ラガービール
ノックスたち3名がロンメア王国の門を潜ると、そこにはザリーナが馬車を連れて待機していた。
「ザリーナ殿、どこかへ出掛けるのか?」
「…いや、これはノックス殿たちを国境まで送り届けるため、陛下より遣わされたのだ。」
「わざわざ馬車まで用意していただいたとは、感謝する。」
「さっさと乗るのだな。私も忙しい。」
「そうだな。じゃあ甘えさせてもらおう。」
ザリーナは素っ気なく振り返り、御者席に乗り込んだ。
ノックスたちが荷台へと乗り込もうとした時、遠くから走ってくる人影がいた。
「ノックスさーーーーん!!待ってーーー!!」
ノックスが見やると、ドランが走ってきていた。
「ドランか。」
「はぁ…はぁ……良かったぁ……はぁ…はぁ……間に合ったー!!」
「わざわざ見送りに来てくれたのか?」
「はぁ…はぁ…それも…ありますけど…はぁ…はぁ…あの……ノックスさんに……言われてたやつ…」
ドランは呼吸を整えながら自身のマジックバックから350mLほどの大きさの瓶を取り出した。
取り出された瓶はコルクで栓がされており、キンキンに冷えているらしく、外の温度差のせいで冷たい蒸気をもくもくと放っていた。
「これは?」
「ノックスさんが言ってたビール、第1号です!」
「な……な………なんだと………!!つ、ついに…!?」
「まだ試作段階ですけど、なんとかここまで形に出来ました!これをノックスさんに最初に飲んで貰いたくって!」
「いいのか!?」
「もちろんです!!」
ノックスは目を輝かせつつ瓶を受け取った。
瓶はキンキンに冷えている。
徐にコルクをキュポンと開け放つと、ビールの香りと共に瓶の口からも冷たい蒸気が溢れ出た。
「では、いただくぞ…」
ゴクリと生唾を飲み、そして1口。
夏場だというのにキンキンに冷えたビールが口いっぱいに広がる。
炭酸が舌をシュワシュワと刺激し、続いてビールのコクが広がり、その後ホップの苦味がちょうど良いバランスで広がった。
エールのような甘い華やかな香りは無く、キリッとした飲みごたえであった。
1口飲んだのも束の間、その後ノックスはゴクゴクとビールを飲み、炭酸が目にしみたのか、もしくは念願のラガービールを飲めたことに感動したのか、目に涙を浮かべていた。
「どうですか!?」
ドランがビールの出来を確認する。
「どうもこうもない……素晴らしい出来だ……!!ドランの分は?」
「じゃあ、俺もいただきます。あ、良かったら皆さんも!」
ドランがノエルたちにもビールを振舞った。
ザリーナは任務のために拒否していたが、お礼にと国王の分を含めて2本受け取らせた。
そして、皆にビールが行き渡ったところで、改めてビールを呷った。
「…カーーーーッ!!このビール、ヤバいですね!!」
「な、なんだこのビールは…?というより、これはビールなのか…?」
「この暑さにこのビールはめちゃくちゃ美味いッスー!!しかも朝から酒飲めるなんて、こっちに来て良かったーー!!!!」
皆は初めてのラガービールを堪能していた。
「ドラン、改めて礼を言う。ありがとう。」
「いえいえ!こんなビールがあるだなんて教えて貰った俺の方がありがたいですよ!」
「もしも俺たちの国を作ったらこのビールは是が非でも取引させてもらう。」
「ははっ!そん時はお願いします!お急ぎなところ引き留めちゃってすいませんでした!」
「本当にありがとう。ドラン。他のみんなにも宜しく。」
ノックスはドランと握手を交し、改めて荷台へと乗り込んだ。
「ノックスさん、他の皆さんも!お気をつけて!!またこの国に来る時までに、このビールをもっと洗練させておきまーす!!」
ノックスたちが乗る馬車にドランは手を振りながら見送った。
今日この日がこの異世界にて、世界初のラガービールが日の目を見た瞬間であったとは、誰も想像だにしなかった。
ノックスは必ずこの国にまた戻ると心に誓った。