胸の温もり
国王陛下……最後まで職務を全う出来ず申し訳ございません…
遺してしまった部下たち、どうか私に代わって国王陛下を守ってくれ…
お父様、お母様、先立つ不幸をお許しください…
あれだけ楽しみにしていた孫の顔、とうとう見せて差し上げることができませんでした。
私は、私より弱い男には興味が無い、そんな我儘が故に、誰とも縁談を結べずにおりました…
ですが、後悔はしていません。
あれほどの強者と戦い、彼はその強さの一端をこんな私に見せてくれたのです。
彼は私からの挑戦を真正面から受け止めてくれました。
彼が最後に見せてくれた表情は、こんな私にさえ敬意を払って真剣な眼差しで見つめ返してくれていました。
彼に胸を貫かれたにも関わらず、こんなにも胸が温かくなっているのは初めてです。
もしも私に来世があるのならば…どうか彼の元で研鑽を積ませてほしい…
そして願わくば……彼と共に…………
…………
…あれ?
…私は一体いつになれば死ぬのだ?
『……かつ………を……ださい』
…なんだ?
『……あけ……くだ………うかつ!!』
こんな時に騒々しいな…。
『総括!!目を開けてください!!』
馬鹿者が。私はもう死んだのだ。無理に決まっているだろう。
『目をお開けください!!総括!!』
まったく貴様らは、騒々しいにも程があるぞ。
『『『『総括!!!!』』』』
「えぇい!!やかましいぞ貴様ら!!!!」
目を開けるとそこには見慣れた部下共が溢れんばかりの涙でこちらを見ていた。
「総括!!ご無事で…!!」
「目を開けないがら…本当に死んだのがど…!!」
「よくぞ目を開けてくだざいまじだ…!!」
などと口々に発している。
「…なぜ私は生きているのだ…?」
「もう大丈夫だな。」
近くから声が聞こえ、そちらに目をやると見覚えのある男がいた。
いや、見覚えのあるどころか、先程まで殺し合いをした男だ。
私はその男、ノックスの腕に抱かれていた。
意識を回復させたザリーナを確認したノックスは、ザリーナを床へと座らせた。
「流した血まで回復していないから、しばらくは安静にするんだな。」
「…な、なぜ私は生きて…?あの時間違いなく貴殿の刀で私の心臓は……」
「あの後すぐさま刀に治療魔術を纏わせたのだ。」
「き、傷ついた心臓を魔術で…!?………ははは……貴殿は本当に規格外だな……」
「総括…ホントに死んじゃうんじゃないかと……さっきもうわ言で…」
心配していた部下をよそに、意識を取り戻し、頭が冷静になり始めたザリーナだったが、死の間際に考えていたことを思い出し、顔が熱くなった。
「うわ言だと!?私が何を言ったのだ!!」
「へっ?いや、『先立つ不幸をお許しください』とかって…」
「それだけか!?」
「…え、は、はい…」
「本当にそれだけなのだな!!?」
「は、はい!!ほんと、それだけです!!」
ザリーナは部下の肩を揺らして問いただしたが、安堵したのか気を許して貧血で少しふらついた。
「はっはっはっ!!ザリーナよ、お主程の者が慌てるとはのう!!」
「…こ、国王陛下!!お見苦しい所をお見せしました!」
「そのままでよい。それにしてもノックス殿、ザリーナの我儘に付き合うばかりか、治療まで施してくれて、誠に感謝する。ありがとう。」
「いえ、あのまま全力を見せなければ、ザリーナ殿に申し訳ありませんでしたので。」
「ふむ…しかしお主の刀は間違いなくザリーナの心臓を貫いておったはずだが、まさか死者蘇生を?」
「いや、俺にはそんな知識はありません。貫いたあとにすぐに回復魔術を刀に纏わせ、傷ついた心臓をすぐさま治療しただけです。」
「なんと…!回復魔術を刀に…!?」
国王をはじめ、みながざわついた。
「あまり一般的ではないのですか?」
「回復魔術を武器に纏わせるなど、一般的というよりも実践向きではない。」
国王に代わり、ザリーナが答える。
「そうなのか?スケルトンとの戦闘にはかなり役に立ったが…」
『スケルトンに回復魔術!!??』
みなが一斉に声を揃えて驚いた。
その反応にノックスのほうが驚いていた。
「普通は、スケルトンなどのアンデッドには『浄化』という魔法を用いるのだ。
確かにノックス殿の言うようにアンデッドには回復魔術も有効だが、かなり魔力を消費するため効率が悪く、基本的に『浄化』の魔法を行使するのだが…なるほど、そのおかげで私は……」
「そうだったのか。『浄化』の魔術…か。」
「ガッハッハッ!!ザリーナ、お前ほどの者でもノックス殿には敵わなかったようだな!」
振り返るとそこにはワーグナーが立っていた。
「ワーグナー、骨はもう大丈夫なのか?」
「ぬかしてくれるわ!ノックス殿が治療魔術を施してくれたようだな!!お陰様でこの通りピンピンしておる!!」
ワーグナーは筋肉を誇張するかのように見せびらかす。
その様子に先程までの張り詰めた空気が弛緩した。
「とりあえずここではなんですから、王宮へと戻りましょうか。」
「うむ。フランクよ、もてなしの用意を!」
「承りました。」
フランクに促される形でみなで王宮へと戻ることになった。




