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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第九話 演習 三日目 その六

「中田三尉、入ります」


 その声と共に入ってきたのはグラマラスなボディを抱えた黒髪ショートの女性だった。今まで見てきた中で一番綺麗だと藤は思い、モデルでも食べていけるのにと考えた。


「すまない。中田、私の隣に座れ。……と、その前に挨拶か」


「その必要はありません」


 中田は伏見を横目で見る。


「その男には必要ない。隣の藤教諭には挨拶しろ」


「はい!」


 中田は藤の前に立つと手を差し出す。


「初めまして。第八呪術特科連隊第三小隊隊長の中田英里です。以後、お見知りおきを」


 藤はその手を取ると、以外には手がゴツゴツしていると感じたが、目の前にいる女性の気のいい笑顔には好感触だった。


「気いつけや、藤くん。見た目に誤魔化されてると、痛めみるで」


 中田はすぐに舌打ちをし、伏見を睨みつける。さっきまでの綺麗な女性の顔に凄みが増していた。


 その姿を見て、藤は愛想笑いをした。


「こちらこそ、初めまして。今回生徒たちの引率をしています藤日那乃です。あの……。伏見先生とはお知り合いですか?」


 再び中田の顔は綺麗な笑顔に戻っていた。


「いえ、知りません。あんな陰険男」


「でも……」


「知りません!」


 妙な圧力に藤はそれ以上問い詰めることを止めた。


「伏見と中田は高校時代の同級生だ」


 良子は横から答えていた。


「二佐!」


「なにか問題でもあるのか?」


「ありませんけど……私の人生はこの男のせいで狂ったような気がするので……」


 藤は何故か中田に同情してしまった。


「中田三尉もご苦労なさっているんですね」


 中田は藤の今にも泣きそうな目を見て、察した。


「あなたもなのね……」


「はい!」


 二人は手を取り合い、お互いの苦労を労うように目で会話を交わしていた。だが、この二人には決定的な違いがあった。


 藤は生徒のときからぞんない扱いと都合のいい女という意味でだったが、中田は人生を本当に狂わされていた。伏見は家の没落を引き起こした張本人であり、そのせいで高校卒業後に軍隊に入らなければいけない事態になった。


「お前、何をしたんだ?」


「何もしてへんで」


 八雲の問にいつものヘラヘラとした顔で伏見は答えた。


「八雲、この借りは返しなさいよ」


 中田は八雲が目に入るとすぐに言い放った。


「分かってますよ。いつも、中田三尉にはお世話になってます」


「分かればいいわ」


 中田は優越感に浸っていた。


「そろそろ、演習を始めるぞ」


 良子の言葉で全員が席につく。


------------------------------------------------------


 ブザーが平原に鳴り響く。


 雑草以外は何も遮蔽物すらないこの平原で身を隠すのは難しい。


 奏の目には相手チームの動きが映っていた。


 賀茂と平助は早々に隠密行動を開始し、残りの四人で防御体制を構築し始めている。前衛が蔵人と由美子、中衛にビリー、後衛にアリスだった。


 奏はビリーの装備を見て、ため息をつく。ビリーの装備は狙撃銃ではなく、銃剣付きの短双銃だった。近接戦闘での迎え撃つことが分かり、中距離もできるように自動小銃を持っていた。


「奏ちゃん、どうかした?」


 動かない奏に加織は近づいた。


「あっちは近接戦、ヤル気満々よ。ビリー隊長が双銃を持ってる」


 加織は目を細めて、相手側を見た。


「本当だ。面倒くさーい」


 加織は笑いながら言った。


 念話で田中からの声が聞こえる。


「ビリー隊長が双銃を持ってるぞ。どうする?」


「うるさいわね。方針は変わらないわよ。三人も分かった?」


「いや、俺らは誰を相手にすればいいんだよ?」


 大地の声は困っていた。


「あんた達は、八雲妹と賀茂を相手にしなさい。太郎、バックアップ頼むわ」


「奏ちゃん、平助くんはどうする?」


「私達でなんとかするしかないでしょ」


「あの……」


 鞘夏が口を開いた。


「忠陽様は私に任せてください。二人は他の方を……」


「そう。なら、そうして頂戴」


 奏は冷たく返事をする。


「ちょっと、待ってよ。その子一人で何とかなるの?」


「一人じゃないわよ。太郎」


「分かってる。学生を優先に援護するからお前らは期待するな」


「するだけ、邪魔」


「あたしは援護欲しいな。よろしくね、田中くん」


「ああ、周防だけは援護してやるよ」


「さて、覚悟はいいかしら? いくわよ!」


 奏たちは走り出した。草原の中を各々が自分の目標に向かう。先行するのは加織で、その後に続くように奏、鞘夏、大地、朝子の順で走っていた。


 先手を打ったのは奏だった。奏は無数の魔力弾を生み出し、解き放つ。魔力弾は放物線を描きながら、相手の防御陣形に降り注ごうとした。


 それが弦の音が鳴った瞬間にかき消された。


 奏はそれに目を見張る。


「へぇ~。鉄壁じゃない……」


「奏ちゃん、奏ちゃん! なんだかワクワクしてきたよ」


「太郎!」


 田中は何も答えずに引き金を引く。訓練弾は由美子に襲いかかるも、アリスが作り出した魔力の防壁で弾き飛ばされた。続けて、二射目も放ったがそれも弾き飛ばされた。一射目と二射目の誤差は数ミリもなく、魔力の防壁にヒビを入れた。田中が三射目を引くと同時に由美子は走る。三射目は魔力の防壁を貫通し、穴を開けたが、そこには誰もいない。


「外した。アリスの防壁は硬いな。訓練弾じゃ無理だ……」


「そこを何とかしなさいよ、役立たず!」


 奏の罵声を田中は無視しして、由美子を狙い続ける。


「月影、三射目だ」


「二射でなんとかしない!」


「そうだ、そうだ」


 加織が悪ノリをしながら捲し立てる。


「三射目だ」


 田中は冷徹に言い返す。


 奏は再度、無数の魔力弾を作り出す。


 田中のスコープ越しでは由美子が弦に手をかけるのが見えた。そこで引き金を引く。一射目が終わるとすぐさまに二射目を放つ。


 奏はそれと同時に魔力弾を放つ。


 田中は続けて三射目の引き金を引くと、すぐに少し銃口ずらし、四射目の引き鋼を引いた。


 一射目、正確に由美子の頭に銃弾が放つも、魔力の防壁で防がれた。二射目も一秒も経たないうちにやってきて、魔力の防壁にヒビを入れる。


 それと同時に奏が放った魔力弾が見え、由美子は弦に手をかけながら、移動を開始した。


 三射目が魔力の防壁を壊し、四射目の射線は由美子の移動先と重なっており、それに気づいたアリスは魔力防壁を展開した。


 目の前に現れた魔力防壁と銃撃で由美子は弦を引くことを躊躇し、動きを止めてしまった。そこに奏の砲撃が襲いかかる。


 奏は的を絞っていなかったため、魔力弾はバラバラと散らばり、地面に触れると爆発し、辺りに粉塵を撒き散らす。


 その中を掻い潜って、加織が先鋒として蔵人に闘気の乗った拳を放つ。


 蔵人が冷静に対処する中を奏は駆けて抜けていく。


 蔵人はそのことを気にすることなく、目の前にいる加織と戦闘を開始した。


 奏はアリスの影が見え、魔力弾を展開する。


 そこへ苦無が降り注いで来た。


 奏は足を止め、後方転回をしながら避けると、粉塵の中から由美子が現れた。


 由美子は格闘戦で奏に挑むも、奏は簡単に対応し、由美子を蹴り飛ばす。そこへ魔力弾を放ち、追撃を加える。追撃はアリスが展開した魔力防壁によって遮られた。


「パーマ、あんたはビリー隊長。氷見、あんたはアリスを足止めしなさい」


 その言葉を受け、大地と氷見は奏の後ろを駆けて、後方へと向かう。

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