新天地
ウィンディア王国領。
大陸の北東に位置するこの国は、人族以外の種族が数多く暮らし、国王もまた獣人族であった。
かつてここには多くの種族が移り住んだ影響で、種族間の諍いが絶えず、殺し合いにまで発展するほど殺伐としたものだった。
そんな中、当時の獣人族の族長であった象の獣人スローン・ヴェルテ=マンムートが各種族の族長と長年に渡り話し合い、折り合いを付け、一纏めにした。
そして国王としてそのスローンが座に着いた。
とは言え一筋縄ではいかず、過去の因縁を引きずる者同士のトラブルが絶えず、未だに完全に和解することができずにいる種族もいる。
現在ここに暮らしている種族の割合は獣人族3割、エルフ族2割、巨人族1割、ドワーフ族1割、鳥人族1割、竜人族1割、その他1割といった具合である。
先程の種族間の諍いが絶えないのは鳥人族と竜人族である。
現在、ノックス、ノエル、アインは国境を越えてこの領へと訪れていた。
国境警備兵の巨人族にザリーナが話し、ロンメア国王から頂いた入国許可証を見せるとすんなりと入領できた。
ザリーナたちに改めて礼を言い、最後にノックスとザリーナはお互いに頷いた。
ウィンディア領は簡単ではあるものの舗装はなされていた。
ここから先は馬車ではなく徒歩での移動になるのだが、アインだけは喜んでいた。
ノエルの発案により、自分たちのレベルとスキル上げのために道中のモンスターはノエルとアインの両名でのみで戦闘することとなった。
ロンメア領にいるモンスターと違い、この辺りのモンスターはより素早いタイプとして進化しているようである。
おそらくは長年獣人族やその他の種族との戦闘により、モンスター側も素早いタイプでなければ生き残れなくなり、淘汰されていったのだろう。
道中何人かの獣人族たちからノエルたちの姿を見て魔族だと分かると、あからさまに避けられているのを見て複雑な気持ちになった。
「魔族と分かると皆避けていくのだな。」
「我々は慣れているので大丈夫です。」
「でもちょっと寂しいッスよね…」
「ロンメアではここまであからさまでは無かったのだが、ロンメアが特殊なのか?」
「それもありますが、1番は『慣れ』の問題かと。おそらくここでは魔族がいないか、もしくはいたとしても本当にごく限られているのでしょう。」
「昔生きてたじいちゃん・ばあちゃんら世代も、ウィンディアに暮らしていたなんて話聞いた事無いッスね。」
「…そうなのか。それだというのにあっさりと入国を許されたのは許可証のおかげ…か。」
「はい。ロンメアのように教会に属していない国であっても、我ら魔族の入国はかなり難しいですから。」
「となると宿の問題か。最悪の場合は野宿だな。」
「我らは慣れておりますが、ノックス様は?」
「俺も『悪魔の口』では基本的に野宿だ。後半はそうでもなかったがな…」
ノックスは『悪魔の口』にいた頃を思い出し、最後の拠点はスケルトンたちがログハウスを建ててくれた事を懐かしんだ。
「後半は拠点を作られたので?」
「あぁ。と言っても俺だけじゃなく、基本的にスケルトンがログハウスを作ってくれたんだ。」
「「スケルトンが!?」」
「そうだ。すでに死んだ奴らだが、アイツらも元気にしているといいんだがな。」
「まさかノックス様、暗黒魔術を使ったんッスか!?」
「いや、そのスケルトンは前から居た奴らだ。」
「え、でもスケルトンッスよね…?てことは使役魔法ッスか!?」
「違う。使役魔法は固有魔法だったか?俺にそんな魔導知識は無い。」
「ならなんでスケルトンが!?」
「奴らのボスみたいなデカく凶悪な魔法を使用してくるスケルトンを倒した直後、他のスケルトンがいきなり俺に忠誠を誓ったんだ。」
「デカくて……凶悪な魔法………スケル…トン……」
「ま、まさか…ノックス様、そやつは『リッチ』ではございませんか…?」
「名は知らん。最初に対峙した時は精神に作用する魔法を使用してきて危うく自殺させられそうになったがな。」
ノエルとアインは言葉を失った。
ノックスが戦った『リッチ』とはスケルトンの中から極稀に生まれる災害級のモンスターである。
過去にリッチが出現した時にはいくつもの街が滅ぼされ、各国から有能な魔術師総掛かりでようやく倒せたというのだ。
その後の調査で、リッチが出現してしまったのは死体に適切な処理を行わずに土葬していたのが原因とされ、国際法で死体の火葬が義務付けられた程である。
「な、なるほど…ノックス様はスケルトンの王であるそのリッチを倒したことで、新たな王としてスケルトンが配下になった、というわけでしたか。」
「ノックス様……いくらなんでも、パネェッス…」
「昔の話だ。…そんなことより、何やら南東からモンスターの気配だ。数は…およそ50。」