魔力制御
夕方には魔族達含めてみなが食堂へ集まり、ドラン母子の手料理をご馳走になった。
ノックスは以前の反省を踏まえ、間食は避けていた。
今回の食事は鍋であった。
コンソメベースの出汁に豚バラや白菜、人参、きのこ、ウィンナーがグツグツと煮えていた。
その上から黒胡椒がぱらぱらと振りかけられ、香りを豊かにする。
ノックスは生唾をゴクリと飲み込んだ。
さっそく皆でテーブルを囲んで食べようとしたのだが、ノエル達は控えていた。
ノックスもそれが気にかかり、
「どうした?」
と聞いてみた。
「ま、魔族の我々には、その…」
「せっかく出してくれた料理に手をつけないとは失礼にも程があるぞ。嫌いなものでもあるのか?」
「い、いえ!そのようなことではなく!!……その、これは我々も食べてよいので?」
ノックスには彼らが何を言いたいのか分からなかった。
するとドランの母がやってきた。
「あんた達だって腹空かしてんだろ?他がどうだったか知らないけどね、ここであんたらを迫害するような奴は、あたしが叩きのめしてやるさ!
だから遠慮せず、食べな。」
ナバル達もみな優しい顔でノエル達が席に着くのを待っている。
いや、フェリスだけは出された料理を今か今かと待ち構えてはヨダレを垂らしているのだが。
ノエル達はその優しさに感激し、涙を流した。
「ありがとう…ございます…」
「ほら!料理が煮崩れしちまう前に食べておくれ!おかわりなら十分にあるからね!」
ドランの母がノエル達を急かし席に座らせ、しんみりとした空気を変えてくれた。
実に楽しい団欒となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
皆での夕食が終わり、アインとモズとフェリスはノックスによる無詠唱魔術の訓練を受けることに。
と言ってもノックスは自身が行った訓練を皆に話すだけなのだが。
説明不足の部分をフェリスが独自に解釈し、補足してくれる。
「種火でいい。指先に火の魔法を灯し続ける。なるべく小さい火を継続して発動させ、安定させるんだ。
アインとモズは詠唱有りでやって感覚を掴むんだ。」
この訓練は『魔力制御』のための訓練である。
アインとモズはノックスに言われた通り詠唱により火魔術を発動させ、指先に火を灯す。
フェリスは無詠唱でもって指先に火を灯す。
だが3人とも火魔術が安定せず、大きくなりすぎたり、逆に小さくなりすぎて消滅していた。
「この訓練も無詠唱に必要なんっスか?」
何度やっても安定する様子のない魔法にアインが痺れを切らした。
「アイン!あなたノックス様になんて無礼な!!」
モズはそんなアインの態度に激高した。
「え!いやいや、そういうんじゃなくって!!なんとなく聞いてみただけっスよ!」
モズに怒られたアインが慌てふためく。
「いや、構わない。この訓練は無詠唱に必要、というよりも、魔法を発動させる上で無駄なMPを放出させすぎないためだ。」
先程まで激高していたモズであったが、一瞬で切り替えてノックスからの話に耳を傾けた。
「にしてもなかなか安定しないー!」
フェリスは本人は真剣なのだが、指先に集中するあまり周りの目も気にせずに目を見開いて寄り目になっていた。
「一朝一夕で身につくものでもない。焦らずに気を落ち着かせ、小さい火を継続させる。その繰り返しだ。」
訓練を開始してから2時間が経過した。
フェリスは徐々に小さい火を安定させるコツを掴み始めたようだ。
だが気を緩めるとすぐさま消滅してしまうのだが。
そうこうしていると、ナバルが扉をノックして入ってきた。
「ノックス殿、訓練の程はいかがか?」
「すぐに身につくものでもないからな。俺でもこの訓練を安定させるのにはかなり時間を要したものだ。」
「ふむ。私は魔法職ではありませんので専門的な事は分かりかねますが、一見無駄に思える積み重ねが大きな変化を齎すというのは、剣術にも言えることですからな。」
「あぁ。」
「それで、ノックス殿。キリのいい所で私の部屋に来ていただけますか?」
「今が丁度キリもいいだろう。伺おう。」
「了解です。」
ノックスは魔術の訓練を切り上げてナバルの部屋へと伺った。