惨状
少々グロい描写があります。
やがて先のホワイトウルフが来た方角と同様に南西からかなりの土煙をあげてモンスターの大群が押し寄せてきた。
ただし、その光景はどこか異様で、単一の種族ではなく様々な種類のモンスターが入り交じっていた。
「…ノックスさん、あれはちょっとヤバいんちゃいます…?」
モンスターたちに目を凝らすと先のホワイトウルフやグレートアンツ、他にはオーガやハウンドなど、多種に渡っている。
「ノックス様、普通はあのモンスターたちは仲良く群れを作ったりしないッスよ!」
「だろうな。俺も見た事はない。」
「くそっ!!総員戦闘態勢!!!!貴様らも戦え!!!!」
「断る。」
「なっ!!たわけたことを…!!」
「たわけているのは貴様だ。俺たちは何の義理もない。ここで貴様らの戦いぶりを見せてもらおう。」
「…必ず後悔させてやるぞ…貴様らぁあ!!!!」
やがてウィンディア王国兵とモンスターの大群との戦闘が開始された。
ノックスたちは魔障壁の中でその様子を見ていた。
そしてモンスターたちを観察して分かったのが、やはりこのモンスターたちは通常の状態では無いだろうという事だった。
アインも言っていたように、本来これらの種が共闘するなど有り得ない。
そこから一つの可能性が浮かび上がった。
「ノックス様、これはもしかすると…」
ノエルもその可能性に思い至ったようだ。
「ロンメアで読んだ本にあった『固有魔法』の類かもしれんな。どうだアイン?」
「多分そうッスね…こいつら、何かから逃げてここに来たんじゃないッス。何者かの意思で操られてる可能性が高いッスよ。」
「『固有魔法』!?ちゅうことはアレかいな…」
「あぁ。固有魔法とするならば、こいつらを操っているのは教会の連中ということだろう。」
ノックスたちが冷静に分析している間も戦闘は進んでいた。
だが、それはウィンディアにとって芳しくなかった。
援軍に来た者たちも結局は数だけの寄せ集め。
連携とはとても言い難く、各々が得意な分野で好き放題しているだけなのだ。
さらに言えば激高した者は先の巨人族と同様、敵味方などお構い無し。
このまま全滅するのは時間の問題であった。
「くそっ!!忌々しいモンスター共め!!!!」
部隊長であるグルーガは奮戦していたものの、やがて防御に徹することとなり、その盾もグレートアンツに噛み砕かれ、オーガの棍棒で昏倒させられ、ハウンドにより腹を割かれた。
ノックスたちのいる近場でグルーガは生きたまま臓物を食われたのだ。
「うげっ!!わざわざここで食べなくても……おぇぇっ!!」
アインが堪らずに吐いた。
「…だ……だずげ…で……ぐれ……」
グルーガは息も絶え絶えに必死に助けを求めてきた。
ノックスは魔障壁ギリギリのところまで歩み寄り、助けを求めているグルーガを見下ろす。
「言ったはずだ。俺にはなんの義理もない。貴様の俺たちに対する非礼を、その『上等』な頭で考え、後悔しながら死ね。」
ノックスは冷酷にグルーガに言い放った。
「…わ……わるがっ…だ………だ、だの……む……」
ハウンドはグルーガの内臓をぐちゃぐちゃと音を立て、腸を食いちぎり、時にはバリバリと骨を噛み砕きながら咀嚼していた。
それはグルーガだけではなく、至る所で王国兵が生きながらにモンスターに食われていたのだ。
後方で控えていた他のウィンディア王国兵はその惨状を目の当たりに顔色を青くして援護に駆けつけずにいた。
「ふむ。この辺りでもういいか。」
ノックスは魔障壁を解除し、隠密スキルを調整する。
その瞬間ノエルたちに激しい悪寒が走った。
無我夢中で『食事』をしていたモンスターたちもその異常な気配を感知し、食べるのを止めてノックスに向けて牙をむいた。
「ほう?普通なら逃げ惑うのだが。やはり貴様らは通常の状態ではないようだな。」
「ノ、ノックスさん!!な、なんですこれ!?なんなんですかー!!?」
「オーウェン殿、悪いがしばらくそこで我慢していてくれ。」
ノックスの異常な気配にオーウェンは腰を抜かして慌てふためいていた。
「吹き飛べ。」
ノックスの起こした風魔術によりモンスターを吹き飛ばし、食われて横たわっていた王国兵と引き離した。
吹き飛ばされたモンスターたちはやがて1箇所に集められ、さらにそこへノックスにより魔障壁で隔絶される。
閉じ込められたモンスターは無我夢中で魔障壁をこじ開けようとしていたが、それが破れることは無かった。
「押し潰せ。」
さらに今度はそこへ超重力を発生させ、モンスターは一瞬で全員が地に伏せ、やがてバキバキと骨を砕き、そしてグジャッという嫌な音とともに魔障壁内に血飛沫が舞い、内側の壁を真っ赤に染め上げ、魔障壁内には数センチほどの血溜まりが出来上がっていた。
重力魔法を解除し、その後魔障壁を解除すると付着していた血糊がベシャッと音を立てて地に落ち、行き場の無かった血が地面に広がった。
モンスターを全滅させたノックスは自身の隠密スキルを元に戻した。
「もう大丈夫だオーウェン殿。いきなり驚かせてすまない。」
ノックスに話しかけられてハッと我に返った。
「な、なんなんですかノックスさん……強い人やと思ってましたけど………桁外れですわ………」
「ノックス様…やっぱりパネェッス……モンスターのほうが少し気の毒に感じたッス……」
「フッ。ノックス様の手に掛かればあの程度のモンスターなど相手にもなり得ません。」
モンスターたちに食われていた王国兵は誰一人として死んではいなかったものの、ほぼ全員がすでに虫の息であった。
「治療せよ。」
ノックスから放たれた治療魔術により、食われた臓物が戻り、王国兵に生気が宿った。
とはいえ完全には回復させてはいないが。
「さっさとこいつらを運べ。そして俺を王に会わせろ。」
後方にいた王国兵にノックスが命令した。
王国兵たちはノックスの気迫に気圧され、急いで重傷者を担ぎ入れて王へと報告に走っていった。