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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第十話 学戦リーグ開会式 其の一

 四


 学校間呪術戦対抗試合トーナメント。通称、学戦トーナメントは、今まで行っていた学戦では見きれない個人の力量を見るために、今回から新設された少数行うチーム戦である。


 一チーム、最大六人登録でき、そのうちの一戦ごとに四人を選出し、出場する。また、残りの二人と担当教諭はサポート役として、戦闘中にオペレーター兼アドバイサーとして呪防具を通じて、通信することができる。


 今回、出場チームが六十四チームと予想以上に多いこともあり、また個人の力量を見るなら戦う回数が多いほうが良いとの考えから、本来のトーナメント方式から総当たり戦のリーグ戦へと移行することとなった。そのため、案内文やチラシには学戦リーグと無理やり修正することとなった。


 この他、呪術統括部は当初、同じ学校での出場と予想していたため、学校間呪術戦対抗試合と冠を変えずにいたが、忠陽たちような違う学校でチームを組んだのが、数チームあったため、呪術研究都市高等学校呪術戦対抗試合にしようかとの話し合いがあった。どれも長い名称であり、修正にコストが掛かるため、そのまま学校間呪術戦対抗試合を使うことにしたらしい。


 学戦リーグの開催当日、初めての試みでもあるため、盛大に開会式が行われることになった。各省庁からの高官の出席、神祇庁から神祇公の出席、皇太子の行啓と一地方都市の学校行事としては異例の対応である。


 開会式当日、忠陽たちは会場となる総合体育館に一時間半前に到着していた。実際に開会式が行われるのは十時からではあるが、運営委員から保安の関係上一時間前ぐらいには入場手続きを行うようにとのお達しがあったからである。


 由美子はそれを聞いて、「あんな奴撃たれて死ねばいいのよ」とらしくない言葉を発していた。


 集合場所の総合体育館の東口の前には学生とその関係者で溢れかえっていた。談笑の声は一つの音として生まれており、そこを通る一般の人達は顔を覗かていた。


 集合場所には先に由美子と漆戸がおり、続いて忠陽と鞘夏、藤と朝子、もう一人、学戦で会ったことがあった森田葉という女子生徒と一緒に来ていた。


「あ、久しぶり!」


 葉は由美子を見るなり、手を振りながら、笑顔で挨拶した。


「あなた、たしか葉さん。どうしたの、こんなところに?」


「藤ちゃんが暇だったら手伝ってっていうから、来ちゃった」


 由美子は藤を見ると、申し訳無さそうな顔していた。


「この子にもこのチームの手伝って貰おうと思って……。高畑さんだけじゃ、結構キツイかなって」


「いえ、全然構いません。むしろ歓迎します」


「別に藤ちゃんがお願いすることないじゃん」


 朝子はいつものようにぶっきらぼうに言う。


「氷見さん、神宮さんはこのチームのリーダーなんだから当たり前でしょう」


 朝子は顔を藤から反らし、話を聞かないようにしていた。


「もう、この子ったら」


 由美子も苦笑いしてた。


「ま、そんなんだからよろしく。神宮さん」


「由美子でいいわ」


「じゃあ、私のことも葉って呼んで」


 お互いに笑顔で握手を交わす。朝子はその行為を見て、眉間にシワを寄せる。


「おはようさん、皆集まっとるか?」


 白髪でサングラスを掛け、右腕がない男がヘラヘラとやってきてた。それぞれ伏見に挨拶をした。


「宮袋くんがまだです」


「さいか。賀茂くん、一応典子くんに電話してくれるか?」


 忠陽は頷き、典子に電話すると、まだ大地と一緒に家に居るらしい。典子が大地を起こしに来たがなかなか起きなくて困っている状態だった。


「まあ、しょうがないな。今日、うちらのグループは午後やから最悪はそれに間に合えばいいやろ」


「あなたね……」


 由美子は額に手を添える。


「しゃーないやろう。それとも姫が向かいにいくか?」


「私がなんで行かないといけないのよ!」


「そいつはそうだな。できれば、俺の晴れ姿を見てほしいんだが」


 由美子はその声を聞いて、肩をビクッと動かす。声の主は固まった由美子の後ろに立ち、由美子の方に手を乗せる。


 短い綺麗整えられた顎髭に、サングラス姿と帽子を傾いている。後ろ髪がお団子のようにまとめれられており、姿を見れはどこかのイケメンなおじさんに見えてしまう。


 その男のうしろには気品の女性が居た。茶色のカラーパンツに暗い藍色の半袖に鍔広の帽子を被っており、どこかのセレブに感じてしまう。


「なんや、ここにおってええんか?」


「久しぶりにあったというのにその言い方はないだろ。辰巳」


「お前がここにおったら騒ぎになるさかい、はよ去ね」


 男の整えられた短い髭を触った。


「ひどいよなー。ゆみー。せっかく、顔出してやったのに、この冷たい態度はな」


 由美子は体を小刻みに震わせていた。


「お久しぶりです。尊仁様」


 漆戸は頭を深々と頭を下げる。


「おー九郎。久しぶりだな。最近、こっちに顔を出さないと思ったら、やっぱりゆみの所に居たか」


 尊仁が由美子から手を放した瞬間、由美子は漆戸の後ろに隠れた。その姿には朝子も藤もあっけに取られていた。


「なんだ、なんだ、ゆみ。お前はまだお子ちゃまだな」


 由美子は顔を覗かせながら警戒するように睨みつけていた。


「お前が嫌いなんや。仕方ないやろう」


「相変わらずの毒舌だなー、辰巳。まあ、元気で何よりだ」


「護衛の者はいかがされました」


 漆戸の問に尊仁は頬をポリポリと掻いていた。


「撒いた」


 漆戸から苦々しい吐息出ていた。


「これは見直しの時期かもしれませんな」


「おい、止めろ止めろ。お前が口出すと俺の楽しみが無くなる!」


「では、その行為を改めてくだされ。いいお歳になのですから分かりましょう」


 由美子が漆戸の後ろから「そうだ、そうだ」と口を出していた。


「九郎、せっかくゆみたちにと思って来たんだ。護衛を連れてたら、堅苦しくて話したいことも話せないだろう」


「それであれば、我が屋敷でも構いませんでしょうに。ご自分のお立場をお考え頂かないと、先々姫様の教育にも悪い影響与えかねません」


 尊仁はぐぬぬと声を発し、言い返せなかった。


「ともあれ、来られたのは何用で?」


 尊仁は顔色を変え、笑顔になった。


「九郎、丸くなった」


 漆戸の目がギラリと光る。その圧に押され、尊仁は一旦引くも、すぐに咳き込み、姿勢を正す。


「まあ、今回はゆみがこの学戦リーグなるものに出るのだろう? その激励で来た。チームのメンバー誰なんだ? 紹介してくれよ」


 漆戸は伏見を見ると、伏見は頭を掻きながら、紹介し始めた。


「チームメンバーは五人、一人目がお前の大好きなゆみちゃん」


「その名前で呼ぶな!」


 伏見はその叫びを気にせず、次には朝子を紹介した。


「お次は氷見朝子君」


 朝子は尊仁に自然と頭を下げていた。


「ほんで、彼が賀茂忠陽君」


 忠陽が頭を下げようとした瞬間に尊仁は忠陽に近づき、まじまじと見ていた。


「僕になにか?」


「いや、お前は至って普通な人間な気がするが……」


「やめい。ささっと離れいや」


「スマンスマン」


 尊仁は忠陽から離れた。


「それで、彼女が真堂鞘夏」


 鞘夏は頭をさげる。


「うん? 四人じゃないか。あと一人は?」


「あと一人は絶賛寝坊中。名前は宮袋大地や」


「ほう。大物になるな、そいつは」


「お前に似て、態度がデカいだけや」


 尊仁は大笑いしながら、伏見の背中を叩く。


「そちらの御婦人と生徒は?」


「そっちが担当教員の藤日那乃君。生徒は今日からサポートに入ってくれた森田葉君や。あと一人、サポート役に高畑典子君がいる。生徒七名、先生一人のチームやな」


「お前が担当教員じゃないのか?」


「実行委員からは外されてるんや。仕方ないやろう」


「なんだ、つまらん。お前の采配を見るのも楽しみだったんだがな。チーム名は何と言うんだ?」


「五芒星と書いてファブスターって言うんや」


「ファイブスター。中々いい名前ではないか」


「彼らになにか言わんのか?」


「お、そうだたった」


 尊仁は咳払いをする。


「今回の呪術大会、もちろん優勝を目指していると思うが、一番は楽しむことだ。……と言っても呪術で楽しむというはなにかおかしい気がするがな」


 尊仁は苦笑いをする。


「ゆみ、いい表情をした仲間ができてよかったな。チーム戦は一人では戦えない。皆仲良くとはいかないだろうが、チームで勝つために頑張ってほしい、以上だ」


 全員が無言状態になってしまった。


「ほら、皆、お礼言うとかんと。この男のマジメな有り難い激励なんてそうそう受けられるもんやないで」


「おい、辰巳!」


 慌てて忠陽たちはバラバラにお礼を言っていた。


「兄上」


 後ろから豪奢な礼典ようの軍服を来た男が走って来た。


「おー、尊成。見つかったか、スマンスマン」


 尊成は漆戸を見て、深々と頭を下げ、漆戸もそれに返礼していた。その後、尊仁に近づいた。


「早くお戻りください」


「分かった。だが、少し待ってくれないか。もう一つ、用事を済ませたい」


 尊仁は忠陽近づく。忠陽はその行動に胸が締め付けられる。


「お前が、賀茂忠陽か。武からは大体のことを聞いてる。想像していたよりも小さい男で驚いた」


 忠陽は鍔を飲み込む。


「お前は私に仕える気はないか?」


「ちょっと!」


 由美子は漆戸から体を出し、大声を上げる。それを見て、尊仁は笑い声を上げる。


 忠陽は急なことで驚き、状況を飲み込めない。


「ゆみはお前が私に仕えるのが嫌みたいだな。だが、この言葉を忘れるな。私はお前だったら、構わないと思っている。もし、その気があるなら、伏見に言え」


「あ、あの……。僕はあなたが何をしている人かよく知りません……」


 忠陽の答えに尊仁は吹き出し、笑い声を上げる。


「そうだな、そうだったな。まあ良い、すぐに分かる。だが、暁や神宮に気に入られるとこうなることを理解しておけ」


 尊仁は忠陽の肩を強く叩き、笑いながら、後ろに居た女性と尊成とともにその場を去っていた。


「あのおじさん、何者なの?」


 朝子が伏見に聞いていた。


「別に知らんほうがええよ。……といっても、そのうち分かると思うわ」


 朝子は釈然としない気持ちでいた。


「あーいたいた!」


 そう声を上げて、走ってきたのは月影奏と橘樹、葛城蔵人だった。奏は数週間前の戦闘服姿ではなく、黒を貴重とした礼装用の軍服姿は孫にも衣装と言える。左胸には勲章が数個あり、輝いていた。ベレー帽がブカブカなのか、へんてこな被り方となっていた。それと対比するのではないが、蔵人の服装を見ると立派な軍人のように見え、凛々しくもあった。樹はいつものように肌露出が多い、タンクトップに短パン姿と周りの男子学生から視線を集めていた。


「なんや、奏ちゃんも来とったんかいな」


「八雲が来てるんだから当然でしょう?」


「そりゃ災難なこって」


「そうよ。護衛対象がいつの間にか居なくなってるんだから。八雲がもしかすると辰巳さんのところに居るんじゃないかって言うから来たのよ」


「入れ違いやな。弟が迎えに来て、もう帰ったで。だぶん、すぐ戻ると思うわ」


「なによそれ。本当に困ったお人みたいね。」


「しゃあない。いたずら好きは変わらんようやで」


「まあいいわ。蔵人」


「確認取れたよ。今、八雲隊長も連絡が取れて、八雲隊長のところに向かっているらしい」


 奏はため息をつく。


「あれ? あのクソガキはどうした?」


 樹が忠陽に訪ねていた。


「寝坊です」


「あははは。アイツらしいじゃねえか」


 忠陽苦笑いをするしかなかった。


「で、なんでゆみちゃんは姿を隠してるんだよ」


 由美子は漆戸のスーツから手を話し、何でもないかのように装った。


 樹は顔をニンマリとし、由美子に近づく。


「ははーん。八雲の言う通り、バカ皇子にイジメられたか? 大丈夫、お兄ちゃんが仇を打つと言ってたぞ」


「イジメられてないわよ!」


「ムキになるところ怪しいな。よし、このお姉さんがヨシヨシしてあげるから、おいでー」


「子供扱いしないでよ!」


 子どもの遊びのように睨み合う二人を見て、奏はため息を吐く。


「樹、余計なことをするな!」


「なんだよ、奏。寂しいのか?」


「違うわよ!」


「もう、甘えたりない妹ってのはどうしてこんなにツンデレなんだろか」


「この変態!」

「このバカ!」


 由美子と奏の両方に責められ、樹は喜び笑いながら二人と言葉責めの応酬交わす。蔵人はクスクスと笑い、葉もその光景を始めてみたがあの神宮由美子が取り乱しているの見て、面白おかしくつい笑ってしまった。


「予選は今日からだっけ? あたしらが手伝った手前、予選落ちはやめてくれよ」


「そんなことはないわよ!」


「ほほーん。だったら、予選落ちしたら、あたしとデートしてくんない?」


「なんであなたとデートしなきゃいけないのよ」


「いいじゃん。減るもんじゃあるまいし」


「いやよ。何をされるかわかったものじゃないわ」


 奏が「確かに」と呟くと周りから笑いが起きていた。


「あれ、辰巳さんは?」


 奏が辺りを見回すと伏見が消えていた。


「もう。伝えたいことがあったのに……」


「なんだ? 奏、お前も寂しいのか?」


「違うわよ。仕事よ、仕事!」


「賀茂、辰巳さんに後で電話をくれるように言ってくれない?」


「はい、分かりました」


「私達、色々あって、この大会が終わるまで天谷に居るから。もし、なにか聞きたいことがあるなら電話でも掛けなさい。はい、これ番号」


 奏は電話番号を書いた紙切れを忠陽に渡した。


「ありがとうございまず」


「奏、もしかしてお前、賀茂目当てだったのか?」


 奏は樹の頭を反射的に殴っていた。


「どうしてそうなるのよ。樹が言ってただけど、私としてはせめて決勝リーグに残ってもらわないと困るわ。しっかりしなさいよ!」


 奏は言うと、忠陽たちから離れていった。


「皆、君たちには期待してるから頑張ってね」


 蔵人はその顔に似合うようにハンサムな笑顔で、周りの女学生たちから黄色い声を挙げられていた。


 樹はなにか企んだ笑みを浮かべて、手を振りながら去っていた。


「なんだか、すごそうな人ばっかりやってきたな。藤ちゃん、これも由美子のおかげ?」


 藤は葉の問に苦笑しながら答えた。


「そうじゃないわ。あの人達は合宿をしたときにお世話になった人たちよ」


「へー、軍人さんと合宿してたの? 朝子、どうだった?」


「思い出したくない」


 葉は返答で想像絶するものだと理解した。


「最初のおじさんたちも藤ちゃんは知ってるの?」


「知らないわ。たぶん、あっちの人は神宮さん関係っぽいけど……」


「てか、伏見先生ってナニモンなのさ。交流の幅凄くない?」


「伏見先生は……」


 藤は元軍人だと言おうとしたが、既で止めた。あまりこういった情報を漏らすのも良くないと考えたからだ。


「どうしたの、藤ちゃん?」


「さっきの、ベレー帽被ったお姉さん居たでしょう?」


「うん、あたしより背が小さかった人?」


「あの人、伏見先生の従兄弟なのよ」


「あー、道理で」


 朝子はその藤の誤魔化し方に難色を示していた。


「そ、それにしても、伏見先生、どこに行ったのかしら……」


 藤は辺りを見回したが、伏見の姿は見えなかった。


「か、賀茂くん。探してきてくれない?」


「え。わ、分かりました」 

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