ノックスv.sハウンド
さらにあれから1年が経過した。
ノックスのスキルはさらに磨きが掛かり、弓術に関してはレベルが4、罠が3、隠密5にまで成長していた。
レベルに関しても51。
魔法も10ヶ月前にようやく火の魔法を発動することができた。
ライター程の大きさしかなかったのだが、それ以降は面倒な火起こしを省略できるようになった。
その後も魔術の練度を高めていき、今や火だけではなく地・水・風・雷の魔法に加え、医療魔術をも行使することが出来るほどだ。
これも偏に前世のRPGの知識の賜物である。
そんなノックスだが、ただいまモンスターから逃走中。
狼のモンスターに追われているのだ。
体長はハスキー犬程の大きさであるが、体毛は黒。この世界ではハウンドと呼ばれるモンスターである。
彼らは群れで狩りを行い、狡猾に獲物を仕留めていく。
ノックスも彼らの危険度は認識していたものの、まだ遠くにいると油断していた。
遠くに見えていたのは囮。実際は気配を殺したハウンドが取り囲んでいたのだ。
不意打ちを喰らい、ハウンドの前足の爪が肩に突き刺さり、胸元にかけて切り裂いた。
咄嗟に身をよじったものの、深手を負ってしまった。
すぐさま治療魔術をかけながら、必死で逃げる。
生暖かい血が体を伝う。
逃げるノックスの背後からハウンドは追撃を逃さない。
飛びかかってくるハウンドを凌ぎつつ、治療魔術で止血させる。
ハウンドはノックスを囲う形で並走し、次々に飛びかかって攻撃をしてくる。
軽く止血を済ませ、ハウンドのいる方向へと火球を見舞う。
が、走っている状況の中当てられる訳もなく、周りの木々に当たり燃やしただけだ。
ハウンドはゴブリンと違い知能が高く、嗅覚が鋭い。
ノックスの仕掛けた罠はその嗅覚でもって難なく掻い潜られていた。
ハウンド達からの幾度と無い攻撃を躱しながら逃げるノックスだがスタミナに限界が近づく。
絶対絶命。
そんな4文字が脳裏によぎる。
開けた場所へと逃げ込んだ。
ニオイで追跡されているなら、川でニオイを絶とうとしてこの場に逃げ込んだのだ。
だがすでにハウンド達は先回りしていた。
背後からもハウンドの足音が聞こえる。
ノックスは川にいくつかある岩の上に登った。
少し高い位置からハウンド達を見やると、12頭ものハウンドがノックスを取り囲んでいた。
もう逃げられない。
ハウンドはグルルルと牙を向き、今にも飛びかかって来ようとしている。
だがノックスも諦めた訳では無い。
ノックスは体内でありったけの魔力を練り上げ、川に向かって雷魔法を行使した。
凄まじい稲光がハウンド達を襲う。
ノックスから放たれた雷撃により筋肉が収縮し、ハウンド達は身動きひとつ取れない。
やがて近くにいたハウンド達から順に煙が立ち上り、肉の焼ける臭いが辺りを包む。
時間にして10秒ほど。
だがその雷撃により12頭いたハウンド達のうち11頭は絶命していた。
残りの1頭は辛うじて生きているものの、立っているのがやっとの状態である。
しかしそれはノックスとて同じ。
MPを全て使い切ったノックスであったが、気力を振り絞って立ち上がり、弓矢を番え、残った1頭のハウンド目掛けて矢を放った。
最後のハウンドを仕留めきったのを見送ると、ノックスは緊張の糸がプツリと切れ、その場で意識を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数時間後、目を開けたノックス。
体を起こそうにも気だるい。
なんとか体を起こし周りを見やると、絶命しているハウンドが川のせせらぎによりそこらの岩に打ち寄せられていた。
あの状況でよく生きていたものだ。
まさに絶対絶命であった。
魔力枯渇は魔術の練習中に1度だけなりかけた。
だが今回のように完全に枯渇したのは初めてである。
気絶していた間に別のモンスターにでも襲われなかったのは幸運であろう。
だがこんなことを繰り返していてはいくつ命があっても足りない。
いつまでもここにいる訳にもいかないので、ノックスは少しばかり回復した体力で、ハウンド1頭を担ぎ、拠点へと戻った。
簡単に解体し、肉を干す。
さすがに調理するほど体力も無かったので保存食を食べることにした。
その際、ステータスを確認すると、なんとレベルが50以上も跳ね上がっており、現在のレベルが104となっていた。
スキルも自然治癒が4から6へ、魔力制御が3から5へと上がっていた。
今日のようなことがまた起きるとも限らない。
弓に頼ってばかりではいざ近接戦になった時には逃げるしかない。
この日、ノックスは剣術や槍術に関してのスキルを磨こうと決心した。