妙な一団
ここに来て5日が経過した。
あれからもノックスは代わる代わる衛兵達を相手に訓練を施した。
ノエルたちにとっても良い経験となったようで、今では衛兵たちと気軽に話し合ったりしている。
アインとモズはフェリスからの教えによりようやく無詠唱魔術を行使することができていた。
魔力制御の訓練はやはりというかフェリスのほうがコツを掴むのが早く、そのおかげか魔法の威力が格段にアップしたり、無詠唱魔術の威力が詠唱魔術とさほど変わらない域にまで達していた。
そろそろノックスたちは引き上げようかとナバルと話していると、ナバルの元へと1人の衛兵が走って来て報告に来た。
「ナバル中隊長!今よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「先程関所にてとある一団が来たのですが、少し妙でして…」
ナバルはそこまで聞いたところで、
「ノックス殿、少し失礼。」
と言いノックスの聞こえない場所まで移動し、報告を聞いている。
しばらく話し込んだ後、ノックスの元へとナバルが戻ってきた。
「何か問題でも起きたのか?」
「いえ、問題という程ではありませんが、恐らくは教会側の人間がやってきたようです。」
「教会…?」
「えぇ。ノックス殿たちからすれば面白くない話ですが。」
「…俺も着いて行っても構わないか?」
「構いません。が、国家間の問題に発展しかねないので、無用な争いは避けていただければ。」
「当然だ。俺は遠くから見てるだけにしておく。それとノエルたちにはここに残っていてもらおう。」
「助かります。」
ノックスはナバルと共に関所へ向けて走り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい!いつまで待たせてやがる!さっさと門を開けろ!!」
関所で待たされている教会側の一団が声を荒らげていた。
ナバルがそこへ急ぎ駆けつけ、
「お待たせしてしまい申し訳ありません。私はここの責任者のナバルです。
あなたがたの入国についていくつか質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
と丁寧に対応した。
「なんだよ?俺らが怪しいって言ってんのか?」
「いえ、私が聞いたところによりますと、あなた方はサントアルバ教会から来られたとお聞きしておりまして。」
「それがどうした?」
「ここロンメアでは他種族が暮らす国であります。当然魔族も。
ですので、本国では教会の方々の入国は御遠慮させていただいているのです。」
「俺らのこと信用してねえってのか!?ああん!?」
前世でもああいう輩はいたものだ。とノックスは遠巻きに観察していた。
ルナの所在について教会側の連中なら何か知っているかもしれないが、今ここで問いただす訳にはいかない。
「無用な諍いがあるかもしれないリスクがある以上、教会側の方々の入国は一切禁止しております。」
ナバルは毅然とした態度で彼らに言い切る。
やがて彼らは埒が明かないと踏んだのか、諦めて帰るようだ。
だが去り際に
「覚えてろよ?教会側の人間であるこの俺をぞんざいにしたことを。せいぜい今のうちに平和を噛み締めてるんだな。」
などと吐き捨てた。
彼らが完全に立ち去ったことを確認したノックスはナバルたちの元へと歩み寄った。
「ああいう手合いはよく来るのか?」
「たまに、ですがね。ここ最近は滅多と無かったのですが。」
「奴らの入国を断るということは、昔に何か?」
「…えぇ。13年前の魔族排斥運動が過激化した頃でしょうか。それまでは教会から来た者たちも入国を許可していたのですが、国内にいる魔族たちに非道な真似を行いまして…
さらに、その犯行を行った者共を捕らえたのですが、教会から身柄の引渡しでかなり揉めたのです。
それからというもの、本国では教会側の人間は一切入国を禁じているのです。」
「その割には俺の入国はすんなりさせてもらえたな。」
「あの当時はノックス殿を完全に信用していた訳ではありませんが、教会側の人間は必ず『聖印』と呼ばれる物を携行しているのです。
首飾りであったりタトゥーであったり。
それに…」
「それに?」
「無礼を承知で申し上げますが、ノックス殿はスパイとも思えない、とてつもなく強いだけの一般市民のように思えました。
おかしな事を言っているのは承知ですが、本来あそこまでの強さを持っている者は、ただならぬ気配を纏うものですので。」
「ははっ。それだと余計に怪しく見えるのでは?」
「あとは、ギルドカードを作成した時に確信しましたよ。
スパイであればギルドカードなど人前で作ったり見せたりは絶対にしない、と。」
「…信用してもらえたようだな。」
ノックスはこの日、もしも教会と全面的に争うことになった時は、絶対にこの国を巻き込んではいけないと確信した。