王国図書
襲撃者がロンメアを襲った日から早3ヶ月。季節は真夏であった。
余談になるが、ノックスは『悪魔の口』内部で日付の換算をしていたが、この世界は地球と違い若干ズレが生じていた。
というのも、この世界も地球と同じく当初は365日で1年と考えていたのだが、3年目にかかる頃にはズレているのではないかと疑い始め、5年目には確信に変わったのだ。
5年が経過した時には約1ヶ月ほど暦がズレていると確信した。
そこで日付換算を計算し直し、1年は360日なのではないかと推測したのだ。
その後ロンメアに訪れ、改めて暦を確認するとやはりというべきか、ノックスの考えていた通り、1年は360日であった。
1ヶ月が30日であり、12ヶ月。曜日は八竜伝説に準えられており、白・黒・金・火・地・水・風の8曜日で1週間は8日間あるようだ。
白の日が休日だったのだが、それは過去に勇者が白龍を倒したことによるものらしい。
それならば地の日も休日にすべきだろう、などとノックスは考えていた。
話を戻し、ノックスたちは着々とアルテア島に行くための準備を進めていた。
国王への要望にあった王国図書の閲覧が許可され、ノックスは様々な書物を読み漁った。
ただし、図書の閲覧が認められる代わりに、王国兵への訓練をするという交換条件であったが。
王国図書ではノックスが知らない知識で溢れていた。
まずは魔法。
ノックスが操れる魔法はさておき、この世界には他に様々な魔法が存在していた。
ワーグナーやザリーナが使用した自身の能力を底上げする『付与魔法』。
襲撃者が狂戦士と化したのもこの付与魔法によるものだろう。
他には『呪術魔法』。
こちらは付与魔法と逆に対象者の能力を下げたり、あるいは何らかの制限を施すものらしい。
ただし、呪術魔法には魔法陣が必要のようであり、取得にはかなりの魔導知識が必要とされていた。
そして、禁術として『暗黒魔法』というものがあるそうだ。
死者を蘇生させ使役したり、対象者の命を直接奪う魔法などもあるようだ。
暗黒魔法については使用そのものが禁止されているだけでなく、調べようとすることすら禁止されているという。
なので王国図書でも暗黒魔法には存在のみが書かれているだけで、使用方法やメカニズムなどが記載しているものは一切見当たらなかった。
面白いものだと『空間魔法』というもの。
こちらはなんと、他地点へとワープできるというかなり便利そうな魔法であった。
だが、使用には莫大な魔力が引き換えな上、ワープと言っても何十キロと離れた地点にはワープできなく、未だ研究中の魔法であるとの事だった。
様々な魔法知識を知る中で最も目を引いたのが、『固有魔法』というものであった。
こちらに関しては教会がその権利を独占しており詳細が不明であるが、人それぞれどの魔法にも属さない魔法ということであった。
今現在確認されている中では、モンスターなどを操り使役させる魔法や、人間を爆弾にさせる魔法など、物騒な物まである。
教会がその固有魔法の権利を独占しているということは、今後教会との戦闘にはそちらも留意しなけらばならない。
他の書物には各種称号のことが記載された物も存在した。
現在確認されている称号は、『勇者』『聖騎士』『竜騎士』『暗殺者』『拳闘士』『狙撃手』『賢者』『聖職者』『罠師』『鑑定士』『預言者』、そして『魔王』。
勇者と魔王以外の称号は、剣術や槍術、治癒魔術に攻撃魔術など、それに関わる能力が格段に上昇するもののようであった。
(そういえば俺には『魔王格』という称号があったな。
それについては…………書かれてはないか…)
そう考えつつノックスは改めて自分のステータスを確認した。
そして、自身の称号にあったはずの『魔王格』の『格』が無くなり、『魔王』となっていることに気がついた。
(…?…一体いつ『格』が外れたのか……まあいい。
『魔王』の称号…か……)
『魔王』と聞くと過去の勇魔大戦を初め、前世でのRPGでも悪の権化のようである。
が、ノックスはすでに教会と敵対する以上、向こうからすれば悪の権化であることに変わりは無い。
ノックスはフッと鼻で笑った。
王国図書では他に転生についても調べてみた。
自身が転生者であるように、他にも転生者がいるかもしれない。それに、なぜこの世界に転生されたのか、その理由を調べるためだ。
結果から言うと、それはあった。
しかし『転生魔法』というものは存在せず、また、暗黒魔法の死者蘇生とも違うとされていて、すでに死亡した人間に異世界人の魂が定着し、蘇生する。そう書かれているだけで、方法などが存在するかどうかは研究中ということのようだ。
それにこの転生には異を唱える者も数多く存在し、『そもそも瀕死の者が息を吹き返した』、とか、『頭などを強打したことによる記憶の混濁』、『自身に暗黒魔術を施したことによる蘇生』などなど、様々な憶測が飛び交っているようである。
さらに言えば、先程の最後の理由により転生者はその存在を知られると禁術使用を疑われ投獄されるようだ。
言わなくて良かったと安堵する一方、地龍の言葉を思い出す。
地龍はノックスが転生者であることをすんなり受け入れていた。
もっと地龍から聞ければ良かったのだが、一方的に見届けてやると言われて息絶えてしまったのが悔やまれた。
もしかして自分の体の中に地龍の意識が入り込んでいたりするのかと思い心の中で地龍に呼びかけるも、何も反応が無かった。
ノックスは他にもこの図書で思いつく限りのことを調べようと考えていたが、書物が余りにも膨大であったために図書での調べ物を一旦切り上げた。