同行者
ノックスが王国図書で情報収集、及び、王国兵に訓練を施している間、ローシュたちはノックスと共にウィンディア王国へと同行するメンバーについて話し合いを行っていた。
というのもさすがに全員でゾロゾロと移動はできず、残していくメンバーにも当然護衛が必要となるからである。
ローシュは歳が歳なので護衛に付く。だが、ノエル・ナタリア・リドル・アイン・モズの誰を同行させるかについて、かなり議論を重ねることになった。
特にナタリアとモズがどちらも同行すると言い出し始め、互いに引き下がろうとはしなかった。
アインは口には出さないが護衛側に付きたい考えである。
それならばナタリアとモズの両名とも同行させればいいだけなのだが、ナタリアはモズに、モズはナタリアに来て欲しくなかったようだ。
普段仲が悪い訳ではなく、むしろ良好な関係なのだが、事がノックスのことになると敵意をむき出しにしていた。
そんな中にローシュが割って入った。
「お前たち、分かっておるのか。ノックス殿と遊びに行く訳では無いんだぞ。
同行する者はノックス殿と共にウィンディアへと行き、その後はアステル島で火龍と戦闘になるということを。」
「言われずとも分かっておりますわ。ですから、この私めがノックス様と共に行き、ノックス様の手となり足となりお世話を致しますのよ。」
「ナタリアさんではダメです!ナタリアさんはご飯とか作れないじゃないですか!あたしならできます!」
「…あれをご飯と呼ぶのか…?」
リドルがボソッと呟いた。
「そんなんだったら、2人とも同行すればいいじゃないッスか?」
「「ダメよ(です)!!」」
「えぇ、なんで?」
「な、なんででも!!」
「当然よ。モズがいたんじゃノックス様と……」
「まったく…貴様ら分かっているのか!!」
ノエルは呆れ返っていた。
2人はお互いにノックスを取り合い、出し抜こうとしているのだ。
まったく話がつかない状況の中、そこへノックスがやってきた。
「おぉ、ノックス殿。ご苦労であった。収穫はあったのか?」
「あらかた知りたいことは分かったが、本が多くてな…こっちはどうした?なにやら険悪なムードだが?」
「どうにもこうにも…ノックス殿と誰が同行するかで揉めておるのだ。」
「ノックス様、同行にはぜひともこの私めを!!ノックス様の手となり足となり、色々とお世話させていただきます!!」
「ダ、ダメです!!ノックス様!!ナタリアは料理ができません!!それならばあたしのほうがノックス様のお役に立ちますー!!」
「…モズの…料理………」
ノックスは先日モズが振舞ってくれた料理を思い出した。
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使われた食材を何をどうすればこんな事になるのか、というほど、おどろおどろしい見た目であった。
「ノックス様の為に丹精込めて作りました!」
とモズが照れくさそうにしていた手前、食べない訳にも行かず、1口食べてみたが案の定、クソほど不味かったのだ。
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「ノックス殿のほうで決めてくれ。このままではいつまで経っても埒が明かぬ。」
状況を打破するためにローシュはノックスに決めてもらう事にした。
ノックスとしても毎日モズのあの料理を味わうなど地獄でしかない。
「…わかった。ならば同行はノエルとアインだ。リドルとナタリアとモズはここに残って護衛を頼む。」
「な…な……!!」
「ノックス様ーー!!」
ナタリアとモズはこの世の終わりのような顔をしていた。
「お、俺ッスか!?な、なんで?」
アインに来てもらう理由は1つ。この中で1番まともに料理ができるからだ。
が、その事を理由にするとナタリアやモズが反論してくるのは明白なため、必死に理由を考えた。
「ノエルは言うまでもなく、ローシュの次に手練であるからだ。アインは……えっと……未熟だからだ。」
「えぇー!!そ、そんな理由で!?」
「何を嫌がるかアイン。ノックス様から直々に手ほどきを受けられるなど至極光栄なこと。
お前はまだまだ魔術師として未熟であり、リドルと違ってサボり癖があるお前は目の届く所に置いて性根から叩き直そうというノックス様の計らいだ。
そうですよね、ノックス様?」
「…う、うん。そうだ!その通りだ!流石はノエルだ!」
「はっ。ありがたきお言葉。」
「それに残るからと言って護衛だけでは無い。その間も訓練をし、スキルやレベルを上げる。
またそれだけではなく、アステル島を制圧した後はここにおる皆をアステル島へと連れて来なければならん。
その際の治療や護衛にはリドル、ナタリア、モズのバランスであれば一番安全だと考えられてのことだろう?ノックス殿。」
「そ、そうだ!流石はローシュ殿だ!」
「さすがはノックス殿。先を見据えての判断だ。」
ノックスは決め手が料理だとは口が裂けても言えなくなっていた。