要望
玉座へと入ると今まで以上に荘厳であった。
天井からはシャンデリアがキラキラと輝いている。
窓のステンドグラスには、前世で見たトランプの絵札の様な図柄が施されていた。
床には赤い絨毯が敷かれ、金の刺繍がある。
壁には歴代の当主と思われる自画像が並んでおり、その中でもとりわけ大きな肖像画があった。
「ご苦労であった。」
玉座で通りの良い声が響いた。
目をやるとそこには大きな肖像画の人物が立っている。
おそらく現当主のアルフレッドなのだろう。
その隣には椅子に腰掛けている女性がこちらを見つめていた。
そしてさらにその手前を3人の人物がこちらを見ている。
1人はハルバート。1人は厳つい筋肉質のゴツイ男。年齢は40代くらいか。もう1人は女性。鋭い眼光でノックスを見つめている。
「ノックス殿、こちらへ。」
フランクに促されるまま、その3人の手前で立たされた。
ハルバート達3人は片膝を付いて頭を垂れたが、ノックスはどうしていいか分からずにただ突っ立っていた。
すると厳つい男が
「貴様!陛下を前にして無礼であるぞ!!」
と一喝。
「かまわん。今日はこちらの要件で来てもらったのだ。」
国王が通りの良い声で諌めた。
「…はっ。」
「ノックス殿、わざわざ来てもらって悪いな。私がこのロンメア王国国王、アルフレッド・バル・ロンマリア7世だ。そして、こちらは妻のシンディ。
ハルバートはすでに知っておるな。そこの厳つい男は第2支部統括のワーグナー。女性のほうが第1支部総括のザリーナだ。」
国王から紹介され、順に立ち上がりノックスへと一礼した。
「貴殿を招いたのは他でもない、まずはそなたの経緯を教えてはくれまいか?」
「わかっ…りました。ではまず…」
ノックスは久しぶりすぎて不慣れな敬語を駆使して入国前からの経緯を話した。
幼い頃に家を襲撃され家族を殺されたこと。妹を拉致されたこと。そして自分は『悪魔の口』に落とされたこと。
そこで生き延び、生還したこと。
関所でナバルたちを救出したこと。
そして今回の襲撃のこと。
地龍を倒したことや自分が転生したことは伏せ、他は全て詳らかに話した。
国王はその間、表情一つ変えることなく静かに聞いていたが、隣からは驚嘆の声が漏れ出ていた。
「なるほど…そなたも大変な旅をしてきたのだな。此度の襲撃に関してワシも聞いておるが、そなたの協力がなければ更なる被害を被っていたであろう。
感謝する。」
「いえ、俺たちの様なものにまで住む場所をくれたこの国への恩返しです。」
「ふむ。だが、言葉だけの感謝では示しが付かぬ。そなたから何か要望などはあるのか?」
「では…」
ノックスはこの部屋に来る前に整理していた要望を話し始めた。
1. 今回の迎撃にあたり、ノックスの名を伏せてもらうこと。
2. 魔族をこれまで通り住まわせてほしいこと。
3. ウィンディア王国への入国許可書。
4. 王国図書の閲覧
これらの事を国王に要望した。
「4に関しては無理に、とは言いません。」
「なるほど。…ふむ、1から3についてはそちらの要望通りにさせてもらおう。ただし、4の王国図書に関してはフランクと協議が必要だが、かまわんか?」
「ええ。我々…というか特に俺は外の世界の情報を全く知りませんので。」
「わかった。…あと、3のウィンディアへの入国許可書。理由を聞いても構わぬか?」
「俺たちは今後、自分たちの拠点に移るつもりです。ウィンディア王国を抜けてその先にあるアステル島。そちらにて拠点を作ろうと。」
「な、なに!?」
「何を馬鹿なことを!!あそこは火龍の住処だぞ!!」
『アステル島を拠点にする』と聞いたザリーナとワーグナーは声を荒らげた。
さすがの国王もその言葉に驚きの表情を浮かべていた。
「どこの領地でもなく、火龍を倒すか追い払えさえすれば、我々にとって最良の場所です。」
「だとしてもだ!!かつてエトワール王国が滅んだのはその火龍によるものだ!!」
「それは知っている。だが、火龍さえなんとかすればよいだけだ。」
「火龍をなんだと思っている!!そこいらの魔物とは違うのだぞ!!」
「…まあ待てワーグナー。ノックス殿よ、勝算があるのか?」
「勝算という程のものはありません。…が、別に勝てなくも無い。」
「な、な……!!」
ワーグナーとザリーナは呆れてしまって物も言えなくなっていた。
「…ふっふっふっ……はっはっはっはっはっ!!」
国王は高らかに笑った。
「面白い!ノックス殿よ、ウィンディア王国への入国許可書、確かに承ったぞ!!火龍を倒した暁には、このロンメアからも褒美を遣わすぞ!はっはっはっはっはっ!!」
国王は決して小馬鹿にしている感じではなく、ノックスからの言葉を正面から受け止めて豪快に笑った。