食事会
ノックスは王宮へと案内され、一際豪華なダイニングルームへと招かれた。
中央には大きなテーブルがあり、純白のテーブルクロスが掛けられており、燭台がいくつか並んでいた。
そのテーブルに次から次へと豪華な食事が運び込まれた。
鳥の丸焼きにTボーンステーキ、ムニエルにサラダやスープなどなど、前世でも見たことの無いほど豪勢な食卓であった。
「ノックス殿はこちらの席へとお座りください。」
フランクに促され、席へと座る。
その後ハルバートやワーグナー、ザリーナも席へ着き、向かいの席にはフランクが席に着いた。
上座の2席には王妃が座る。
そして最後に国王がノックス側の上座へと座り、給仕が皆のグラスに酒を注いだ。
「今日まで皆ご苦労であった!そしてノックス殿!そなたの協力に感謝する!!乾杯!!」
国王がよく通る声で乾杯の音頭を取った。
ノックスは酒を1口煽った後、すでに目は料理に釘付けである。
あれもこれもと色々取り分け、がむしゃらに料理を堪能していた。
「はっはっはっ!ノックス殿、そう焦らずともお代わりならいくらでもあるぞ!」
そう言われてハッと我に返る。
「…失礼しました。これほど豪勢な料理にお目にかかったことなどないもので。」
「よいよい。そういえばノックス殿はアステル島で拠点を構えると言っておったな。火龍をどうにかしたとして、その後の当てはあるのか?」
「戦闘職であれば俺を含めてどうとでもなるのですが、家を作ったり料理を作ったりなどの専門職についてはまだ手付かずです。」
「なるほどのう。かつてはエトワールという国があったらしいが、今ではもうほとんど朽ち果てているか、火龍により再起不能なまでに悲惨なことになっているだろう。」
「その手の職人を見つけられればいいですが、なんにしても先ずは安全を保証出来なければなりませんね。」
フランクも間に入る。
「して、ノックス殿よ。そなたに少し質問があるが、よいか?」
国王が改まってノックスへと尋ねる。
「えぇ、なんでしょうか?」
「そなたらが作る拠点。いずれそれが拡大すれば『国』となろう。となれば、先導であるお主が国王になる。
お主はその国をどのような国にするつもりなのだ?」
「『国』…ですか。まだハッキリと決まった訳ではありませんが、そうですね。」
ノックスの言葉に皆が耳を傾け、いつしか部屋は静かになっていた。
「『悪魔の口』から出て初めて訪れたのがこの国です。この国には実に多種多様な種族が暮らしているのを見ました。
この国の理念である『全ての種族に人権を』というのは素晴らしい理念だと思います。
俺も今後国を立ち上げるなら、この国のように種族に分け隔てなく暮らしていけるような国にしたいと思ってます。
そして、青臭いことかもしれませんが、か弱きものを守り、いかなる理不尽も許さない、そんな国にするつもりです。」
「…ふむ。だが、お主らの行く先には必ずや教会が立ち塞がる。おそらくは教会はお主らのことを根絶やしにかかるだろう。
となれば、戦争は避けられまい。
戦争となれば、どちらが勝つにしろ必ず犠牲が出る。
お主の言うか弱きものを守るという言葉とは矛盾するのではあるまいか?」
国王は至極突然の質問を投げかけた。
ノックスはその質問に少し目を瞑り、やがて語り始めた。
「俺がこの王国に入ってしばらくして、1人の少女と出会いました。
歳の頃は10歳程。普通なら同い年くらいの子供たちと遊んだり喧嘩したりと笑ったり泣いたりする年頃の子供です。
その少女と最初に出会った時、彼女は感情が消え失せていました。
さらに目も虚ろで、半開きにした口から覗かせた歯は欠けており、所々抜け落ちていました。
体にも複数の打撲痕がありましたが、それ以上に彼女は多数の男から嬲られ、二度と子を産めぬ体にされていました。
彼女には姉がいたそうですが、自分と同じかそれ以上に嬲られ、衰弱し、自分の目の前で息絶えたそうです。
『魔族だから』という理由だけで、そんな奴らを裁くことすらできません。
…俺は……俺は、そんな理不尽など絶対に許さない。
そういったか弱きものを守るためであれば、俺はいかなる障害をも薙ぎ払います。」
ノックスは国王を真っ直ぐに見つめ、澱みなく言い切った。
ノックスから語られた話に皆静かに聞いていた。
王妃はハンカチで目元を拭いながら
「なんて惨い…」
と呟いていた。
その少女とは、言うまでもなくシャロンのことである。
やがて静寂を打ち破るが如く国王がスっと立ち上がった。
「皆の者も聞いていたな。ノックス殿よ、いきなり野暮なことを聞いて申し訳なかった。
が、良くぞ言い切った!!
気に入ったぞ!!!!
いいだろう!そなたが『国』を建国する際にはこのロンメアも協力を惜しまぬ!!
そして、建国した暁には、このロンメアが第一友好国として同盟を結ぼう!!
うわっはっはっはっ!!!!」
国王はそう言い放ち、豪快に笑った。
「よいのですか?俺たちの行く先には教会との戦争は避けて通れませんが。」
「構わん!!ワシももうあの教会の蛮行には我慢ならん!!」
国王も教会にはかなり頭にきていたようである。
「へ、陛下、そのような事をこの場では…」
「構いませんわ!そんないたいけな子供を嬲るなど言語道断!!絶対に許してはなりません!!」
フランクが国王が宥めるも、国王に続いて王妃までもが火がついたようだ。
ノックスは教会の話でふと思い出し、隣に座っていたハルバートへと質問した。
「そういえばハルバート殿、あの襲撃者はこの王宮へと連行を?」
「襲撃者というのは先日スラムを襲った蛮族ですな。確か名前は『ガンダルフ』だったかと。
…申し訳ありませんが、その者はすでに死亡しました。」
「…なに…?…死んだ…?…そこまで大ケガを負わせたつもりは無かったが…」
「いえ、ノックス殿からの傷で死亡した訳ではありません。その者は、どうも予め胸に呪印を施されていたようで、それが発動し、王宮へと連行中に死亡しました。」