第九話 演習 五日目 其の三
開始のブザーが鳴り響く。
今回は屋内戦となることが分かっていたため、咲耶の指示で球体のドローンが五機、飛ばされていた。球体にはカメラが二つ搭載されており、全包囲撮影が可能であった。
その撮影情報をドローンは無線で送り、庁舎内にある情報作戦室にてモニタリングしていた。
それを見た伏見は天谷に十機ほしいと話すと、軍事機密をそうそうに渡すわけ無いでしょうと咲耶に反対される。
「ほな、君に頼まん」
伏見は不敵に笑うのを見て、咲耶は苦々しく思った。
演習場の建物ではすぐに戦闘が開始された。
由美子の指示通り、朝子と忠陽は階段を登り駆け上がっていた。二階に上がると、忠陽は反対の階段へと向かう。
朝子は足を止めた。
「ちょっとどこに行くのよ!?」
「反対側を封鎖しないと、すぐにでも上がってくるよ。僕の役目は足止めだから、さっきに行って!」
朝子は納得できない様子だったが、階段を再び駆け上り始めた。
一方、由美子たちは先制攻撃を行い、ビリーたちの出足を挫いていた。
由美子は魔術で遠距離攻撃し、階段に近寄ってくる者を大地が牽制していた。鞘夏は二人の援護であり、危なくなったときに防御呪術を展開していた。
それでも、ビリーたちはアリスが作る魔力の盾を使って、ジリジリと進み、東側階段へと向かう。
「おい、姫さんよ。あいつら、東側の階段に近づいてるぜ」
「問題ないわ。このまま、足止めでいい」
大地の焦りに由美子は平然としていた。
「何言ってん――」
大地が言いかけた後に、東側階段の二階に壁がそそり立つ。
それを見た瞬間、大地は攻撃の手を止める。
「何してるのよ、手を止めないで!」
大地は我に返り、攻撃を再開した。
その壁を見て、蔵人は笑う。
「どうしたんですか?」
アリスは蔵人に尋ねた。
「やっぱり、おじいちゃんが彼を褒めるだけあるなって」
「笑ってないで考えろ。塞がれちまったぞ」
ビリーは双銃で応戦していた。
「隊長、とりあえずは東階段の裏側に行きましょうよ」
平助の提案に乗り、全員が東階段の裏側に隠れると、由美子たちの攻撃が止んだ。
「さて、どうするかね。ここで待ち伏せするのもありだけどな……」
ビリーは蔵人を見た。いつものように優男だが、目に火がついているように見える。
「あの三人組を先に倒して、待っていてもつまんないだろ? なら、蔵人行ってこいよ」
「はい!」
声と同時に立ち上がる蔵人の腕をビリーは掴んで静止する。
「待てよ、忘れもんだ。平助を連れていけ」
「はい」
「ま、俺はアリスちゃんと仲良くしておくから、恨むなよ」
「大丈夫ですよ。隊長はアリスの好みのタイプじゃないですから」
「てめえな……。まあいい、早くいけ!」
アリスは頬を赤く染めていた。
それを見たビリーはもう一度蔵人を呼び止めた。
「アリスちゃんのタイプはどんな奴だ?」
「隊長!」
アリスは大声を上げる。
「たぶん、アリスのお父さんみたいな人じゃないかと……」
ビリーはそれを聞いてため息をつき、手で払った。
蔵人は腑に落ちない様子だったが、北側の階段に走っていった。
「朴念仁を相手にするのは辛いだろ? 俺だったらそうはさせないぜ」
二人が去った後にビリーは呟く。
「そこが蔵人くんの良いところです」
「そうか? いつか言うんだぜ。言葉で言いなさいよって」
「隊長の場合は言葉で自分を隠すから嫌われるんですよ」
「そうだな。女ってのは誰にでも優しい男ってのはキライなんだよな。自分が特別じゃなきゃ嫌だもんな」
「別にそんなじゃないですよ。ただ……」
「ただ?」
アリスは目を細めて、ビリーを見る。
「隊長、最低です!」
「あはは。やっぱり駄目だった? さて、俺達もポジション取りをしますか」
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