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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第十話 不思議な携帯ショップ

 六人は中央街の駅を降り、海運通りへと出る。店はビジネス街の一角にあり、それなりに客引きを行っていた。


 中に入ると普段家電量販で目にする価格や機種のスペックなどを満載にした情報量の多い広告表示はなく、まさにお客様をもてなすラウンジでのような空間だった。製品は一つ一つをキレイに飾られ、必要とあれば従業員が側に行き、内容を説明している様はコンシェルジュのような様相だった。


 そこへ制服を着た大地たちのような子どもが入ると、どうしても視線がそちらへ向く。従業員は大地たちに気づき、側に近寄ろうとした。


「あら、大ちゃんじゃない」


 野太い絡みつく声で大地を呼ぶと、近寄ろうとしていた従業員が止まる。


 声の方を見ると、顔にはファンデーションを掛けており、口紅は真っ赤だが、ゴリラのような顔と体格の男が居た。


「おう。昨日の話した件で来た」


「あらあら、女の子がいっぱいじゃないの。これ全部、大ちゃんの彼女?」


「違うわ」


「なんでよ!」


 由美子と朝子の反応をみて、男はくすりと笑う。


「ふられちゃったわね」


「なんでそうなるんだよ」


「典子ちゃん以外に女の子を連れてくるって聞いたから、彼女なのかと思ったけど違って残念だわ」


「ちげーって言ってただろう」


「ま、いいわ。自己紹介するわね。私はこの店のオーナー、釜健太、略してカマケンよ。よろしくー」


 女性らしく、握手を一人ひとりに求め、名前を交わし、忠陽の眼の前では舌なめずりをする。


「大ちゃん、この子、いいわ。食べちゃってもいいかしら?」


 カマケンの野太い真剣な声で、忠陽は背中に鳥肌がすぐに握手した手をすぐに放した。


「いいわけねえだろう!」


「残念ね。正太郎くんみたいな感じで、可愛らしいから」


「正太郎って誰だよ?」


「金田正太郎、知らない?」


「ショタよ。ショタ」


 朝子の言葉に忠陽たちは首を傾げる。


「あら、お仲間?」


「違うわよ! なんで私がショタコンなのよ。大体、私は女よ!」


「分かってるわよ。でも、あなたショタの才能がありそうだから、ついね。私はオネエでもあるけど、オカマでもあり、貴腐人でもあるの。人を見抜く力はあるわよ」


 由美子は愛想笑いをしながら、自分が初めて見る存在を肯定しようとしていた。


「挨拶はこのぐらいにしておいて、携帯よね。何がいいのかしら?」


「特にこの機種ってのはないんだけど、グループチャットができるやつがほしい。この二人の携帯を選んでほしいんだ」


 大地は由美子と鞘夏を指差す。


「この二人?」


 カマケンは二人をじっと見つめ、その後は二人の周りを歩く。歩き回ったあと、従業員を呼びつけ、黒色の皮が貼られているトレーを持ってこさせてた。


「このトレーに携帯を置きなさい」


 由美子は大地を見る。


「いいから、言う通りにしてやってくれよ」


 由美子は自分の携帯を取り出し、トレーの上に置いた。それを見習うように鞘夏も携帯を取り出し、トレーに置いた。


 カマケンは従業員に手を差し出すと、従業員は白い手袋を差し出す。カマケンはそれをつけ、まずは由美子の携帯を取り上げ、あらゆる角度から見ていた。


「あら、あなた以外にお転婆さんなのね。携帯の角に傷が着いているわ。携帯を投げたりしちゃ駄目よ」


 由美子は急に顔を赤くした。


「でも、キレイに使ってるのね。こんな古い機種を大事に使ってるのは分かるわ。思い入れがあるのでしょう?」


 由美子は頷く。


 その様子を見て、カマケンは笑う。


「由美子ちゃん、可愛らしいわね。立ち姿からでもそんじょそこらのお嬢様じゃないことは分かるけど、花も実も両方を備えるいい女に慣れるわ。でも、もうちょっと素直になったほうがいいじゃない?」


「どういう意味ですか?」


「答えてもいいけど、それは藪よね」


 由美子はなぜか敗北感を持ってしまった。


「次は、鞘夏ちゃんのね」


 鞘夏を見て、携帯を見るとすぐに置いてしまった。


「鞘夏ちゃんはこのままでもいいじゃない? 変える必要がないわ」


 鞘夏は黙ったままだった。


「せっかく来たんだから変えろっていうないか、普通?」


「バカね、ここに来ているお客はそういうことを望んでいるんじゃないの。望まないものを売っても意味がないわ」


 カマケンはカタログを取り出し、携帯を見ていた。従業員に呼びつけ、そのカタログを指差し、持ってくるようにと指示をする。従業員はすぐに革張りのトレーで携帯が運んできた。


「さ、由美子ちゃん。あなたにはこの携帯をオススメするわ」


 携帯は質素なものであり、流行りの高機能携帯ではなく、二つ折りの昔ながらの製品ではあった。


 由美子は警戒しながらも携帯を手にする。その携帯は前と同じような操作感だった。


「おい、前と同じよな携帯だったら、グループチャットできないじゃないのか?」


「もう、大ちゃんはおバカさんね。ガラパゴスでも使えるわよ。由美子ちゃんの携帯の機能が古いだけでこの携帯の機能は最新式よ。アプリだって使えるの」


「そうなのか?」


「あのね、大ちゃん。私がオネエを辞められないように人には辞められないことがあるのよ。それを無理に変えては駄目よ。まあ、私は矯正されるのは嫌いじゃないけど♡」


「そういうもんかよ。で、姫さんどうなんだ?」


「え、前と同じような感じでイヤじゃないわ」


「そう、気に入ってくれてありがとう♡」


 由美子は触りつつも、真剣な顔をしていた。


「どうしたの、由美子ちゃん?」


「お勧め頂いてありがたいのですが、今日買うということができないので……」


「いいわ。取り置きしてあげる。親御さんにはちゃんと話すのよ。データの移行だったり、使い方は私がレクチャーするから、心配しないでね♡」


「ありがとうございます」


「それで鞘夏ちゃんはどうする? 変える?」


「いえ、私はこの携帯で構いません」


「そうね。その方がいいと思うわ♡」


 その後、カマケンは由美子に機器の代金と必要な書類などを記入した案内を渡した。


 その日、機種変更はできなかったが、三日後、由美子は再度その店へ漆戸とともに訪れ、機種変更を行った。それも漆戸も同じ携帯に変更したと忠陽は後日聞くことになる。


 機種変更の当日は二人でカマケンから優しく使い方のレクチャーを受けていた。カマケンは殊の外、漆戸を気に入ったらしく、自分の開いているバーへ招待していたが、仕事の都合上を理由に断っていたという。

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