新しい仲間
マザーとグレートアンツとの激闘を終えたノエルとアインは疲労とレベルアップの反動で立ち上がることすら困難な状況であった。
「2人ともご苦労。紅茶でも飲むか?」
ノックスは優雅に紅茶を飲みつつ2人を労った。
「……しばし…お待ち頂いても……?」
「…ノ…ノックス様ぁ……治療じでぇぇ…」
「仕方ないな。だが疲労や目眩までは治せんぞ。」
「…あ、ありがとう…ございます…」
「あっだげぇ……あっだげぇッス……」
治療を施された2人であったが、やはり疲労で直ぐには動けなかった。
ノックスが気配感知で周囲を索敵すると、なにやらか細い気配を近くに感じた。
確認しに行くと、そこには斑模様で、口から生えた牙が特徴の大きな猫が我が子を守るよう覆いかぶさって死んでおり、子猫は親の亡骸の下に埋もれながらもミャーミャーとか細い鳴き声をあげていた。
どうやらこの親子はここへ来たグレートアンツの集団に揉まれてしまったのだろう。
ノックスが親猫をどかしても子猫は後ろ足が潰れながら這いずって死んでいる母親の顔をペロペロと舐めていた。
「ノックス様…何かあったので…?」
後ろからノエルが枝を杖代わりにして追って来ていた。
「この猫の親子が先のグレートアンツたちに踏み潰されていたようだ。」
「猫…ですか…見たこともない品種ですね。この子猫も親が死んでいるのを理解していないようですね…」
「生まれてまだ間もないのだろう。」
ノックスは徐に母親に甘えている子猫を拾い上げた。
「お前にはまだ分からんのだろうが、残念だがもうすでに母親は死んでいる。」
言葉が通じるとは思ってはいないが、ノックスはそう言いながら子猫に治療魔術を施した。
後ろ足が完全に復元された子猫を地べたへと下ろすと、子猫は恐る恐る地に足をつけ、ヨタヨタとしながらも母親の顔を舐めてはミャーミャーと甘えていた。
「他にも幾つか小さい気配はあるものの…キリがないな。」
「行きましょう、ノックス様。」
「そうだな。」
先程の場所に戻るとアインはイスに腰掛けて紅茶と茶菓子をバクバクと食べていた。
「あ、ノッフフさま!おさきにいたらいてまふ!」
「食べ物を口に入れながら喋るなアイン!」
ノエルに注意され慌てて口の中の物をゴクンと飲み込んだ。
「す、すいませんッス!!……ってあれ?その子猫、どうしたんッスか?」
アインに言われ振り返ると先程の子猫がヨタヨタと覚束無い足取りでノックスたちを追いかけてきていた。
ノックスと目が合うと子猫はミャーミャーとすがるような鳴き声をあげていた。
「着いて来たのか。こいつはさっきそこで治療した子猫だ。母親はすでに死んでしまっていた。」
「へぇ〜…」
と言いながらアインが子猫を観察する。
「…あのー、ノックス様。この子の親ってどんなのッスか?」
「親か?大きな牙が生えてたな。深い銀色の体毛に黒の斑模様の。」
「そこまで気になるなら自分で確かめてきたらどうだアイン?」
「…それもそうッスね…ちょっと確認して来るッス。」
入れ替わるようにノックスとノエルが椅子に腰かけ、アインが立ち上がって親の亡骸を確認しに行った。
「では、頂きます。」
ノエルがノックスの紅茶を飲み疲れを癒した。
子猫はミャーミャーとノックスに鳴き声をあげ、見上げてくる。
ノックスはひょいと子猫を抱き上げ、テーブルの上に座らせた。
「紅茶用に取っておいたミルクだが、これでも飲め。」
土魔術でちょうど良い大きさの器を生成し、ミルクを注いで子猫に与えた。
子猫は警戒しつつもクンクンと匂いを嗅ぎ、恐る恐るミルクをペロリとし、その後はペロペロと勢いよくミルクを飲んだ。
「ノックス様、この子猫を飼われるので?」
「…ふむ。それも悪くないな。」
そんな話をしているとやがてアインが戻ってきた。
「どうだアイン?何か分かったか?」
「いやぁ、見たことの無い品種ッスね。…でもおそらく動物じゃなくモンスターじゃないッスか?死体から魔石が出れば確実ッスけど。」
「アインでも知らない品種か。モンスターだとするにしても出産直後だったのか、逃げる体力すら無かったのだろうな。」
やがてミルクを飲み満足した子猫はミャーと一際元気な鳴き声をあげて、ノックスの懐に潜り込んでゴロゴロと喉を鳴らして甘えていた。
「モンスターか動物かなどどうでもよい。そうだな……お前が助かったのもノエルとアインの働きによるものだ。なので2人の名前から1文字ずつ取ってお前は今日から『ノア』と名付ける。」
「ミャー」
「…!!…光栄でございます!!」
「ノックス様から褒められたッスか!?やったーー!!!!」
アインは褒められてはしゃいだものの、急激なレベルアップと疲労によりすぐにふらついて尻もちを着いた。
「しばらく休憩したら行くぞ。」
「はっ!!」
「り、了解ッス〜…!」
こうしてノックスたち一行に新たに『ノア』が加わった。