ギブアンドテイク
ナバルの部屋にてノックスは紅茶に関するレクチャーを受ける。
「まずはノックス殿が普段どのように煎れているのか見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
ナバルにそう言われ、ノックスはボディバッグから紅茶葉と茶こしとティーカップを用意した。
そして、手のひらから水魔術を発動させ加熱。
そこへ紅茶葉を入れて煮る。
そして茶こしで葉を取り除きつつティーカップへと注いだ。
「普段はこうだ。」
「な、なるほど…」
ナバルはノックスの煎れ方に引き笑いした。
そして、紅茶の煎れ方について改めてレクチャーする。
「紅茶に使用する水は魔術で顕現させたものよりも天然の水を使用するほうがよいかと。
水魔術でも問題は無いのですが、そうして出来た水では魔力を伴うことがありますので、茶葉に影響を及ぼすこともあります。
次に紅茶葉をティーポットへ投入し、沸騰したお湯を入れます。なるべく高い位置からお湯を注ぐと茶葉の成分がより抽出されます。
この時、茶葉を入れる前にあらかじめティーポットはお湯を注いで温めておくとよいです。
次に大事なのが『蒸らし』です。茶葉の大きさにもよりますが、蓋をしてから3分程蒸らすのがいいでしょう。
最後にティーポットの中をスプーンで1度かき混ぜ、カップへと注ぐ。
特にこの時、最後の1滴は『ゴールデンドロップ』とも呼ばれ後味をスッキリさせる効果もあります。
これで紅茶の完成です。」
ノックスはナバルから聞いた事と自分がやっている煎れ方とはかなり違うことに少し気恥しくなった。
が、すぐさま実践してみることに。
ティーポットが無いのでナバルのを借りつつ、先程言われた通りの煎れ方を実践した。
そうして出来上がった紅茶をナバルと共に1口。
「……さっきと同じ茶葉とは信じられないほどまったく違う…」
「はっはっはっ。まあ最初のうちは仕方ありません。
慣れれば色々と煎れ方に工夫するとよいですぞ。
例えば茶葉の大きさによって蒸らす時間を変えたり、量を変えてみたり、と。」
「なるほど……奥が深い………」
「ノックス殿が先程煎れたのはオーソドックスな紅茶ですが、レモンを入れたり牛乳を入れたり、あるいはさまざまなハーブを入れて楽しんだり、など様々な楽しみ方がありますぞ。」
ノックスは前世はインスタントコーヒーしか飲んでいなかったのだが、この世界に来て紅茶の良さにめぐり逢い、たかがお茶なのにここまで奥深い物なのかと感嘆し、探究してみるのも面白いと思ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日。
さっそくノックスは衛兵たちとノエルたちに剣術指導にあたる。
と言っても一方的にボコボコにするだけになってしまっているのだが。
これでは訓練にならないと感じ、衛兵組と魔族組に別れて一対一の模擬戦をさせることにした。
魔族たちは衛兵たちに比べてレベルが高く、ちょうどよい相手であったようだ。
だがナバルは他の衛兵とは違い、ノエルを相手にしながらもいい勝負をしていた。
「はぁ…はぁ……俺も、かなり腕を上げていたと思っていたが…ナバル殿もやりますね…」
「はぁ…はぁ……そちらこそ、私もかなり訓練していたにも関わらず…ここまでやるとは…」
模擬戦を終え、皆の改善点を伝えていく。
「ドランはスタミナが少ない。盾役とは言え相手の攻撃を受け止めるだけでなく、時にはいなして反撃を当てられるようにしたほうがいいかと。
ホランド殿は相手を目で追いすぎかな、と。目で見るだけではなく音や感知系スキルを磨き、相手の動きを予想するだけではなく、相手を自分の有利な場所に誘い込む方法を考えてもよいかもしれない。
フェリスは慌てすぎだ。それと無詠唱を実践でやるにはまだまだだな。後衛だからと言って相手が攻め入って来ることも考え、その時に役に立つ魔法か、もしくは体術を身につけておくべきかと。
ナバル殿はスキルや体術もかなりのものかと。相手の動きを予測しつつも反撃のスキを与えない動き、ノエルも相当に苦労したかと。そのままレベルを上げれば相当に強くなるかと思う。」
ノックスはとにかく感じたことを伝えた。
衛兵たちはノックスの言葉に真剣に耳を傾けている。
魔族たちも衛兵たちとの模擬戦はかなりいい経験になったようだ。
「「「「「ご指導、ありがとうございます!」」」」」
衛兵たちは治療魔術を施されたものの、疲れた体を起こしてノックスに感謝した。
その後みなで昼食を摂りながら、衛兵たちと魔族たちは相手の良かった点、悪かった点など反省会をしていた。
ちなみにノックスの聞こえない所では、
「アインさんたちは、ノックスさんのあのめちゃんこキツいしごきを受けてるんですか?」
「えぇ…そなんですよ…ホント……ノックス様はあれでもかなり手加減してるらしいんっスけど……この前なんて俺、首の骨を折られてたらしくって………すぐさま治療してくれたんっスけど……」
「え?首の骨ってマジデスカ…?それでよく生きてましたね…」
「ノックス様の治療魔術、死んでいなければほとんどのケガを治せるらしくって……」
「地獄じゃないですかそれ……」
「うん…そうなの……地獄なの……ノックス様は『後衛だからと言って油断するな』って……」
アインは体育座りになり涙目になっていた。
「…他にもノックス様は『耐性スキルを上げる』と言ってはあらゆる魔法を打ち込んできたな……体を焦がされたり毒攻撃を受けさせられたり……うむ。あれは紛れもなく……地獄だ……」
リドルも混ざり、ノックスの地獄の訓練について同じく涙した。
「うわぁ……ケガで死ななくともストレスで死んじゃう……」
「…けど、なんていうか…、ノックス様の指導は理にかなっているというか……」
「あぁ。同感だ。それでいて上手く言えないが…優しいというか。」
「え?優しい?」
「あ、それ!俺も思ったっス!こないだも『これ美味いから食え』ってクッキーくれたんっス!」
「…俺が言いたいのはそういう事じゃないんだがな…」