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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 偵察!! チーム美周郎 其の二

 朝子と亜門、(そう)は演習場の中心に行く。


「それじゃあ、ルールを言うぞ。ルールは一本先取。相手の降参させる、気絶させる、武器を落とす、戦闘継続が不可能と、僕がどれかに当てはまると判断したとき、決着とする。異論がないのなら、両者互いに向かって礼」


 朝子はその決着方法に異論がなかったため、亜門に向かって一礼する。亜門は胸を張りながら、朝子に一礼する。朝子はそれを虚勢だと思った。


「武器を構え」


 朝子は右肩と鉄鞭を亜門に向けて、構えた。一方亜門は鉤鎌刀(こうれんとう)を中段に構え、その切っ先を朝子に向ける。


「始め!」


 先手を取ったのは亜門だった、鉤鎌刀で朝子に向かって突いた。

 

 朝子はその突きを刃のない方へ避けつつ、鉄鞭を鉤鎌刀の柄に当て、刃渡りのように当てて進んだ。亜門はそれを見ると、すぐさま鉤鎌刀を引く。朝子は刃先が後ろからやってくることを思い、すぐに飛び退き、鉄鞭を鞭の形態に変え、相手の手を狙うも、その攻撃を亜門は切り払いで打ち返す。


「へー」


 甘利は朝子の鞭の使い方を見て、興味深そうにしていた。


 葉は朝子の鞭の攻撃を後退しつつ切り払っている亜門を見て、朝子が押していると思った。


「いけるよ、朝子!」


「そろそろですかね……」


「そうだな」


 (おろか)と甘利のやり取りに葉は言葉を漏らす。


 十合切り結んだ後、朝子が放つ鞭の穂先を亜門は素手で掴んだ。その瞬間に鞭はビタッと止まり、朝子は穂先から引き寄らせる力を感じ、逆に自分の方へ引き返した。


「ふん。所詮は鞭。威力はたかが知れている」


 朝子は奥歯を噛み込み、力強く引っ張るも亜門はびくともしない。亜門はその力の掛かり方を読み取り、穂先から手を離す。急に反対側の張力を失った朝子は後方へと転がり、体制を立て直そうとした瞬間、亜門は眼の前に居た。


「いぃぃやあぁぁぁ!」


「そこまで!」


 振り下ろされた鉤鎌刀は宗の掛け声で朝子の頭の上で寸止めされる。


「駄目じゃないか。相手を気絶させるといっても、相手に怪我を負わせようなんて」


「宗先生はそう言われなかったので」


「亜門くん、その鉤鎌刀は木でできているとは言え、凶器だ。君はもう少し自制心を身に着けなさい」


 亜門は鉤鎌刀を地べたにおき、膝をつき、両手を体の前で組み合わた。


「はい、師傅(しふ)


 宗は困った顔をして、もういいと手で亜門を遠ざけた。亜門が魯と甘利の元へ戻るのを見ると、宗はすぐに朝子へと駆け寄った。


「怪我は……ないようだね」


 宗はその場で一歩も動けなかい朝子に優しく声を掛ける。


「朝子!」


 葉が朝子の元へ駆けつける。


「大丈夫、怪我していない?」


 葉が朝子の体を触ると、朝子はやっと葉に気づいた。


「ええ、あ、うん。大丈夫だよ」


「立てるかい?」


 朝子は葉の手を借りて、立ち上がる。


「おい、下級生! これで分かっただろう! 勝つの俺達のチームだ! 裏切り者はとっと出ていけ!」


 亜門は遠くから高笑いする。


「アァァモン!」


 その怒気を含んだ宗の声は演習場に響き渡り、亜門を怯ませた。葉はいつもの朗らかな宗とは違う表情を見たとき、恐ろしく感じた。


 亜門は甘利に殴られており、強制的に頭を下げさせられていた。


「あ、いや、大声を出してごめんね。気をつけるよ」


 亜門は葉にいつも柔和な笑顔に白い歯を見せ、落ち着かせようとしていた。


 その後、朝子は宗と葉に保健室へと連れて行かれ、藤も呼ばれていた。


 藤は保健室に来て、朝子の呆然とした顔を見るなり、何事かと心配した。


「いやー、ごめんね、藤先生」


 亜門との試合の経緯を宗から聞き、藤は困った顔をしたが、宗を責めることだけはしなかった。


「事情は分かりました。こちらこそ申し訳ありません。あとは私の方で対応します」


「本当にごめんね。僕もこうなると思っていなかったから……」


「いえ、いいんですよ。氷見さんの態度が悪かったんでしょうから」


 宗が保健室から出ていくと、藤は朝子の手を取り、朝子の顔を見る。


「どうしたの? そんなに(ほう)けて。負けて悔しかったの?」


 藤の言葉に朝子は口を尖らせる。


「亜門くんが怒るの当然じゃない」


「藤ちゃんはどっちの味方なの?」


 朝子はやっと口を開いたが、その声は涙で濡れているようだった。


「私? 私は氷見さんの味方よ。でも、今回は違うわ。だって、氷見さんは私の顔も潰したし、宗先生の顔も潰したのよ。それに相手のチームをバカにした。怒らない人がいると思う?」


 藤の口調は優しかった。


「藤ちゃんの意地悪……」


「負けたぐらいで何よ。合宿のとき散々負けてたじゃやない。なんども痛めつけられてじゃない。でも、最後はあんなに互角に戦った。今日も一緒よ」


「分かってる。分かってるけど……」


「それはあなたの中の驕り。伏見先生が言ってたでしょう? 死ぬ気で戦わないと勝てないって」


「私のこと裏切りものって言ったんだよ……」


「それは亜門くんが悪い。でも、分かったでしょう? 神宮さんたちがなんで一所懸命になって情報を得ようとしているか。もし、亜門くんの強さを知ってたら、戦い方をもう少し考えられたでしょう。神宮さんはね、本当に勝ちたいのよ。だから、一次予選リーグのログを全部見て、気になるチームの対策をしようと考えている。合宿で習ったことをやってるのよ」


「それはお姫様だから……」


「違う。賀茂くんだって、真堂さんだってやってる。小さくて、地味だけどやってるわ。あなたにもできないわけないわ」


 朝子は口を閉ざし、俯いた。


「森田さん、あとお願いしていいかしら?」


「う、うん」


「氷見さん、気持ちを切り替えなさい。明日はいつも通り、戦って勝つのよ」


「分かったよ、藤ちゃん」


 口を尖らせながら言う朝子を見て、藤は苦笑いしながら、保健室を後にする。

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