第九話 必殺技 其の二
忠陽たち五人は、午後、演習場に集められると、そこには昨日と同じく、八雲隊とビリー隊、総将、良子がいた。
時間になると、良子が総将を見る。総将は頷き、一歩前へと出る。
「残すところ、今日の午後と明日の午前中までだ。明日の午前中は楽しいオリエンテーションを予定しているが、その前に今日まで地獄を見て貰う」
忠陽と大地は息を呑む。
「今日は課題が終わるまで徹夜だと思ってくれ」
「そ、その課題って何なんだよ?」
大地は恐る恐る総将に聞く。
「昨日、二佐から話があったと思うが、必殺技を作ることだ」
朝子と大地は耳を疑った。
「じょ、冗談よね?」
朝子が確認のため言葉を発したが、総将はにたりと笑う。
「いや、冗談じゃない。午前中の八雲隊との戦闘でも分かるように相手を倒す技を持つのは八雲妹ぐらいだ。他の者は敵に対しての決定打を持っていない。これでは力の差があれば必ず負けてしまう。逆転の一打を産むにも必殺技作っておく必要はある」
「確かにそりゃほしいけどよ。どうやって作るんだよ?」
「そのために俺達がいる。昨日は各個人の能力を上げるためにお前たちの戦い方に合った人間を配置したが、今回はそうじゃない。今までの戦いの中で技になりそうなものに必要な技術を持った人間を配置する」
五人は黙ったままだった。
「さて、始めるぞ。目標は技を完成させることだが、その輪郭を作るだけでも良しとする。できなければ、徹夜だ。二佐」
総将が良子を見ると、良子は口を開く。
「ゆみ」
良子は手招きで、由美子を呼ぶ。
「お前は屋外演習場で極光波の練習をしろ」
「は、はい」
由美子は気恥ずかしそうな顔をしていた。
「なんだ?」
「私、その……まだ一度も撃てたことがないんです……」
「あれぐらいの紫電を撃てるんだ。ゆみになら撃てる。自信を持て」
「はい……」
由美子は言われるがまま、外へと出ていった。
良子が次に呼び出されたのは朝子だった。
「お前は必殺技を作る必要はない」
「はあ!?」
「まあ、聞け。お前のやれることは他の者に比べて限られている」
朝子は口を尖らせていた。
「お前の攻撃を必殺技と同等の威力を持たせるしかない。蔵人、総将」
二人は良子の方を見る
「この女を連れて、近接戦闘での頭の使い方を教えてやれ」
朝子は二人を見るなり、顔をしかめる。
「さ、行くぞ。昨日みたいに乱暴にはならないから心配するな」
総将は朝子の頭に手を乗せ、頭をクシャッとする。朝子はすぐにその手を払い、二人の後についていく。
「アリス、お前は真堂を。特に防御術だが、治癒術も教えてやれ」
アリスは頷き、鞘夏に近づく。
鞘夏は忠陽を見る。その顔は不安そうであり、初めて見る顔だった。
忠陽は笑って見せて、鞘夏を送り出す。
「残りは二人だな……」
大地の背がしゃんと伸びる。
「賀茂、貴様は私と模擬戦だ」
大地は内心喜んだ。
「その前に、宮袋の方針を決める。貴様は何かイメージはあるか?」
「え? えーと。イメージと言われてもな……」
「なら、貴様も午前中の演習のときに炎を手に集中させていたな。アレを技として昇華させろ」
「あれを?」
「八雲、樹、奏、お前たちが付け」
三人は気怠げに返事をすると、良子に睨みつけられ、再度元気よく返事をし、大地を連れてその場から去った。
「さて、賀茂。お前は呪術が全て必殺技にはなる。お前はチーム戦のバランサーとしては優秀だ。だが、一対一でなら決定打に欠ける。私との模擬戦で、お前が苦手な身体能力の高い相手を制圧する方法を見つけろ」
「は、はい」
「お前にはその男とビリーと平助をつける。アドバイスを受けて戦え。防護呪具はなしだ。十分後に森林の演習場で始める。準備しろ」
「はい……」
良子がその場から離れると、ビリーと平助が近寄り、両肩に手を乗せる。その顔は哀れみとも、これから起こる未来を悼んでの顔なのか、忠陽の心に不安を残す。
その中、伏見が近づいてきた。いつものヘラヘラとした顔が忠陽には少し希望を持てるような気がした。
「忠陽くん、死ぬなよ」
忠陽は蜘蛛の糸を切られたような感覚だった。
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