狂戦士
その男がこちらに聞こえない程度にボソボソと呟いたかと思うと、手にしていた杖から怪しげな光を放った。
そしてそれに呼応するかの如く、切り伏せられていた山賊たちも光り出す。
「ぐぁぁああああああああ!!!!」
山賊たちが悲鳴をあげてのたうち回る。
その異様な光景に衛兵たちは後ずさり警戒した。
やがて光が収まると、苦しみもがいていた山賊たちが立ち上がった。
傷は全て塞がっていた。
が、それは回復魔術を施されたからではない。
異常な程に膨らんだ筋肉により、傷口が塞がれただけである。
山賊たちの目は既に理性が宿っておらず、歯をむき出しにして口元からはヨダレが垂れている。
「…やれ…!」
フードの男がそう言うと、山賊たちが一斉に衛兵たちに飛びかかった。
「警戒しろ!!各個撃破にかかれ!!」
ナバルの命令により衛兵たちが再度迎え撃つ。
が、先程までと打って変わって山賊たちが強化されている。
パワーもスピードも段違いだ。
それ以上に、恐怖心すら持ち合わせていない。
自分が斬られても気にするでも臆するでもなく向かってくる。
「みなさん離れて!!……えぇぇい!!!!」
フェリスが山賊たち目掛けて火魔術を行使する。
だが山賊たちは斬られた時と同様、自身が燃やされているにも関わらず変わらずに衛兵たちに向かってくる。
「…な、なんで…?」
「…仕方ない……!みな、首を刎ねよ!!」
徐々に劣勢に立たされ始めた状況に、もはや山賊たちの命の心配をしている余裕はなかった。
ナバルの命令により、山賊たちの命を奪うべく攻撃方法を切り替えた。
1人、また1人と山賊たちの首が刎ねられ、やがて山賊たちは全員、首を刎ねられた。
全て片付いた時には、あのフードの怪しい者の姿はすでにそこには無かった。
安堵している時間もない。
また第2第3の山賊たちがやってくるかもしれない。
「皆の者、ポーションですぐに治療だ。フェリス、MPは?」
「まだいけます…!」
「念の為マジックポーションを飲んでおけ。今のうちに体制を立て直すぞ!」
「「「「「はっ!!」」」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
皆の体制が整い始めた頃、ナバルはフェリスを含め、皆を呼び出した。
「フェリス。」
「え、はい!」
「あの山賊共の豹変、魔導師のお前はどう見る?」
「…うーん、呪文が聞こえなかったので確証はありませんけど…でも多分、あれは付与魔法系統だと思います。」
「付与魔法だと?だがあれは明らかに付与の範疇を超えている。」
「パワーアップ系の付与魔法と、スピードアップ系の付与魔法。ほかにも色々な付与を施されたのかもしれません。
私もあんなのは…見たことありません…」
「あぁ…理性もなく野獣と化していた。俺もあれは初めて見る…」
「俺もあんなのは初めてです。斬られても燃やされても気にせず向かってくるなど…」
「あのローブの魔導師、また来ますか?」
「もしかすると来るだろう。次はレベルの低い山賊たちではなく、手練を。」