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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第十話 神宮由美子の作戦会議 其の一

 五


 学戦リーグは六十四チームが参加しており、予選一次リーグは各AからPのブロックに分けている。各ブロック四チームの総当たり戦としていた。勝利すれば二点、引き分けは両者に一点、負ければ零点となっており、得点数が高い一チームのみ予選通過となる。


 予選を通過したチームは二次リーグへ参加し、そこでまた十六チームが四ブロック二別れ総当たり戦を行い、上位二チームが本予選へと進む。


 本予選に進むのは八チームとなり、その八チームが二ブロックに別れ、上位二チームが決勝リーグへと進むことになり、決勝リーグの総当たり戦で順位を決める。


 期間としては二週間に及び、呪術学校の演習としては大規模なものとなっていた。


 演習場は学戦で使用している四つの演習場、低層住宅地を模した市街地A、更地である市街地B、ビル廃墟群である市街地C、旧海浜公園跡地である平地Bと新たに陸軍よりこの学戦リーグ中に借り受けた陸軍演習場の平地Aであった。地形効果を得られるのは市街地Aと市街地Cであり、他の三つの演習場はまっ平らな場所であり、地形効果を得られる場所ではなかった。


 現地での観戦は危険なため、開会式が行われた総合体育館が特設会場としてモニターと実況を行うようにしている。会場は学生や学生の関係者であれば無料であり、収容数は千人規模まで拡張されていた。また、本予選リーグからは現役陸軍の解説も入り、お祭り騒ぎのような様相を呈していた。


 これは資本参加として一条財閥が入っており、自社製品の拡販を狙ってのことだということが由美子の口から言われていた。


「ほんと(したた)かよね、あの女……」


 忠陽は優勝者に三千万ぐらいは出してもいいと言った理由がここにあるのだと子どもながら恐ろしく感じた。


 午後に大地は合流し、一戦目が始まった。忠陽たちはFブロックで、一戦目の相手はフー・ファイターズと呼ばれるチームだった。場所は海浜公園跡地の平地Bである。最初のスタート時は演習場に用意されたボックスに入り、そこから機械が任意の地点に空輸され、時間になるとボックスが開く。選手がボックスから出ると、すぐにボックスは運搬機ごと撤収される。


 そこからはチームの指示によって、集合するのか、個別で戦うかを選ぶ。大抵のチームは個別で戦うことが多く、チームの合流したのは数えるほどだった。


 由美子が呪具で忠陽たちに指示をしたのは、各個撃破という指示だった。


「姫さんよ、いいのかよ、それで……」


 由美子の頭の中にかったるそうにしている大地の声が入る。


「別にいいわ。賀茂くんの偵察だと、そこまで気をつける必要はないし、わざわざ連携するまでもないと思うわ」


「そんなものかよ……」


「逆に手の内をさらす必要はないと思うの。フー・ファイターズ、フリースタイル・ミヤハ、不快指数のどれもが賀茂くんの偵察に気づいていないみたいだから」


「なんで、ボンの偵察が基準になるのよ」


「じゃあ、聞くけど、合宿のときに兄さんたちはなんでも賀茂くんを先に倒したと思う?」


 大地は黙った。


「つまりは、そういうこと。賀茂くんのことを認識できないなら、私達一人ひとりがいつも通り対処すれば勝てると私は思ってる」


「さいかい」


「なによ、不満なの?」


 大地は何かを言いかけたが、口をまた閉じた。


「どうしたの? 言いなさいよ」


「いや、あんまりいい言葉じゃなかったから言わねえ」


 由美子は釈然としない気持ちだった。


「とにかく、今は一対一で勝つこと。これが予選でのやることよ。これ以上何かある?」


 忠陽たちはそれぞれ「ない」と口に出して、戦闘に入った。


 由美子がいうように忠陽は一対一で戦ったが、呪術を使うまでもない相手だったことには驚いた。単純に合宿で教わった体術で相手をいなし、隙ができたところを、急所を狙う。それで、相手が気絶してしまい、呪防具が選手を守るために強固な呪防壁を張り、拘束した。最初の戦いはものの五分もかからずに倒してしまい、観戦会場は驚きの声が上がっていたという。


 演習場控室にいた典子や葉はその強さに驚き、飛び跳ねながら喜んでいた。


「やった、やった! すごいよ、皆!」


「藤ちゃん、朝子たち優勝するんじゃない!?」


 藤は選手へのアドバイスる通信機を外し、喜ぶ二人を宥める。


「二人共落ち着きなさい。まだまだ始まったばかりよ」


「でもさ、そこの軍人さも褒めてたじゃん」


 通信機器や映像機器の調整をしていた軍人がぺこりと頭をさげる。


「まあ、あの合宿からすると物足りないかもね……」


 藤は彼杵でのことを思い出すと、から笑いをする。


 この後、五芒星は予選一次リーグを危なげもなく、通過した。一次リーグでは全員、ただその格闘戦の強さが目立ち、呪術を行使することはなかった。その強さは他のチーム以外にも視察に来た陸軍上層部でも一目を置かれる存在となった。


 二次リーグの抽選会が終わった後、その抽選結果を見に来た藤と忠陽と由美子と鞘夏は、二次リーグ出てきたチームのどのチームを偵察する必要があるかを考えていた。


「順当に行くなら、同じブロックよね」


「そうなんですけど、あい……伏見……先生が――」


 藤は由美子の抵抗に笑っていた。


「いいわよ、アイツでも……。三人だけだし」


「ありがとうございます」


「言いたくなる気持ちも分かるから」


「お言葉に甘えて。アイツが言うには、予備日の休息日を含めても調査する期間は徐々に削られていくって言ってたわ。なら、ここで決勝リーグに上がりそうなチームを考えておいたほうがいいと思うの」


「でも、それは難しいんじゃない」


「大丈夫です、藤先生。私、全試合ログも見ましたから」


 由美子はどうだと自信満々な顔をする。


 この天谷市内の学生と教員限定ではあるが、学戦リーグの対戦映像記録を見ることができる。


「神宮さん、すごいわね。私、まだ半分も見てないわ」


「それを見て、私なりに思ったのは、決勝リーグに進むのはチーム武帝、チーム美周郎、チームエーメン、チーム臥竜、そして、私達だと思うです」


「あ、私、エーメンと美周郎の対戦記録は見たわ。確かに強かったわ。エーメンって確か岐湊高校の武断派よね? しかも、この島で不良を集めてチームを結成してるでしょう? それだけあって、かなり戦闘力高めって感じだった。美周郎は確かうちの高校の生徒会長が率いるチームだけあって、呪術の基礎がしっかりしている感じだったわね」


「藤先生の仰るとおりで間違いないと思います。エーメンは呪術を使うというより、単純な戦闘能力が強いように感じます。わたしたちと当たって怖くはないのですが、あの星という人は、私は苦手だなって……」


「神宮さんにも苦手な相手なんているんだ」


 忠陽が笑っていると、由美子を頬膨らます。


「私にだってね、苦手な相手はいるの。特にこの星っていう人は型がないというか、水のように自由自在っていうか。捉えどころかないのよね。近寄られたら、結構厄介な相手よ」


「あ、それ、分かるかも」


 藤は由美子に同意した。


「じゃあ、神宮さんは美周郎よりエーメンのほうが厄介と思っているの?」


「いいえ、藤先生。私は美周郎の方が強いと思っています」


「どうして、私から見ても、呪術の基礎がしっかりしたチームとしか思えなかったわよ」


「それは表面的な戦いですよ。動きや、呪力の流れを見ていると各個人の力量はエーメンより上です」


 由美子は鞘夏に十インチぐらいの高機能端末を要求した。鞘夏は、その端末を由美子に渡す。


「それ、どうしたの?」


「各チームに二つ用意されてるの。一つは藤先生に、もう一つは私と鞘夏で使ってる。こんなものがあるなんて、便利よね」


 忠陽と藤は笑っていた。


「このログなんだけど、この映像に移っているのが美周郎こと周藤公朗、藤先生が仰っていた通り、東郷高校の生徒会長よ。見た目は細めで色白で美男子の顔をしてるけど、魔力量は私と同じくらいもっているわ。その魔力量に奢ることなく、使い方は繊細で一部で貴公子なんて言われるのも頷ける」


 由美子はログを進め、大柄で筋骨隆々の男にフォーカスした。


「このひとは黄倉欣司。魔力量は少ないけど、その硬さは尋常ないわ。たぶん、宮袋くんよりタフね」


「たしか、周藤くんの片腕と言われていて、いつも一緒にいるのよね、この二人。意外に悪知恵も働くし、学戦では周藤くんと二人でかなりの功績を上げているわよ。結構顔が怖いでしょう? 怒るともっと怖いから生徒たちの間では鬼黄倉って呼ばれているわ」


 由美子は頷き、またログを進める。


「この人は魯虎鷹、二人の戦いの裏をサポートしている印象が強いんだけど、その隙間を埋めるのが上手い。忠陽くんの戦い方に似てるけど、彼は盤面上が見えているようで、厄介な相手だと思う」


「神宮さん、私よりも生徒のことを知っているみたい」


 藤は苦笑いしていた。


「それで、最後がこの人、甘利高覇。戦い方はさっきのエーメンの星に似てるけど、その戦い方は肉弾戦そのもの。黄倉欣司より、攻撃的センスが高いように見えた」


「甘利くんはうちの学校でも武闘派で、腰に鈴を付けながら戦うの。鈴をつけて、わざと自分に引き付けることによって感情を高ぶらせているみたい。だから、学戦での通り名は鈴鳴りの甘利って言われている」


 忠陽は四人のログを見ても、動きが良く、相手を倒している姿を見ると強敵に感じていた。


「つまり、エーメンが気になるのは星さんて言う人だけど、美周郎は全員が星さんクラスってこと?」


 忠陽は由美子に聞いていた。


「そうよ。でも、美周郎より気になるチームは武帝と臥竜だったわ」


「神宮さん、私はまだ全部見きれてなくて申し訳ないんだけど、その武帝と臥竜っていうのはどう気になるの?」


「臥竜は端的に言うと、チームとしての動きが洗練されている。美周郎はあくまでも周藤公朗が中心になってその穴埋めを黄倉や魯や甘利していると感じなんだけど、臥竜はチームそれ自体が個にもみえるのよ」


「うーん。うまく言えないけど、ビリー隊みたいな感じ?」


 忠陽の問に由美子は首を振る。


「このログを見てほしいの。このシーン。敵が一人を発見して、追いかけてるんだけど、その裏から急に現れて、相手を行動不能にしてまう。他も一人が囮、一人が奇襲をかける。しかも、ミスが無かった。たぶん、かなりの練習を積んでいるじゃないかしら」


 忠陽は頷く。


「それ、竹中くんの作戦ね」


「藤先生、どうして分かるんですか?」


 忠陽は藤に聞いていた。


「今年の五月の学戦のとき、同じ作戦をやられて、東郷高校の本隊が包囲されたんのよ。周藤くん、そのことをかなり根に持っていたわね。たしか、十面埋伏の計だったかしら……」


「なんですか、それ?」


「私も詳しく知らない。でも、あの子、たしか古武術を習っていて、そこで奇門遁甲を習ってた言ってたかしら」


「式占術……。こういうのは賀茂くんの領分かしら?」


「僕は式占術はやったことがないよ。確かに古代から戦をするときにその吉凶を占ったり、占いの結果から戦い方を変えたりっていうことは聞いたことがあるけど、そこまで警戒する必要はないかと思う。伏見先生の方がもっと分かるんだと思うけど……」


 忠陽は藤を見て、互いに苦笑いをした。


「伏見先生に聞くのはちょっとフェアじゃないかもしれないわよね……」


「いいんじゃないんですか? 大会当日のサポートが駄目なのであって、それ以外で聞くのは。もし、駄目だったら、賀茂くんに偵察を指示するのが駄目だと思うので」


 忠陽たちはあっさりとした由美子に驚いた。いつもなら、あんなに奴に聞くものかと言うぐらいに拒否反応を示すと思っていた。


「と、とにかく、奇門遁甲については忠陽くんがアイツに聞いてもらえる?」


「分かったよ」


「そ、それで、最後は武帝よね。このチームは連携が上手くて、この松前浩平ってという人が先頭で戦う形なの。遠山茉莉花は狙撃手で、松前浩平が作った敵の隙を狙っていた。この近藤稔という人は周りのサポートや囮役や撹乱をやっていたわ。ちょっと厄介かも」


「神宮さんの話だと臥竜と似たチームなのかな?」


「私もそう思うんだけど、よく見てみると、この(たけ)(まこと)っていう人、試合が始まってから動いていないの」


「動いていない?」


 忠陽は眉をひそめる。


「藤先生、この(たけ)(まこと)さんについて知ってますか」


 忠陽が藤に尋ねていた。


「岐湊高校の生徒会長、岐湊ではたしかチーム名の武帝と呼ばれていたはずよ。彼が二年生のときに彼と一度だけ話したことがあるけど、温厚で凄くいい子だったわ」


 由美子はログを巻き戻しながら見返していた。


「やっぱり気になるの?」


 忠陽の問に由美子は頷く。


「ほとんど動いていないのは気になるわ。どのチームでも全員接敵しないということはないから」


「単純に松前さんや、遠山さん、近藤さんが強いってことはないかな?」


「それはあると思うわ。でも、気になるのよ」


「なら、僕はそのチーム武帝を偵察するよ」


 由美子は動画を巻き戻す手を止めた。


「で、でも……」


「その代わり、神宮さんは臥竜を偵察してきてよ」


「別にいいけど、私が行くと、かえって警戒しない?」


「それはするだろうけど、あの生徒会長と心理戦できるの、神宮さんしかないよ」


「それって私が腹黒いってこと?」


 鞘夏と藤は笑っていた。


「ち、違うよ! 僕だと、かえって生徒会長に手の内を読まれないかなって」


「分かったわ。私と鞘夏で堂々と偵察するわ」


「なら、美周郎は私に任せて」


 藤は意気込んでいた。


「藤先生、いいんですか? 裏切り者とか言われそうな……」


「あーー、そういうの慣れてるから……」


 藤の乾いた声に忠陽なにか古傷を抉ってしまったように思えた。


「それに、今回は私が動くというより氷見さんを動かしてみるわ」


 忠陽と由美子は余計に心配になってしまった。

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