表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お昼ごはんはすべての始まり  作者: 山いい奈
1章 あらたなる挑戦
8/41

第8話 お買い物指南

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 近鉄阿倍野橋(きんてつあべのばし)駅の正面に、あべのハルカス近鉄本店の地下2階に直接降りることができるエスカレータがあるので、それを利用する。


 到着すると、賑わいのあるお惣菜売り場が広がった。さっき話に出たウイング館だ。途端に美味しそうな香りに鼻が襲われ、紗奈(さな)は一気に空腹を感じてしまった。なんという飯テロだろうか。「だらだらになるで」の意味を瞬時に理解する。


 しかし今日の目的はお惣菜では無い。紗奈は「こっちや」と言う岡薗(おかぞの)さんに付いてすぐ近くの短いエスカレータに乗り、タワー館の地下2階に降りた。


 平日の昼間だと言うのに混雑していて、紗奈は驚く。主婦の方々なのだろうか、皆さんかごを手に所狭しと並べられたお野菜を品定めしている。


 岡薗さんはざっと陳列台を眺め、「お、椎茸が安いな」と呟いた。


「先に肉か魚見に行こうか。天野(あまの)さん、どっちがええ?」


「あ、お肉がええです」


 つい思ったまま応えてしまって、紗奈はしまったと目をつぶる。昨日が鶏肉だったのだから、今日はお魚の方が良かったのでは無いか。岡薗さんは若いからお肉が好きな可能性が高いが、牧田(まきた)さんはお魚が好きかも知れない。すると岡薗さんは「そうやんなぁ」と全く気にする風も無く言った。


「俺も牧田さんも魚より肉の方が好きやしな。せやからどうしても肉が多くなるわ」


「あ、そうなんですね」


 紗奈はほっとする。万里子(まりこ)はお肉とお魚バランス良く作ってくれるが、やはりお肉の方が嬉しいと感じてしまう。お魚も(さけ)(ぶり)の切り身なら好きなのだが、(あじ)の干物の様な骨が多い魚は苦手だった。


「魚はどうしてもな、グリルの掃除が面倒やからなぁ。フライパンかオーブンで焼いて、味噌汁をめっちゃ具沢山にする時もあるけどな」


「栄養バランスとか、そういうのんですか?」


「そうそう。そこはやっぱりな。特に牧田さんができるだけちゃんとしたいってな。俺もひとり暮らしで、どうしても朝と晩が適当になってまうから、せめて昼ぐらいはと思って。天野さんはせっかくの実家暮らしやねんから、お母さんの料理とか参考にしたらええと思うわ」


 万里子は朝昼晩と作ってくれる。朝ごはんとお弁当は用意しやすい様にかいくつかの定番があり、休日の昼ごはんはワンプレートが多い。だが晩ごはんは一汁三菜と言うのだろうか、メインのおかずに小鉢がふたつ以上と、汁物を用意してくれる。


 お肉やお魚もだが、たくさんのお野菜やきのこなどが使われているのが分かる。正直お料理ができない紗奈にとってはハードルが高く、今では参考にできそうにも無い。


 つい唸る様な顔になってしまうと、岡薗さんは「まぁ難しく考えんと」とからりと笑った。それで紗奈は少し気が楽になる。


 そうして精肉エリアに到着する。いくつかの精肉店が(のき)を連ねていた。ガラス張りの陳列棚にずらりと並ぶ、綺麗な色のお肉たち。紗奈はついつい見惚れてしまう。だが岡薗さんの目は違う。


「うん、豚の切り落としがええ感じやな」


 岡薗さんの視線は、こんもりと盛られた豚肉の切り落としに注がれていた。


「天野さん、豚の切り落としを使った煮物か炒め物はどうやろ」


 それを使って、どういうお料理を作ることができるのか紗奈にはぴんと来ない。肉野菜炒めとかか? なので正直にそう言った。


「わはは。じゃ、メニューは俺に任せてもらおうか」


 岡薗さんは笑って、豚肉の切り落としを購入した。


「で、あとは野菜やな。行こか」


 紗奈は岡薗さんに付いて歩く。人の波を縫いながらもゆっくり進んでくれるので、難なく追い付けた。


 岡薗さんはかごを持つ。そしてまずは「安い」と言っていた椎茸をかごに放り込んだ。


「椎茸っちゅうか、きのこはええ出汁(だし)が出んねん。えーと、他には」


 そうして八百一(やおいち)を巡りながらしろ菜をかごに入れ、併設されている成城石井(せいじょういしい)の陳列棚からお揚げと絹ごし豆腐をかごに収めた。


「豆腐は味噌汁の具やな。嫌いなもんとか食べられへんもんとか無いか?」


「大丈夫です。豆腐のお味噌汁大好きです」


「良かった。ほなレジ行って来るから、レジの向こう、詰め替え台のところで待っててな」


「は、はい」


 紗奈はすっかり言われるがままである。レジは八百一と成城石井で共通だ。並んだ岡薗さんと別れ、ぐるりと回りながら台に向かう。


 会計を済ませた岡薗さんは台にかごを置き、エコバッグに手際良く買ったものを詰める。しろ菜は葉を上に立てて、透明のビニール袋に入れた絹ごし豆腐と豚肉の切り落としを底に、椎茸とお揚げを置く。


「基本、葉物野菜は立てて、潰れやすいもんは上にな。ほら、旅行とかの荷造りやったら、軽いもんを下に置いたら軽く仕上がるって言うけど、食材はそんなんしたらあかんくなることもあるから。それと肉とか魚はトレイに入ってたら横にしたらあかんで。ドリップが出てたら漏れるからな。ここでは買う時に陳列棚から袋に入れるから出てへんけど」


「ドリップ……」


 紗奈の中でドリップと言えばコーヒーを思い起こさせる。だがお肉などから出ると言うのだから関係無いのだろう。紗奈が首を傾げると、岡薗さんは丁寧に教えてくれる。


「鮮度が落ちれば落ちるほど、肉とか魚とかから水分が出て来るねん。それをドリップって言うねん」


「じゃあ、それが出てるやつは買わん方がええんですか?」


「とは限らん。ドリップに透明感があったら大丈夫や。そういうんが見切り品になってたりして、その日中に使うんやったら問題あらへん。濁っとったら買わんほうがええかな。食べられへんことは無いけど、臭みが出てたりするから」


 買い物ひとつでも、いろいろ気を付けねばならないことがあるのだな。紗奈は覚えておかねばと懸命に頭の中で反芻(はんすう)する。


「ほな戻って作ろうか」


「あ、私持ちます」


 何から何まで頼ってしまって、何もしないのはさすがに心苦しい。紗奈が手を伸ばすと、岡薗さんは「いやいや」と言いながら、ひょいとエコバッグを肩に掛けた。


「いくらなんでも女の子に荷物持たせられへんわ。男や女や無い言う世の中やとしても、身体的な力は男の方が強いんやから。役割分担っちゅうやつやな」


 岡薗さんがからっと言ってくれるので、紗奈は素直に「あ、ありがとうございます」と頭を下げた。その分作る時には少しでも足を引っ張らない様に、少しでもお役に立てる様に頑張ろうと心に誓った。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ