第九話 死線を超えた先 其の三
咲耶たちと総将を分断させた忠陽たちは、そのまま総将に攻めた。
忠陽は石礫を放ち、総将を動かす。動いたところには鞘夏がおり、警棒で打撃を与えようとするが、総将はその警棒を軽々と掴み、蹴りで反撃を与える。
鞘夏は警棒を捨て、身を守るが、総将の蹴りの威力は強く、蹴り飛ばされてしまった。
忠陽と大地は鞘夏の所へ駆け寄り、鞘夏を起こす。
「私は大丈夫です」
二人はそれが強がりだということを簡単には理解できた。
「どうする、ボン? まずは分断成功だが、アイツ、むちゃくちゃつえーな」
「そうだね。八雲さんが優しいのが分かるよ」
「そうか? どっちにしようが変わらないと思うぜ」
大地は忠陽たちより前に出て、構えた。
「おい、ボン。何か考えはあるか?」
「……今のところは……」
「なら、俺が戦う」
その顔はいつもの強い奴と戦いたいという無邪気な笑顔だった。
「頼むぜ、相棒ッ!」
大地は忠陽に拳を突きつける。
忠陽は笑みをこぼしながら、その拳に突き合わせる。
鞘夏はその二人のやり取りに心の靄を感じていた。
大地は総将を見る。
総将は腕組みをしながら、リッラクスしている。眼前には敵がいるというのに、構えようともしない。
「いいのか、俺達が勝つぜ? 俺達は手を出さなければいいだけだからな」
「見え透いた挑発をするな。お前たちには刀を抜く必要もない」
「へっ、言ってろ。そのでけぇー刀はすぐに抜くことになるぜ」
大地の体に熱が帯びるのを忠陽は感じた。体の周りの像が屈折しているように見え、大地自身がまるで炎のように見えた。
大地は手に炎を出す。炎は小さく燃えていた。その炎を掴むと、指の隙間から炎が溢れ出し、拳を覆う。炎を総将向けて斜めに薙ぎ払いながら放った。
炎は弧を描きながら総将へ向かうが、直線的な炎の薙ぎ払いを総将は簡単に避けた。そして、大地に対して歩み寄る。
「どうした。仮に当たったとしてもそんな炎じゃ俺を焼けない」
大地は笑みを浮かべながら、さっきとは逆方向から薙ぎ払い、炎を放つ。
総将も同じように炎を避けながら、大地との距離を詰める。
大地は総将との距離を見て、大きな横薙ぎの炎を出す。炎は空気を焼きながら広がる。
総将は足を止め、腹部で受けた。受けた場所は燃えるどころか、炎が一瞬にして弾き消えた。
忠陽はなんと豪胆な漢だと思った。
「大地くん!」
「分かってるよ。ったく、相性がいいのか、悪いのか……」
大地は唾を飲み込む。
自身にこう言い聞かせた。俺がやれる事はたった一つしかない。
「心を……燃やせ!」
低く、強く呟くその声は踊る。大地の纏う空気はさらに陽炎を生み出す。それもくっきりと。
「おんなじ、炎の属性を持つ人間とはいつか戦ってみたかったんだ……」
総将は初めて構える。
「いいぞ、来い。お前の炎で俺を焼き尽くせるか、試してやる」
大地は両手を顔まで上げて、腰に据え、気勢を上げる。
「はあぁぁぁぁ」
濃密な魔力が大地から溢れ出始め、それが熱としてはっきりと映し出すと、もう一度、両手を顔まで上げて、腰に据え、声を上げる。
「点火!!」
大地は荒れ狂う大きな炎が生み出した。その勢いは今まで見たことがなく、忠陽はただ感嘆した。
炎は渦巻くように燃え上がり、大地に纏わりつく。
大地の服は白い煙を上げながら末端が赤黒く光り始めた。
「なるほど。だが、威力はどうだ?」
「てめえの体で受けてみな!」
大地が地面を翔けると、その一歩が黒い足跡を作り出す。黒い足跡は赤い煌めきとともに総将へと向かう。
総将はその炎を纏った大地と正面から戦う気である。両手の手のひらは開けてあり、胸の前で構える。顔つきはいつでも来いと相手を舐めたように見えた。
「ウラッ!」
大地は真正面から拳のストレートを放つ。
総将は片手で拳を往なしつつ、蹴りを入られ、大地の体を吹き飛ばす。
大地は直ぐに立ち上がり、再度攻撃を仕掛ける。
蹴りの態勢から戻しながら総将は笑みを浮かべ、「なるほど」と呟く。
大地の行動は総将と同じようにワザと攻撃を食らったように忠陽は見えた。その違和感は大地が動いたと同時に忠陽を走らせる。
忠陽の行動に気づいた総将は忠陽を一瞥し、大地との位置をずらすように動き始めた。
大地は拳に魔力を集中する。すると、体に燃え盛っていた炎の勢いは弱まり、拳の炎の勢いが強まった。
総将は「未熟」と呟く。
大地は同じように真正面から向かおうとするも、総将は距離を離れて、大地左側面に回り込もうとする。
「なんだよ、怖気づいたのか!?」
総将は大地を無視しながら、回り込んだ。
大地は向きを変えながら、相手に突進する。
「逃げんなよ、おら!」
大地はストレートの拳を放つと同時に炎も放った。
総将はその炎を予測していたのか、いとも簡単に避け、大地の懐に入り込み、腹部と顔を殴りつける。
大地はその拳の重さと威力で意識が飛びそうになり、纏っていた炎もとけてしまった。
総将は怯む大地に追撃しようとしたが、すぐに飛び退いた。
「どうした? 放たないのか?」
自分に対して狙いを定めている忠陽に総将は問うた。
忠陽は黙ったまま、構えをとこうとしなかった。
総将はゆっくりと忠陽へと歩み出す。
「俺が知っている術士の中で近接戦もできる奴はそうはいない」
忠陽は構えをとき、呪符を十数枚取り出す。
「姿を表しているお前は――」
忠陽は呪符を解き放ち、多数の烏を生み出す。
その壁をモノともせず、ぶち破るように一瞬にして総将は忠陽との間合いを詰めた。
「弱い!!」
総将の拳を捉えようとしたその瞬間、二人の狭い空間に紫の壁が現れる。
総将はとっさに拳を引こうとしたが、勢いは止まらず、拳が紫の壁に当たる。それでも壁にはヒビが入る。
忠陽はその拳が紫の壁には当たったときに、拳が止まる瞬間を見逃さなった。その止まった手を掴み、呪詛を流し込む。
総将は苦痛な顔を浮かべながら、手を振りほどき、飛び退いた。
「呪詛か……。だが、その術は未完成だな」
「それでも、貴方には十分効いてる」
「ほう、どうしてそう思う」
「僕に反撃をしなかった」
総将の口から歯が見える。その歯は獰猛な獣の牙に忠陽は見え、背筋が凍りつく。
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