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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第九話 人の望み

 忠陽は店の外に出ると、そこには鞘夏が居た。


 鞘夏は伏見を警戒するように忠陽の側に近寄る。


「さて、揃ったことやし、ついてき」


 二人は黙って、伏見についていくと店の隣にある玄関に入った。


 忠陽は建屋の構造を確認すると、店と繋がっており、表札を見ると月影と書いてあった。


「ここって……」


 忠陽が言葉を漏らすと、伏見は不敵な笑みを浮かべる。


 忠陽は神無の詮索のことで怒られるわけではないと理解したとき、安堵し、大きな息を吐いた。


 中に入ると、普通の民家であり、呪術的な要素はまったく感じなかった。人二人が座れるぐらいの上がり(かまち)があり、そこで三人は靴を脱ぎ、室内に入った。


 伏見の案内で通されたのは床の間だった。座敷机があり、先に静流が座っていた。その反対側に座布団が三つ並べられており、忠陽は伏見に続いて入り、最後に鞘夏が入った。


 伏見から座るように言われ、二人は正座で座った。


 忠陽は周りをキョロキョロと見てしまい、鞘夏は静流から目線をそらしていた。


 ちょうど、忠陽が静流と相対するように座っていたが、目の前の女性が持つ何とも言えない怖さに気づき、目を合わせられない。


 店に居るときの気の良さそう店主とは違い、静かに、周りの空気を支配している。


「それで、京介。うちに何をしてほしいん?」


 忠陽は自分に言われてないのに、何故か頭にカツーンと叩かれたかのようだった。


「忠陽くんの呪いを見てほしいんや。それで姉さんの意見がほしい」


 忠陽も鞘夏も呆気にとられて、伏見を見た。


「忠陽くんは呪いのせいで二重人格になっとる。彼はもう一人の自分が――」


「京介、あんた、ほんまに先生になったんやな」


 静流は伏見が言い終える前に口を挟んだ。


 伏見はその言葉に動揺していた。


「別に悪いことやおまへん。むしろ、その方がうちはええと思うとる」


「いや、姉さん、俺のことやのうて――」


「あんた、その子を昔の自分と重ねてるやない?」


「姉さん!」


 伏見はここまでムキになるのを忠陽は初めて見た。


「神無はなんて言うたん」


 静流は伏見に聞いた。


 伏見は一旦、忠陽や鞘夏を見た。鞘夏だけは不安な顔をしている。


 伏見は少しの時間無言になり、渋々答え始めた。


「呪いを消すことはできるが、その時に忠陽くんの精神がどうなるかが分からない……」


「なら、それ以上言うことはあらへんやろう」


「消すのは諦めてる。やけど、忠陽くんの呪いは解いてあげたいんや」


「その必要はほんまにあるんか?」


 伏見はまた口を閉ざした。


「なんや、こんなこと言ってるとあんたの威厳がなくなるな。賀茂くんでよろしおすな? あんたは何で呪いを解きたいんや?」


 忠陽は淀みのない静流の声が心の隙間まで浸透していくのが分かった。それと同時にこの人の前では嘘をつけないということにも気づいた。


「僕はもう一人の自分が鞘夏さんたちに危害を加えてることを聞いて、それが嫌で自分の呪いを解きたいと思いました……。それに街も滅茶苦茶にする奴です。僕が意識を失うと何をするか分かったものじゃない。それを止めたいです」


 鞘夏は俯いていた。


「呪いは人を幸せにすることもできる。それと同時に不幸にすることもできる」


 忠陽は静流のその言葉に神無に言われた言葉を思い出す。


 ―呪術は人を殺す道具でしかない。そして、人を不幸にする。だが、人を幸せにもできる。お前は何のために呪術を使う?


「呪いは人の願いでもある。あんたが望んだものはなんやの?」


「ぼくは……」


 忠陽は手を強く握った。


「その答えが出えへんなら、この話はおしまいや」


 静流は立とうとしたところを伏見は止めた。


「姉さん、待ってえな」


「京介、この子らの呪いはこの子らの問題や」


「それは分かってる。やけど、俺はこの子らが不幸になってほしくない!」


「呪いには解いていいものと、そうでないものがある。それが分からんあんたやないやろ」


「せけど、忠陽くんは解きたいんや」


「世間がどう言おうともこの子らの呪いや。うちらがとやかく言うことやない。そんなお節介をせえへんで、二人を守るのがあんたの役目やないんか?」


 伏見は奥歯を噛み締めて、堪えていた。


 静流は伏見のその顔を見て、足を止めたがすぐに足早に部屋から出ていった。


 静流が去ってから静寂が訪れた。


 忠陽は何をしていいのか分からず、目の前の掛け軸を見る。


「二人とも変なことに付き合わせてごめんな」


 忠陽と鞘夏は伏見を見た。


 伏見の姿はいつものように飄々としていない。伏見とって静流という人物は母親のように強く、大きな存在なのだろう。


 忠陽は再び掛け軸を見る。


「先生、ありがとうございます」


 忠陽の言葉のあと、鞘夏も無言で頭を下げた。

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