交渉
やがて王国内からゾロゾロと兵がやってきた。
「貴殿がノックス殿か?」
虎の獣人族の者が尋ねた。
「そうだが。」
「失礼しました。私はガンベル。近衛兵隊長をしております。此度の件、陛下から貴殿らを出迎えるようにと仰せつかっております。」
「至急国王に会わせてほしいのだが。」
「はい。陛下もただちに貴殿らと面会を希望しております。」
「我らも入国して構わないので?」
ノエルが尋ねた。
「もちろんです。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ウィンディア城へと招かれたノックスたちは来賓室で待たされていた。
このウィンディア城はロンメア城より一回りほど小さい城で、内装なども簡素な創りになっていた。
「ノックス様。その…失礼を承知で質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「…その、なぜこの国の衛兵を助けたのかです。」
「あのまま見殺しにしては寝覚めも悪い。それに…」
扉のノックする音で会話が遮られた。
そして扉からガンベルがまず現れ、その後に続いて荘厳な出で立ちの象の獣人族が現れた。
「お待たせ致しました。」
象の獣人族は深みのある声で語りかけた。
「ワシがこの国の王、シアン・ヴェルテ=マンムートである。」
「旅をしてきたノックスです。」
「同じくノエルです。」
「お、同じくアインッス。」
「お主らには世話になった。それで?ワシに話というのは?」
「世話になった…か。」
その一言で済ませられた事に多少引っかかったが、まずは自分の目的を優先させる事にした。
「教会との共闘をお願いしたい。」
ノックスは臆面も無くハッキリと応えた。
その言葉にはガンベルだけでなく国王までもが目を見開いて驚きの表情をしていた。
「教会だと…?なぜワシらが?」
「このままでは教会の連中にここを制圧されるのも時間の問題と判断したまでです。」
「貴様!!陛下の前で無礼であるぞ!!」
ガンベルが剣を手にかけ恫喝した。
「失礼も何もない。あのまま俺が出張らなければ衛兵たちは全滅。この国内に多数のモンスターが入り込みパニックになっていただろう。」
「き、貴様…!!」
「ガンベル。よい。詳しく聞こうか。なぜ貴殿は我が衛兵を助け、そして共闘を持ちかけているのかを。」
「あくまで推測ですが、あのモンスターは何者かに操られている可能性が高い。こちらの2人ともその考えは一致しました。
教会が有する『固有魔法』にはモンスターを使役する魔法もあると聞いております。
となれば、今回の襲撃の背後には教会の手の者がいるはず。」
「…ふむ。報告には聞いていたが、確かにその線は高いだろうな。ではそなたらの考えでは今後、その者たちがさらなる襲撃をかけて我が国を制圧するだろう、と?」
「その可能性は高いでしょう。我らとしてはこの国になんの未練もありませんが、この国を制圧されると周辺の国にまで驚異に晒されることになる。
特にロンメアには我が同族もおります故に。」
「それで共闘…か。だがわからぬな。なぜ教会は直接ロンメアを狙わんのだ?」
「教会の考えなど俺たちにも分かりません。が、もしこのまま何もせずまま放置していれば、いくら数で優位に立てているとはいえ、制圧も時間の問題かと。」
「お主らが我らと共闘したからとて、何か変わるとでも?」
「変わらないと思うならこの話は無かったことにしましょう。」
ノックスが立ち上がると、続いてノエルとアインも立ち上がった。
「まあ待て。……ふむ。一つだけ確認したい。」
「なんでしょう?」
「この共闘が上手くいったとして、お主らの見返りはなんだ?」
「船を1艘くれれば、と。」
「船…?……良かろう。お主らの申し出、有難く受け取る事としよう。作戦などの詳しい話はこのガンベルと打ち合わせてくれ。」
「わかりました。それで、俺たちはその間はこの国に滞在してもよろしいので?」
「当然だ。下の者にも言い聞かせておく。」
国王はそう言うと来賓室を後にし、ガンベルが残された。
ガンベルは国王から諌められたものの、まだノックスに向けて軽く敵意を放っていた。
「そう睨まれても話は進まないが?」
「…分かっている…!だが、この国を罵倒することは許さんぞ!!」
「こちらはここに来るまで散々な扱いを受けてきたのだがな。」
「そうだ!そうだ!!」
アインが相槌を打つ。
「それは…!…それについては…あなた方には申し訳なかった…」
意外なことにガンベルは非を認めて頭を下げた。
「謝ったからって許さないッスよ!!」
「待てアイン。ガンベル殿、こちらも少し配慮が足らなかった。すまない。」
「ノックス様!?なんで!!」
「非を認めるのは誰でも出来ることじゃない。とりわけそれが自分の行いではないのなら尚更な。」
「ノックス殿…ありがとうございます。では、防衛戦に向けて、でしたな。」
「奴らがいつ襲ってくるかは分からんが、第2第3のモンスターの襲撃があると考えるべきだろうな。」
「次の襲撃には我らが出ましょうか?」
ノエルがノックスを見やりつつ尋ねた。
「有難い申し出ですが、それでは意味がありません。ノエル殿らの活躍で撃退出来たとしても、いずれこの国を離れる者に任せっきりになどできません。」
「その通りだな。」
「それに衛兵どもを鍛え直させねばなりません。…御三方、ここではなんですから、作戦会議室へお越しください。」