りないため、立ち見客さえ居た。


「人気ですね、伏見先生」


 朝黒い肌に白く光る歯を見せながら宗は伏見に声を掛ける。伏見はそれに対して一瞥しただけで何も言わなかった。


「どうです、氷見さんの調子は?」


「誰かさんのおかげですこぶるええわ」


「そうか、なら良かった。この前、模擬戦をしたときのショックで調子を悪くしたんじゃないかと心配だったんだ」


「あのぐらい鼻っ柱を折っとかんと、後が面倒になるからちょうどええ」


「そう言ってもらえると助かるよ。彼女は我が校の未来を背負う人材だ。君が育ててくれるなら僕も安心だ」


「ほなら、君のところで育てればよかったんやんか」


「チームの構成上、どうしても彼女を選べなくてね。といっても、伏見君の方がさきに声を掛けていたみたいだけど」


「相性なら、こっちのチームでもさほど変わらん」


「魯くんが、彼女を押さなかったんだ」


 宗は会場の席に座っている魯を見た。


「その子が押さなかったからというて、諦めるのは【焔】らしくないな」


「止めてくれたまえ、その名は。今でも僕にはふさわしくない二つ名だ」


「近衛軍、祓魔部隊の元エースが何言うてんね」


「君だって、人のことは言えないだろう。……その話は止そう。お互い、古傷をえぐる必要はないはずだ」


「そうやな」


 宗はモニターを見た。


「学生の皆さん、こんにちは。今回、二次予選リーグCブロック第五戦目、チーム五芒星(ファイブスター)対チーム松島の実況を務めさせていただきます、蘭丸高校二年、富沢梅子と申します」


 観戦室では明瞭かつハキハキとした口調ながら、幼さが見える可愛らしい声が響き渡る。実況をしている梅子は会場席の中央に位置し、白い布を覆った特等席に他の係員と一緒に座っていた。


 実況は一次予選リーグからも行っており、ただ放映している映像が会場内で熱気を帯び、好評を博していた。その予想以上の反響に呪術統括本部は驚きを隠せないでいた。この実況の提案者は現在解説を行っている富沢梅子であり、梅子はこのお祭りには実況が欠かせないと夏休み中に呪術統括本部に直談判を行うほどであった。


 梅子は自信に満ちた状態で実況を行う。


「さて、今回、会場を見てみますと席がかなり埋まった状態です。これは私の実況のおかげしょうか。それとも、このマッチアップがそうさせているのか。どちらにしても非常に興味深い現象です」


 梅子は機器を操り、チーム表を画面に提示した。そこには忠陽たちの氏名と顔写真、松島達の氏名と顔写真が移されてた。


「何と言っても、注目人物は神宮由美子選手です。神宮選手は呪術を知るものなら知らないものはいない神宮家のご令嬢。現神祇公(じんぎこう)の御息女でもあります。一次予選リーグでもその戦いは優雅で美麗、危なげもなく完全勝利を収めています。武器登録は弓と長棒、そして得意な術は魔術と、どの距離からも攻撃ができる万能型の選手です」


 梅子は機器を操作し、由美子のパラメータを表示する。


「選手登録時のデータを見ると、そのステータスはすべて高く、その呪力量と呪力攻撃は参加選手でもトップを取っています」


 画面は由美子以外のパラメータを表示される。


「また、他の選手を見てみましても、宮袋選手は物理攻撃、呪力攻撃が高く、物理防御にも長けた選手であり、このチームの2枚看板と言ってもいい存在です。他には氷見選手は機動力と物理攻撃が高いため、非常に攻撃的なチームでもあります」


「何よ、なんで陽兄のことも言わないのよ!」


 鏡華は頬膨らませる。


「鏡華ちゃん、お兄さんが凄いことは皆すぐに分かるよ」


 鏡華は友人に宥められていた。


「さて、一方、チーム松島ですが、注目は松島選手。物理攻撃は一位、物理防御は三位以内とその能力の高さは伺えますが、呪力に関してはあまりいい数値とは言えません。この戦いではいかに松島選手を懐に入れさせないかですが……」


 梅子は言いにくそうに言葉を繰り出した。


「松島選手、この一次予選リーグではほとんど後方におり、戦いに参戦していません。また、二次予選リーグでは自分以外の選手が戦闘不能となった場合、リタイヤをしています……」


 白いタンクトップ、白いズボンを着た金色の獅子髪をした星玉嗣は席であぐらを掻きながら、笑っていた。


(なる)ちゃんが、まともにやるわけないじゃん。でも、今日は大ちゃんがいるからまともにやるかもよーん」


「さて、試合開始まであと十秒。カウントダウンを始めていきます」


 観客全員が梅子の後を続くようにカウントダウンし始めた。


「三、二、一、試合開始です!」

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