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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第九話 演習 六日目 其の三

 樹が銃を構えることなく、由美子を見て笑った。


「お仲間との話し合いは終わった?」


 由美子は弦を引く。


「はい。答えは単純です……」


 その言葉に大地は頬緩ませ、歯を見せた。


「なんだそれ?」


 大地は樹に飛びかかり、まずは蹴りを入れようとする。


 樹はその飛び蹴りを避け、銃を突きつけようとする。だが、すぐに朝子の鞭が手に襲いかかるのを見て、銃をすぐに引き、後ろに軽く飛ぶ。


 樹が着地しようとしたとき、忠陽は十数個の小さな石礫を放つ。


 樹は魔術を起動させた左手の銃を石礫に向け、引き金を引く。すると、二十個ぐらいのつららが現れ、石礫を壊す。それどころかつららは忠陽に襲いかかる。


 それを見た大地は忠陽目掛けて炎を放つ。


 数個のつららを消すが、忠陽の眼の前にまで火が迫まる。


 弦音がなり、炎とつららはか消えた。


「何やってるのよ、少しは考えなさいよ!」


「わざとじゃねぇーよ!」


 朝子の叱責に大地は樹に近づきながら言い放った。


 朝子は、鞭を短鞭に変え、近接戦闘に移行した。朝子の攻撃を樹は容易に避けていく。


 朝子が袈裟斬りから直ぐに切り返しても、その攻撃ごとに適切な距離を取られる。その動きに遊ばれてると感じ、ムキになって攻撃をしてしまう。


「一度ぐらいは攻撃を当てろよ、ボケ!」


「うるっさいわね! やれるならやってみろ!」


 大地は樹の背後に回ると、炎を放つ。


 樹は脚に魔力を込め、天高く飛び上がり、後方回転しながら大地を飛び越す。樹は大地を視認すると片手の銃で狙いを定める。


「そんなんだっら、いつまでもあたしには勝てないよ。おっと!」


 空中にいる樹の左右側面から回り込むように二本の矢が飛んできた。


 その矢を冷静に樹は人ずつ冷静に対処する。一本、二本と矢を撃ち落とす姿は楽しそうであった。


 大地は樹が地面に着地するのを見計らって、また炎を放つ。


 その炎を樹は片方の銃を引き金を引き、着地点に氷の壁を作らせ、もう片手の銃で大地に狙いを定めて引き金を引く。すると、銃弾ではなく、大地の目の前で爆発が起きた。


 大地は対処しようもなく、その攻撃を受け、呪防壁が発動した。


「クソッ!」


 弦音が金切り声を上げる。


 放たれた矢は周りの風を切りながら、大きな翼が生えた。矢は鳥のように獲物を狙う。


「さすが、ゆみちゃん! このタイミングでそいつは面倒だ!」


 樹は高速に移動する矢に向かって引き金を引く。矢の前で爆発するが、矢の速度は落ちない。樹は続けて引き金を引き、矢を撃ち落とそうとした。矢は樹が引き金を引くごとにその力が衰える。八度目ぐらいには翼は剥がれ、小さくなっていた。


 その時、樹の背後から風の刃の一閃が飛んできた。


 樹はあまりにも距離が近すぎて、避けきれないことを悟り、呪防壁で受けることを選んだが、受ける前にその風の刃を放った術者に対して引き金を引く。


 爆発した場所からは忠陽が現れ、呪防壁で身動きが取れなくなった。


「ごめん、僕はここまでだよ……」


「へ。あのねーちゃんに不意打ちを食らわせたんだ。いいんじゃねえか?」


 大地は炎を手に集める。


「賀茂君、お疲れ様。それに、ありがとう」


 由美子は弦を引き、狙いを定める。


 朝子だけは何も言わずに走っていた。


「チャンスは一度だけ。ありったけをぶつけなさい!」


「うっせえ! 誰にモノを言ってんだよ!」


「ほんとに何様よ」


 朝子は鉄鞭に力を込める。今ある力を鉄鞭を流す。


 大地も朝子とは反対側に走り出した。手から炎の煌めきが線を引く。


 ―それで姫、作戦は?


 伏見の言葉が由美子の頭によみがえる。


「決まってるじゃない。私達の最大で敵を叩き落とす」


 ―それじゃだめや。相手は動く駒。相手を止めな。


「うるさいわね……。わかってるわよ……」


 ―チャンスは一度きりや。呪防壁が解除される瞬間を狙え


 由美子は静かに息を吸い、息を吐くときに小さな音を出す。


 羽を掴む手から呪力が伝う。溢れ出た呪力はバチバチと小さな音をし始める。


 樹は由美子の会を見て、口を緩ませる。


「それは簡単に撃ち落とせないな、それに……」


 呪防壁が解除されると同時に側面から挟み撃ちにあう。逃げられる方向は後方のみ。だけど、それは由美子の放つ矢がカバーできる。


 樹は両手の銃を手から話すと、銃は空中で消えていった。


 代わりに両手にゴツゴツとしたメカを二つ出した。一つには長い砲身と連結機構に支え手。もう一つには引き金とボルトアクション用のハンドル、恐らく動力源のような機械的な物体だった。


「よっこいしょういち」


 樹はの二つのメカを掛け声と共に連結させ、支え手を上部から九十度回す。すると連結機構が機械音を鳴らす。その音を聞くと、ボルトアクションを行うと動力源が動き出し、急にキーンと高周波を鳴らし始める。


 その音を聞き大地は脳裏で躊躇うが、一瞬でその考えを捨てた。それは忠陽に対しての対抗心がそうさせていた。


 樹は銃身を由美子に向ける。


「ゆみちゃ〜ん、真っ向勝負だよ〜」


 外から見ていた八雲は、眉間に人差し指で何度も叩く。


「バカ八雲、樹さん、マジになってるわよ!」


「わーってるよ!」


 樹がここまでするとは八雲も想定していなかった。今の段階で由美子の所まで跳ぶのは無理だ。できるとしたら、大地と朝子の保護ぐらい。


「奏、防壁を張れるか?」


「両方は無理」


「なら、ゆみを守れ」


「……このシスコン」


「当たり前だろ、バカ!」


「タイチョー、あたしは?」


「お前は奏と一緒に行け!」


「はーい!」


 望遠室では、藤だけがガラスに張り付いていた。藤は樹が持つ大砲の動きを見て、直ぐに伏見へと振り向く。


「京介!」


「うるさいな、黙っとき」


 藤は他の人を見回すも平然としていた。咲耶と視線が合うも、笑っていた。


「藤教諭、座れ」


 良子の冷徹な声がした。


「ですが、あれは明らかに――」


「そんなのは分かってる。それでもやらせてやれ」


「彼女が大怪我を負ったら――」


「は〜い、藤先生、座りましょう。立ってると危ないわよ」


 咲耶が藤を落ち着かせようと無理やり座らせる。そして、耳元で囁く。


「藤先生、これが私達が生きている世界。次の瞬間、命があるなんて誰にも分からない」


 藤はギョッとした顔で咲耶を見た。


 咲耶は優しく微笑み返したが、藤は何も答えなかった。ただ、藤の肩に力が入り、震えているのが咲耶には分かった。


 樹が持つ大砲の砲身の先に強大な魔力が貯まっている。いつでも発射可能とばかりに由美子に笑いかける。


 由美子はその表情を無視して、矢を放った。弦音は雷鳴を響かせる。空気が急に熱せられたため、破裂した音だ。矢は紫色の放電を帯び、音速にも近いスピードで樹に迫る。


 由美子が矢を放つと同時に大地と朝子は樹に仕掛けていた。朝子は鉄鞭に全ての呪力を乗せ、突きを放つ。大地は自身のありったけの呪力を乗せた炎の拳を繰り出す。


 しかし、その攻撃は樹が作り出した呪防壁により止められる。二人はその呪防壁を突破しようと力を込める。


「悪いね。ハエを気にしてる暇はないんでね」


 そう言うと樹は大砲の引き金を引く。すると、大砲からは収束されたマナの塊が放出される。放出されるとともに機械的機構から白い煙が噴出された。


 マナの塊は矢へと向かい、紫の放電した矢を飲み込んだかのように思えた。


 その瞬間、樹は頬が緩む。


「馬鹿野郎! 速く多重防壁でコースを逸らせ!」


 八雲の声したと同時に朝子は首根っこを捕まれ、樹から引っ剥がされ、放り飛ばされた。その次に大地も呆気なく飛ばされる。


 矢は紫の放電したままマナな塊から飛び出てきた。


「ゲゲンチョ!」


 それを見た樹は驚き、八雲に言われるまま複数の呪防壁を目の前に張る。


 一つ二つと、樹が張った複数の呪防壁ですら簡単に破ってしまう。最後に安全用の呪具が危険と判断し、全力の呪防壁を発動させたがそれすら貫通し、樹の左肩の上を通り過ぎで地面に着弾し、爆発する。その衝撃で樹は前方に飛ばされ、無様な姿を晒した。


 由美子はマナの塊に穿つの見て、勝ちを確信する。だが、マナの塊は四散することなく、穴を埋め、由美子の元へ向かってくる。


 由美子は心の中で仕方ないと思い受けようとするも、奏の罵声が飛ぶ。


「何やってんのよ! バカ妹! 呪防壁を張りなさい」


 突然のことで由美子が慌てふためくも、判断が遅いと感じた奏は先に多重構造の呪防壁を由美子の前に斜めに張る。


「加織ちゃん!」


「あいあい、サー!」


 加織は勢い良く飛び出て、無防備な由美子を担ぎ、その場から離れる。


 マナの塊を受けた多重構造の呪防壁はその防壁の層を次々と破壊される。それでも勢いが止まることのないマナの塊を見て、由美子は初めて自分の置かれた状況を理解する。


「重い……」


 奏は遠隔で呪防壁を操りながら、苦しい表情を浮かべる。


「なんで、あたしが! 尻拭い、しなきゃ、いけないのよ!」


 奏は叫びながら、マナの塊を天井へと跳ね返した。


 頭上、天高く舞い上がったマナの塊は空中で一瞬収縮したかと思うと、次の瞬間に広範囲に爆発を起こす。その余波は強烈な風を当たりに巻き起こし、直下に降り注ぎ、そこにいる全員がその威力に圧倒される。


 風が止むと、奏はその場にへたり込み、ため息を吐く。


「お疲れ、奏。ありがとうな」


「べ、別にあんたの為にやってない!」


「あははは。奏ちゃんのツンデレ発動」


「加織ちゃん!」


 八雲はほっと一息すると、樹を睨みつける。


「お前、ゆみを殺すつもりか!」


「いや、手加減はしただろ? 奏にも弾き返せたんだし……」


「何言ってんだ! アレを使う必要はないだろうが!」


 八雲が詰め寄ろうとしたときに、ブザーが鳴った。


 八雲は気が削がれ、それ以上は追求しないようにした。


「状況終了だ。学生チームの勝ちだ」


 良子の声で八雲は疑問符を叫んだ。

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