第九話 演習 五日目 其の二
演習場に集められた忠陽たちは研究員たちから調整した防護呪具の説明を受けていた。そこに、伏見、藤、良子、八雲、ビリー隊も参加していた。
大きな変更点は身体的ダメージの蓄積を算出できるようにした。
装備者に攻撃が当たる前に死に至るかどうか計測する薄い膜を流用して、データとして吸い上げ、予め均一に決めた上限を超えた場合、戦闘不能と判断する。
この変更は由美子と奏の格闘戦で、互いに物理的な行為では呪防壁が発動しなかったことに起因する。生徒の安全性を考慮してのことだった。
試しに動作条件を攻撃をちょっと受けて発動するように設定し、八雲で動作確認すると、研究員が八雲に触れた瞬間に八雲の周りに呪防壁が発動した。
そのときに忠陽たちから声が上がり、研究員は鼻高々という顔をしていた。
その後、第二演習場で演習を二回行った。
一回目は実際に動作するかの確認であり、チーム戦ではなく個人戦であり、互いに狙いやすい敵を狙う。参加したのは忠陽たちとビリー隊だったが、武装はなく肉体戦限定だったため、最後に残ったのは蔵人だった。
二回目も同じように一対一のトーナメント形式で行われ、優勝者は由美子だった。
忠陽は早々に朝子にやられ、その朝子は由美子に負け、由美子は蔵人に勝ち優勝した。その様子には一番喜んでいたのは良子だった。
ただ、顔には出さないが口数が多く、由美子の悪い点を指摘しながら、最後にちょっとだけ褒めるという不器用さを含んでいた。
三回目はチームでのフラッグ争奪戦だった。
吹き抜け五階建ての建物の屋上にフラッグを設置し、敵のチームよりも早く奪い、建物から出たチームが勝ちとした。
ルールとしては建物内では崩落させる呪術は殺傷率が高いため禁止だが、地形変化は許可された。また、狭い通路での火攻め、空気を使った呼吸器系の害を及ぼすものは原則禁じられた。外を出る際は屋上などから飛び降りることは失格とし、必ず一階出口から出ることが決められた。
この対応に伏見は不満を述べたが、全員から反対されていた。
演習が始まる前に、忠陽たちは作戦会議を行った。
「フラッグを争奪する意味では数の多い私達が有利よね」
由美子は階別の地図を見ながら言った。
「なんで有利なんだよ?」
大地の間の抜けた発言に由美子と朝子は顔をしかめる。
「あんたさ、ほんと馬鹿なよね。私達が一対一で相手と戦っても一人は確実に階段を使って登れるじゃない」
「なんだよ、その言い方。だけどよ、相手は俺達より強いんだ。一対一じゃすぐにヤラれて、数の有利はなくなるだろうが」
朝子はムッとした顔になる。
「それはあなたみたいに特攻すれば話よ。足止めの意味わかってる?」
大地は由美子にそう言われ、ムッとした。
「賀茂くん、あなたの術で土壁を作ることはできる?」
「可能だけど、すぐに壊されちゃうよ」
「いいのよ、足止めさえしてくれれば」
由美子は子供らしい笑顔になる。
忠陽は良からぬことを考えてそうで気が滅入った。
「で、どうするのよ、お姫様」
「私達のスタート地点はここ」
由美子が地図上に指し示したのは、建物の西にある出入り口だった。
「相手のスタートはここ」
忠陽たちは由美子が指し示した南口を見る。
「まず、私達は中央にある階段で登る」
地図上にでは一階から二階に上がるポイントは二箇所。中央と北。
中央は吹き抜け構造になっており、その西側と東側に階段が設置されている。
「この配置だと私達の方が先に中央を制圧できるから、相手の邪魔はしやすい。だから、ここで私、鞘夏、宮袋くんで相手の足止めをする」
「おい、そこでなんで三人もいるんだよ?」
「一つは、足止め。相手がアリスさんや蔵人さんだったら、それぐらい必要でしょ? 二つは、上から降りてきたときのため。今、私達が確実にフラッグを取れるか分からない。だから、奪われた際に奪うために必要だと思ったから」
「なるほどね。じゃあ、ボンとお嬢がフラッグを取りに行くのか?」
「正しくは、氷見さんだけ。賀茂くんは上階にあがったら、敵側が上がってこれないようにしてもらうわ」
「りょーかい。頑張れよ、お嬢」
朝子は断りづらくなった。
「氷見さん、宜しく」
鞘夏は無言で礼をした。
「どうして、私なのよ」
朝子の呟きに、由美子はニヤリと笑みを浮かべ、口を開く。
「だって、あなたが一番走れそうでしょう?」
音は出さずに口だけを開いた由美子。
その光景に流石の大地も呆れる。
朝子は由美子を睨みつけ、いかにも一発触発状態だった。
忠陽はため息をつく。
「ねえ、もっと仲良くしようよ……」
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