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お昼ごはんはすべての始まり  作者: 山いい奈
3章 力を尽くして
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第3話 心構え

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 夕方に差し掛かるころ、どうにか初校(しょこう)が上がった。紗奈(さな)はPDFファイルを作成し、共有サーバにアップすると立ち上がって畑中(はたなか)さんの元へ。


「畑中さん、今よろしいですか?」


「ん? 初校上がった?」


「はい」


 畑中さんは共有サーバにアクセスし、「天野(あまの)」と名の付いた紗奈のフォルダを開ける。そこにあるデータはPDFひとつなのだが、畑中さんは念のためか「これやんな?」と紗奈に確認し、データを開いた。


 ぱっと映し出されるビストロ・ヤタのDMの初校。横型で作成している。ベースは淡いベージュで、差し色に栗の実に近いブラウンとシアンを使い、2種のお料理写真はそれぞれ角度を付けて、左側に上下に配置。


 右側の上部に「ハッピーバースディ」を英文字で。色は鮮やかなオレンジだ。白のシャドーを付けている。柔らかな明朝体を使った。


 下の文章は黒色の手書き風のゴシック体で、予約でお誕生日特別コースディナーとスイーツのご用意があることを丁寧な文面で記し、「ご予約お待ちしております。」で締め(くく)っていた。読みやすい様に透過のフレームが付いている。


 いちばん下にはビストロ・ヤタの店名と住所など。こちらは下に濃いブラウンの帯を引き、店名などは白抜きにしていた。


 それをじっと見つめる畑中さんを、紗奈は緊張しながら見守る。いつでも作ったものを見てもらうのは張り詰めてしまう。これは学生のころには感じなかったことだ。今回は特にコンペなのだから、余計に心臓はざわついていた。


「天野さん」


 畑中さんの冷静な声が響く。


「気負っとるやろ」


 続けて発せられた言葉が紗奈を突き刺した。


「そ、そうです。判りますか?」


 自覚があっただけに、紗奈はしょんぼりとうなだれてしまう。畑中さんはおかしそうに「ふふ」と小さな声を漏らした。


「いつもやったらほぼ1発で決めて来んのに、何や今回は迷走しとる感じや。なんや細かいところがアンバランスっちゅうかな。これは1日置いたほうがええと思うわ。締め切りっちゅうかコンペまでまだ少し日あるやろ?」


明々後日(しあさって)です」


「それやったら充分間に合う。1晩経てば落ち着くやろ。これは明日にして、他のに取り掛かって頭リセットしてみよか」


「は、はい! ありがとうございます!」


「リラックスって口で言うんは簡単やけど、そんな深刻にならんで大丈夫やから、肩の力抜いてな」


「はい!」


「うん、ええ返事」


 畑中さんがふわりと口角を上げ、それに励まされる様に紗奈は自席に戻る。開いたままにしていたビストロ・ヤタのDMを閉じ、新たな仕事に掛かろうと共有サーバにアクセスした。




 緊張を伴ったまま、明々後日がやって来る。ビストロ・ヤタのコンペの日だ。


 畑中さんに初校を見てもらい、1夜が経った朝、あらためて見てみるとなるほど違和感が見えて来た。紗奈は修正を行い、また寝かす。


 そしてその翌日、要は昨日の夕方にもう1度確認し、また微調整をした。それを所長さんと畑中さんに見てもらって、無事ゴーサインをもらうことができた。


 その間、紗奈は生きた心地がしなかった、と言うのは大げさだろうが、心穏やかでいるのは難しかった。他のデザインをしている最中も、集中しようとしても矢田さんのお仕事が気になってそぞろになってしまう。こんなことでは他のお仕事に影響が出てしまうし失礼だと、紗奈は何度も気合いを入れ直す羽目(はめ)になった。


 コンペそのものはこの業界そう珍しいことではないし、所長さんはもちろん畑中さんも岡薗(おかぞの)さんも何度も経験しているらしい。なので昼休憩の時に心構えを聞いてみた。その場に畑中さんはいなかったのだが。


「なる様にしかなれへん。て言うても、俺かて初めての時は緊張したわ。俺の初コンペは入って半年後やったけど、天野さんはもっと早いもんなぁ。せやから天野さんの気持ちも解る。けどまぁ、喧嘩(けんか)や無いけど、かかって来いぐらいの心持ちでええと思うで。肝心なんは相手に呑まれんこと、自信なさげに見せへんことや。自分が作ったもんを堂々と出す。逆に言うと、堂々と出せるもんを作るっちゅうことやな」


「そうやな。僕も初めての時はどきどきしたなぁ。でも何回かやってるうちにどうにか度胸も付いて来てなぁ。ほんま、岡薗くんの言う通り、なる様にしかなれへんねん。もちろん力は尽くすけどな」


 参考になるのかならないのか。だが相手に呑まれない、自信を持つ、力を尽くす。それは大いにその通りだと思う。自分が作ったものがクライアントが望むものだ、ビストロ・ヤタにふさわしいものだと信じてあげなければ。でなければ生み出された作品がかわいそうだ。


 紗奈は当日の朝プリントアウトしたカンプを眺め、己に自信を付ける様に「うん」と小さく頷いた。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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