ノックスv.s黒フード
衛兵たちが狂戦士と化した山賊たちと戦闘が開始されて間もなく、黒いフードの者の姿はすでにそこに無かった。
その者は山賊たちを狂戦士化させてすぐに森の中へと姿を眩ませており、仲間と合流していた。
「ロンメア王国軍…噂通り中々の手練がいましたよ。やはりあんな程度の山賊共を狂戦士化しても無駄ですねぇ。」
「なるほど…ただそれなりの消耗はさせただろう。次は…お前たちの出番だ。」
別の黒いフードの者がそう言い、捕らえられている5人に目をやった。
「お、俺たちに何させるつもりだ?」
「なに、少しあの衛兵共と戦ってくれさえすればよいのですよ。逆らえば…分かりますよねぇ?」
そう言うと近くにあった死体に目をやる。
「逃げようとしても無駄ですよぉ?大人しく我々の言う通り、衛兵たちと戦ってくれれば、解呪させてあげますから。」
「あ、あの山賊たちは…?」
「はぁ…あんな程度の低い連中は使い物にはなりませんでしたよ。ですが、あなた方は違いますよねぇ?」
「なるほどな。呪術とやらで逆らえば死、というわけか。」
「えぇそうです……って誰だ!?」
黒フードが振り返ると気配を完全に殺した男が立っていた。
そう。ノックスである。
ノックスは衛兵たちが狂戦士化した山賊たちと戦闘して間もなく、あの黒フードをつけていた。
捕らえられている者たちに見覚えはないが、出で立ちから察するに冒険者パーティのようであった。
「いつの間にここへ……いや、そんな事はどうでもいい…」
「えぇ、見られた以上、生かして置く訳にはいきませんからねぇ…!」
黒フード2名はすぐさま戦闘態勢に入った。
1人は両手にナイフを装備し、ノックスへと駆け寄り斬撃を見舞う。
ひらりひらりとそれを躱すノックス。
その間にもう1人の黒フードが何やら魔法を行使した。
するとノックスの足元に魔法陣が現れ、ノックスの動きを封じた。
「終わりですよぉ!!」
ノックスの顔面目掛けてナイフが襲う。
だが、動きを封じられたはずのノックスは顔だけでナイフの攻撃を避ける。
「えぇ!なんでぇ!!??」
魔術師の黒フードが叫ぶ。おそらく今まで1度もこの魔法陣の展開中に動かれた事が無いのであろう。
「…驚きましたよ。で・す・が、もうお終いです。」
ナイフを避けたがノックスの頬の皮1枚斬ることには成功していた。
「ふふふふふ…このナイフにはですねぇ、猛毒が仕込んであるんですよ。かすり傷でも体は次第に言うことを聞かなくなり、やがて死にいたるんですよぉ…!…ほぅら、もう足元が覚束なくなってきたんじゃないですかぁ?」
ナイフを持った黒フードは厭らしい笑みを浮かべながらノックスを挑発していた。
が、当然毒耐性10を所持しているノックスに毒など効かない。
足元が覚束無くなるどころかピンピンしているノックスを見て、次第に黒フードから余裕が消える。
「え?な、な、なんで…?」
「その程度の毒など効かん。」
「…!!毒耐性か!!い、いや、それでもこの毒は…」
と言いかけたところでノックスが一瞬のうちに背後に周り、延髄に手刀を見舞う。
手加減はしたものの、高威力により黒フードは地面へと叩きつけられた。
幸いにも辛うじて息はしていた。
衝撃により黒フードがはだけ、正体が露わになる。
その者は顔を黒く塗りつぶした中年の男であった。
首には教会の聖印と思しきネックレスが見えている。
「次はお前だな。」
ノックスが魔術師の黒フードを見やる。
が、すでにそこに魔術師の黒フードの姿はなくすでに逃げていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「冗談じゃない!!なんだあの男!!あんな化け物、情報にない!!早く教会に知らせねば!!」
魔術師の黒フードは自身にスピードアップの付与魔法を掛け、猛スピードで退散していた。
「アガルトも不運だな。だがそのおかげでこちらが逃げられたのだけど…」
「ほう。あの男の名はアガルトというのか。」
「………は?」
「悪いが逃がす訳にはいかん。」
ノックスは黒フードに同じく手刀を見舞った。