八龍伝説
黒フードの男を捕らえ、猿轡を噛ませる。
その際に黒フードを剥ぐと40代ほどの男であり、聖印のネックレスも見て取れた。
しばらくすると衛兵たちが現れ、その男を引き渡した。
その際、壮年の衛兵がこちらへと近づいてきた。
「私はロンメア王国第3支部総括のハルバートと申します。
此度のあなた方のご協力、誠に感謝致します。」
と話しかけてきた。
「これはどうも、わざわざ出向いていただいて。」
とローシュが対応する。
ノエルたちはノックスに報告をしている。
しばらくするとそこへハルバートがやってきた。
「貴殿がノックス殿ですな。噂はナバルより聞いております。此度の襲撃に関して、多大にご尽力いただいたようで。」
「それは構わない。俺は降りかかる火の粉を払ったまで。」
「ははっ。さすがですな。まだお若いというのに。」
「あの者はどうされるので?」
ノエルが割って質問した。
「当然、然るべき処分が下されるでしょう。此度の襲撃においては幾人か犠牲も出ておりますゆえに。」
「教会との全面戦争となり得るのか?」
「さすがにそこまではないでしょう。…が、本国としてもさすがに看過できる事案ではありませんので、当然教会に対して厳正に抗議するでしょうが、まともに取り合うかどうか…ですな。」
ハルバートはそう言い、渋い表情をした。
「奴らのような者がさらに今後来るのか?」
「否定はできません。現在入国に関しては教会関係者はすべて入国拒否しておるのですが、今日のような強硬手段をまた取らないとも限りません。
我々も警備を強化致します。」
「そうしてもらえると助かる。」
「ノックス殿は普段こちらに?」
「たまに顔を出す程度だが、なにか?」
「いえ、おそらくは此度の件に関して、貴殿にはおそらく国王より表彰されるかもしれないので。」
「…俺としてはあまり目立ちたくはないのだが…」
「左様ですか…ですが、国王への報告の際には王城へとお越しいただくこととなります。その点は悪しからずご了承いただきたい。」
「まぁ仕方ないか。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一通り話し終えた衛兵たちは襲撃者を連行してスラムを後にした。
ノックスたちもスラムの拠点へと戻り、ローシュ含めて再度報告を行った。
「火龍…か。」
「ノックス様!そのような無謀なこと、どうか本気になさらないでください!!」
「私共からもお願いします!!」
ナタリアとモズはノックスが火龍と戦わないように懇願した。
「火龍はそこまで危険なのか?というか、伝説の八龍とはなんだ?それに、過去には白龍が勇者たちに倒された?」
「その辺はワシから説明しよう。」
ローシュがこの世界に伝わる八龍伝説について語り始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その昔、この世界に神龍と呼ばれる恐ろしい龍が生まれた。
神龍はこの世の全て滅ぼすとも言われ、人々から大いに恐れられた。
神龍の逆鱗に触れぬよう、人々は細々と生活していた。
しばらくの後、神龍は老い、自身の力を8匹の龍に分け与えた。
それぞれ、黒龍、白龍、金龍、火龍、雷龍、地龍、水龍、風龍と名付けられ、次のように恐れられた。
黒龍。黒き魔術を賜りし龍。かの龍は死者をも蘇らせる魔術を操りし者。決して近寄ることなかれ。
白龍。白き魔術を賜りし龍。かの龍は凄まじい治癒魔術を操りし者。決して近寄ることなかれ。
金龍。鍛冶の術を賜りし龍。かの龍は何者にも傷一つ負わせられぬ武具を操りし者。決して近寄ることなかれ。
火龍。火の魔術を賜りし龍。かの龍は地獄をも焼き尽くす炎を操りし者。決して近寄ることなかれ。
雷龍。雷の魔術を賜りし龍。かの龍はすべてを砕く雷を操りし者。決して近寄ることなかれ。
地龍。地の魔術を賜りし龍。かの龍はすべてを飲み込む大地を操りし者。決して近寄ることなかれ。
水龍。水の魔術を賜りし龍。かの龍は母なる海を統べる者。決して近寄ることなかれ。
風龍。風の魔術を賜りし龍。かの龍は暴虐の嵐を巻き起こし操りし者。決して近寄ることなかれ。
ここまでが八龍伝説である。
今現在分かっていることは、龍にも性格やレベルの違いがある、ということ。
とりわけ黒龍や火龍はとても好戦的であり、危険。
火龍が過去にエトワール王国を滅ぼしたのも、当時の愚かな国王が火龍討伐へ兵を向け、返り討ちに遭うどころかその後国内にまで現れて滅ぼされたのだという。
水龍や風龍はまだ穏やかな性格をしているそうだ。
白龍と金龍と雷龍も自分のテリトリーにさえ入らなければ特に何もしないという。
だが、地龍のみ生態が不明。過去に誰も戦ったこともなければ、姿を見た者もいないという。
ただし、黒龍の住む地域にて、何者か得体の知れない者が戦った形跡があるそうだ。
その形跡から地龍の存在を確信し、伝説となっている。
黒龍はその傷が原因で今は大人しくしているとのことから、地龍は黒龍をも凌ぐ力があるとさえ言われている。
そして、過去の勇魔大戦の折、勇者パーティが白龍を倒した。
勇者たちが白龍に勝利できたのは、白龍は八龍の中でもとりわけ高齢であったとされている。
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「……………」
ノックスはローシュから語られた話をただ静かに聞いていた。
しばらくの沈黙の後、ノックスは重い口を開いて話し始めた。
「……地龍なら、すでに倒した……」
「「「「「「…え?」」」」」」