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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第8章 ウィンディア王国
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ノエルv.sマザーアント

 一方、ノエルはマザーとの戦闘に苦戦していた。



 ノエルは素早さを活かして近づこうにも、マザーは強力な酸をスプレーのように撒き散らし、近づく事すらゆるさなかった。


 飛沫がかかったせいか、ノエルの服には小さな穴が空いており、体にもいくつか火傷の痕が見て取れる。


 なんとかマザーの死角に入ろうとするにもマザーの複眼はノエルの動きを正確に捉えていた。



 辺り一面に酸による煙が立ち込めている。



 この煙にはそこまでの攻撃性は無いものの、戦いが長引けば長引くほど次第に目がやられ、やがて肺をも侵食するだろう。




 ノエルは一旦マザーと距離を置き、ふぅぅと深呼吸した。



(奴は俺の動きを正確に捉えて逃がさない。なんとか背後に周り込めればとは思うものの、奴の巨体と酸の前では大回りしなければならず、それではあの眼をかいくぐれまい…

 …それにこの煙……あまり長期戦になるのはマズイ……


 今こそノックス様の教えを実践だ。


 重心を移動させて動きに緩急を付ける……よし。)



 ノエルの目に決意が宿る。




 マザーは距離を取っていたノエルに警戒しつつもじわりじわりと距離を詰め、やがて間合いに入ったところで再度酸を浴びせる。


 ノエルはそれをやや大きめに回避し、マザーとの間合いを測る。


 酸を吐くと言っても絶えず吐き続けることは不可能。


 その切れ目の一瞬を見逃さず、ノエルは重心をより下げて足に力を入れ、マザーの懐へと踏み込んだ。



 マザーの首元に刃が掛かかり、『勝った』と確信した。



 が、ノエルの腹にマザーの足が入り込んでおり、そのままマザーはノエルを払った。



 カウンターをモロに受けたノエルは吹き飛ばされ、近くの岩へと叩きつけられた。



「ぐはっ…!!」


 ノエルは吐血した。


 そしてマザーは無慈悲にもそこへ酸を浴びせかけた。


「くっ!!」


 急ぎ起き上がり回避を取る。


 叩きつけられた岩に酸がかかり、岩はみるみるうちに溶けていった。



『キシャァァァアアアアアア!!!!』

 

 マザーは後ろ足4本で体を起こし、体を大きく見せるかのように威嚇した。



 先程、ノエルに危うく首を斬られそうになったことに激高しているようである。



 マザーはノエルに向けて酸を吐きかけたが、今度は広い面積に吐きかける形ではなく、水圧を上げて勢いよく直線的に吐きかけた。


 ノエルが地を蹴り酸を横へと躱したが、マザーもノエルの動きを感知してその場所へと詰め寄り、前足をノエルに叩きつけた。



 予想外のマザーの行動であったが、ノエルはその攻撃を剣で受け止めた。


 当然の如く、そこへとマザーは自分の前足ごとノエルに酸を浴びせかける。


 ノエルは横へと躱し、さらにマザーから距離を取った。



(…このままではだめだ……この煙のせいで目が霞む……呼吸も苦しい………

 ノックス様に言われたことをただやるだけではダメだ…

 奴の複眼から逃れられていない。)



 煙により視覚を奪われ、呼吸すらままならなくなり、ノエルはふらつく。



 その時、ハッと気づく。



 重心の移動とは、当然ながら上下だけでは無い。


 普段意識してはいないが、前や後ろにも重心を移動させている。


 フラフラで足元が覚束無いのもこの重心が不安定であるためだ。



 マザーの複眼はノエルを正確に捉えているが、それは単に『見えている』だけだ。


 マザーはノエルの動きを正確に『見て』、ある程度予測しつつ反撃したり追撃したりを繰り返している。



 視界もほとんど効かず呼吸も苦しく、足もフラフラな状況という絶体絶命の状況の中、ノエルは冷静に分析した。




 意を決し、再びマザーに対峙する。



 マザーは尚も威嚇の体勢を崩さず、ノエルを睨みつけていた。



 ノエルは地を蹴りマザーへと近づく。


 勢いよくそこへ酸がかけられたが、マザーへと近づきながら斜め前方向へと躱す。


 マザーもそれを見逃さず、酸で追撃した。


 ノエルは意識して重心をやや下に下げ、酸を躱しながら前へと進む。


 マザーは近寄ってくるノエルを逃すことなく、今度は前足でノエルを払い除ける。


 その瞬間、ノエルは下げていた重心を元に戻し、動きを緩慢にさせた。


 予測した動きと違う動きのノエルをマザーは目で捕捉していたが、繰り出した前足は止められずに払い除けようと空を切った。


 その一瞬の内にノエルは重心を一気に下に下げ、最大速度でマザーの懐へと入り込んだ。


 マザーは入り込んできたノエルへ酸をかけようとしたが最大速度のノエルに掛けられず、複眼には自身の首元に刃を掛けるノエルが映る。


 空振りした前足を先程と同じようにノエルの腹へと繰り出そうとしたが、捉えていたはずのノエルが複眼から消え失せた。



 ノエルはマザーの首元に刃を掛けたのも一瞬。実際はマザーの体を足場にして宙に飛んでマザーの後方へと移動していた。



 マザーの完全な死角から両手の剣を首に掛け、そしてマザーの首を両断した。



 ノエルの着地に続いてマザーの頭部が地へと落ち、頭部をなくした体はやがて崩れ落ち、マザーは完全に絶命した。

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