ローシュの報告
ほとんど一瞬の出来事であった。
ナバルもノックスの実力を知ったふうであったものの、改めて驚愕した。
ノックスは自身の刀に付着していた血を払い、納刀する。
「ウェイドとかいうやつの障壁ごと一瞬とは……」
「アガルトの肉体も凄まじい硬度だったぞ……」
「さ、さすがはノックス殿ですな……」
「ドランは大丈夫か?…フェリス?」
「……あ!えっと!大丈夫です!骨折治しました!」
頬を赤らめてウットリとノックスを見つめていたフェリスはハッとして我に返り、ドランの治療を済ませた事を報告した。
「そうか。」
「ノックス殿、重ね重ねありがとうございます。」
「礼はいい。それにまだ終わっていない。」
「……え?…と言いますとまだ他に?」
「あぁ。ここでは無いが、どうやらこの王国内に入れ違いで密入国した者がいる。おそらくは前に来た教会の奴らだ。」
「ということは彼らは陽動だったと!?」
「だろうな。」
「まずいですな。…おい!すぐに王国に伝令を!!」
「俺も急ぎ戻るとする。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロンメア王国のスラム街にノエルたちが帰還する。
ローシュもすでに拠点へと戻っていた。
「ご苦労であったなノエル。ノックス殿との稽古は為になったか?」
「えぇ。さすがはノックス様、我ら全員を一斉に相手してもかすり傷1つ負いません。
剣術などのスキルアップのほかに、様々な耐性スキルも取得出来、我らとしてもいい経験になっております。」
「でもノックス様、手加減してくれてるんッスけど、いつも骨とか折られちゃって…」
「はっはっはっ。ノックス殿程になれば、我らは羽虫程度のものよ。」
「……にしても耐性スキルアップに関しては……うっぷ……」
リドルのその言葉にはノエル含め、5人全員が顔を顰めた。
「…そこまで厳しいとはな。」
「…えぇ。……して、ローシュ殿のほうは?」
ローシュがノエルたちと一緒に訓練を受けていないのは情報収集のためであった。
いずれロンメア王国から離れ、自分たちで拠点を構える場所を探すために土地の選定を行っていたのである。
「ふむ。このロンメア王国を含むストール大陸で拠点を構えるのは領土問題等から不適当だな。
どこかの無人島も良きかとは思うが、0から拠点を作るとなると些か大変だが、いくつか候補は上がった。
…が、現状1番条件として合うのはこのストール大陸の東にあるアステル島だな。」
「アステル島……どこかで聞いた覚えが……」
「そんなに良い島なんッスか?」
「あの地であれば、周辺に小さい島がいくつもあるため海流が不安定で教会共も簡単には近づけん。…が、少々問題があってな…」
「問題とは…?」
「昔アステル島にはエトワール王国という国が栄えていたんだが、火龍の襲撃により滅ぼされ、今も尚火龍が住み着いておる。」
「「「「「火龍!!??」」」」」
「うむ。なのでノックス殿と我らで火龍を追い払えることが出来れば、最良の土地であろう。今ではその島はどこの国も領有権を持っておらん。」
「ですが火龍ですよ!?伝説の八龍の!!いくらノックス様がお強いとは言え、無謀にも程があります!!」
「そうです!!その地の領有権を誰も持たないのは、誰も倒せないからです!!
伝記には昔、勇者たちが力を合わせて白龍を倒したとありますが、それは老齢の白龍であったからです!!
ローシュ殿はノックス様に死ねと!?」
ナタリアとモズはノックスの身を案じて激高した。
「そこまでは言っておらぬ。ただ、最良の土地となるとアステル島がいいという判断だっただけだ。」
「し、しかし!!」
「……ノックスおにいちゃん、しんじゃうの…?」
「…!…シャロン…!」
話に夢中でシャロンが部屋の近くに来ていたことに気づかなかった。
当初は部屋の外にいたシャロンは『ノックス』『死』という言葉が聞こえ、堪らずに部屋に入ってきて涙を浮かべて問いただした。
「大丈夫だシャロン。不安にさせてしまってすまない。ノックス殿をむざむざ死なせたりなど、そんなことは絶対にしないから安心しておくれ。」
ローシュは先程とは打って変わって穏やかな表情でシャロンにそう答えた。