闘技場
「それではノックス殿。此度の迎撃に対して、そなたには名誉勲章を授けよう。持ってまいれ。」
国王が部下に命じ、勲章の授与式が行われた。
運ばれてきたテーブルには絨毯と同じく豪華なテーブルクロスが掛けられており、その上には煌びやかな小さな箱が置かれた。
勲章の授与式など見たことも無いノックスはどうしていいのかわからなかったが、フランクがノックスから見える角度で片膝を付くよう仕草でもって指示してくれた。
「ノックス殿。此度は貴殿の多大なる活躍により、この王国に安寧を齎した。その功績を讃え、貴殿に名誉勲章を授与する!」
国王がそう言うと先程の小箱からバッジを取り出してノックスへと手渡した。
「えっと、あ、有難く頂戴いたします。」
バッジには国旗が描かれ、金細工が施されており、小さいながらも存在感を放っていた。
前世でもこのような表彰などされた覚えのないノックスは気恥ずかしくも少し誇らしく思えてしまった。
授与式が終わりひと段落かと思いきや、ザリーナが国王へといきなり申し出た。
「陛下!誠に勝手ではありますが、こちらのノックス殿と手合わせを願えませんか?」
片膝を付き、国王に頭を垂れつつも横目でノックスをギラリと睨みつけている。
「国王陛下!俺もです!火龍を倒せるというこの男と是非とも手合わせをさせていただきたい!!」
ザリーナの申し出にワーグナーもすぐさま反応した。
その申し出を聞いて国王は静観していたのだったが、フランクが間に入る。
「本日ノックス殿にお越しいただいたのは国王陛下へのご報告のためです。御二方、そのような申し出はノックス殿に対し些か無礼ではありませんか?」
フランクはそう言いノックスに視線を移す。
「俺は別に構いませんが。」
「しかしですな…」
「フランクよ。ノックス殿が構わぬと申されておる。ワシも少しノックス殿の力量には興味がある。」
「…左様ですか…それでは、早速闘技場へとご案内致しましょう。」
「陛下!ありがとうございます。」
「礼ならワシではなくノックス殿に言うのだな。」
「失礼しました、ノックス殿。私共の提案を飲んで頂き感謝致します。」
「感謝するぞノックス殿!だが後悔はするまいな?」
「かまわん。国王陛下、フランク殿、ご配慮、ありがとうございます。」
「うむ。」
「これはこれはご丁寧に。」
「ハルバート殿とも手合わせを?」
「さすがにその御二方相手の後にとなると、さすがのノックス殿でも手合わせは難しいのでは?」
「…そうか。わかった。」
急遽決まったザリーナとワーグナーとの手合わせのために、ノックスは闘技場へと足を運んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
闘技場は円形になっており、それを囲うように観覧席が設けられていた。
闘技場と観覧席の間は芝生が植えられていたが、フランクが何やら操作すると透明の薄い膜が現れた。
おそらくは競技中、観客に巻き添えを防ぐための魔障壁なのだろう。
国王と王妃は観覧席の専用席へと腰掛け、その隣にハルバートが立っている。
他に観客が誰一人としていないのでもの寂しくもあった。
「それでは、こちらから武器を選択してください。」
フランクから案内された小部屋には、さまざまな木製の武器が並べられていた。
ノックスはその中から刀と同じ形状の木剣を選び、腰へと帯刀した。
「魔法の使用も構わないのですか?」
「当然構いません。先程観覧席に魔障壁を展開させましたので、場外に魔法が飛んだとしても防いでくれます。
…ですが、本当に宜しいので?ザリーナ様もワーグナー様もかなりの実力者でございます。もしもおケガなどされては。」
「お気遣い感謝します。ですが、大丈夫です。」
「かしこまりました。それでは、こちらの扉から闘技場へとお進み下さい。」
ノックスは躊躇うことなく両手で扉を開け放ち、闘技場へと上がった。