ノックスv.sザリーナ 2
「…その傷ではもう戦うのは不可能だ。諦めて降参しろ。」
「はぁ…はぁ……ぐっ…まだだ……まだ私はやれる…!!」
ザリーナは自身に回復魔術を掛け、止血しようと試みる。
その目にはまだ戦う意思が宿っていた。
「貴様こそ…まだ本気を見せていないだろう……言ったはずだ!!」
完全に止血できないまま、ザリーナは再度ノックスへと駆け出して剣を振るう。
「手加減など不要だと!!」
激しい動きにより傷口が開き、幾度となく腹からは血が滴り落ちる。
それでもザリーナは剣を振るう。
「この私に見せてみろ!!」
すでにザリーナの剣の速度は落ち、誰の目にもザリーナの敗北は明白である。
それでもザリーナは剣を振るう。
「貴様の本気を!!」
ザリーナの剣戟を躱していたノックスは、刀でガードしつつザリーナをいなした。
勢いでザリーナは闘技場に倒れ、剣を落とした。
それでもザリーナはギリギリと歯を食いしばり、立ち上がり、よろめきながらも剣を拾ってノックスへと対峙した。
「ザリーナ様!!もうおやめ下さい!!このままでは本当に!!」
観覧席で見ていた部下たちは涙ながらにザリーナへ懇願した。
「…だまれ…これは私が決めたこと……黙って見ていろ…!!」
ザリーナは鬼気迫る表情で部下を黙らせた。
「…ザリーナ様………」
「はぁ…はぁ…さぁ、見せてみろ!!貴様の本気を!!それとも私には見せられんとでも言うつもりか!!」
流した血の量から見てもすでにザリーナは立てるはずもない。
それでもザリーナ立ち上がり、剣を振るう。
歯を食いしばり、目からは涙を流し、傍から見れば無様と言われるような醜態であっても、ザリーナはノックスへと剣を振るう。
もはや誰もそんなザリーナを無様と呼ぶ者などいなかった。
「その気迫、見事だ。最後に俺の本気、とくと味わえ。」
その瞬間、ノックスは自身の隠密スキルを0にした。
隠密スキルにより隠されていたノックスの気迫が解放され、ある者は恐怖し、またある者は失神し、またある者は絶望した。
ザリーナもその気迫に押しつぶされそうになるが、気力でもって自我を保つ。
だがノックスはそんな事はお構い無しに魔法を発動させた。
「地に伏せろ!!」
ノックスを中心に超重力が発生した。
「がっ…!!」
超重力によりザリーナは手に持っていた剣を落とし、膝を付いた。
辛うじて倒れ込まずに踏みとどまっていたザリーナであったが、ノックスはザリーナの元へとツカツカと歩み寄り、ザリーナの首根っこを掴んで空中へと放り投げた。
空中へ放り投げられたザリーナの目に、地上にいるノックスの姿が目に映る。
そして消えたかと思うと、自分の体にヒヤッとした冷たい感触が通ったかと思うと、ノックスが自分と目と鼻の先に現れた。
ノックスは地上からザリーナのいる空中へと一瞬で舞い上がり、そして、ザリーナの胸を刀で貫き刺したのだ。
「こふっ……」
ザリーナの口から血が吹き出し、その血は近くにいたノックスの頬にかかる。
ザリーナは最後の力を振り絞り、ノックスの頬に手を翳す。
だが、その手には攻撃の意思はなく優しく、また、ザリーナの目はとても穏やかであった。
「…あり…が…とう………」
そう言うとザリーナはそっと目を閉じ、そして、意識は深い闇の中へと消えていった。