再会
その後、ノックスは合間を見てはノエルとナタリアに稽古をつけた。
遅れてアイン、モズ、リドルの3名も加わった。
ノックスの稽古は厳しすぎるほどだった。
ノックスからすればかなり手加減しているのだが、それでも一撃が全て必殺攻撃なのだ。
ノックスの攻撃により致命傷を受けるも、すぐさま治療魔法により回復されているので事なきを得ている。
ノックスからの訓練以外でも彼らは積極的にギルドへ登録し、討伐クエストに出かける。
ノックスに甘えてばかりではダメだと彼らなりに考えてのことだ。
「ノックス様の攻撃……まったく見えん…」
「私もです…」
「俺も、躱されたことすら気づかんかった。」
「……初歩的な魔法でも極めると殺人的なまでの威力とは……まさに桁違いッスね。」
「あぁ!ノックス様!!あの御方の子供を生みたい!!」
ナタリアは本能に忠実であった。
「ナタリア…そのような世迷言、決してノックス様の前で口にするなよ…」
ノエルはナタリアに釘を指した。
「なぜです?強き方のお子を生みたいと思うことは女の本能ではありませんか?」
「そうだとしても、だ!」
「本当ですよ!ナタリアさん!抜けがけは許しません!!」
モズもナタリアに注意するも、意味合いが違う。
「冗談はさておき、もっとレベルを上げなければノックス様の足でまといにしかならんぞ。」
リドルが現実を突き詰める。
「欲望に忠実なのはいいとしても、今のまんまだとノックス様に相手にもされないッスよ。」
アインの最もな意見にナタリアとモズは痛いところをつかれたような顔をした。
当のノックスはと言うと、食事処にてカレーを食っていた。
この世界にもカレーがあったことに驚いたのだが、店の外からも香るカレーのニオイに誘われて、13年ぶりのカレーに舌鼓を打っていた。
前世のカレーとは違いあまりコクがないのだが、それでも十分なまでに美味しくいただいていた。
ノックスは食欲には忠実であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この日もノックスからの地獄の訓練を終え、5人全員が無様に倒されている。
この光景もすでに見慣れたものだ。
「治療せよ。」
治療魔法により5人を暖かい光が包む。
真剣を使うと危うく死なせてしまう恐れがあったため、木を使って相手をする。
とはいえ骨折は免れないのだが。
治療魔法により折れた骨や腫れた患部がみるみる治っていく。
治療を施しながら
(そういやナバル達も訓練をつけてほしいと言っていたな。)
などと考えていた。
この5人も自分たちで討伐クエストをこなし、レベルも少しづつだが上昇している。
「最初の頃より攻撃に対する反応が良くなってきたな。腕だけでなく体、特に下半身の使い方がようやく物になっている。」
「…それでもまだまだノックス様の足元には及びません…」
「レベル差があるのだから仕方ない。」
アインとモズも無詠唱魔法の訓練も行っている。
スキルレベルも少し上がっていた。
着実に強くはなっているものの、ノックス相手ではその成長ぶりを感じられずに歯がゆい思いをしている。
今日も今日とてそんな一日が過ぎようかとしていた頃だった。
不意に
「ノックス殿!!」
と声をかけられ、目をやると見慣れた1団がいた。
ナバル達である。
「ナバル殿、それにみんなも。久しぶりだな。」
「ノックス殿と別れてから10日ほどですか。その節はありがとうございます。」
「ノックス様〜〜!!!!」
「こらフェリス!!」
フェリスがノックスに抱きつこうと走り出した所をナバルに首根っこを掴まれた。
「…まったく、こいつは…」
「ノックス様〜〜!!たじゅげで〜〜!!」
ゴチンッ!とゲンコツを食らっている。
「ノックス殿、お久しぶりです。」
「ホランド殿か。」
「帰ってから娘らと再開できたのはノックス殿のおかげです。妻も娘も感謝しておりました。」
ホランドは軽く笑みを浮かべて礼をした。
「ノックスさん!お久しぶりです!……例のアレ…着手しましたよ…」
「…!!本当か!?…で!?どうだ!?」
「ま、まだ物にはなってないです。でもちょうどよかった!ノックスさんのお力も少し借りられればなぁっと思っていた所で!」
「協力は惜しまない。なんでも言ってくれ!」
ノックスが珍しくテンションが高い。
「これから夏場に入るんで、一応地下でやってるんですけど、それでも温度が…」
「ふむ。ならば冷却効果のある魔法だな。とはいえ氷結させてしまうと大変だからな…」
「それなんですけど、色々調べてみたんですが……」
そんなやり取りをみていた魔族達はいきなりのことでポカンとしている。
「ノックス様、こちらの方々は…?」
「あぁ、この王国に来る前に色々と世話になった者たちだ。」
「世話になったなんてとんでも!!我々が助けていただいたんです!!」
ナバル達が慌てて訂正した。
「いや、ナバル殿達がいなければこの王国に立ち入ることもなかった。なのでお互い様だ。」
「そんな大したことなどありませんが…分かりました。有難くそうしておきましょうか。」
「あぁ。」
「彼らとここで訓練を?」
「そうだ。見てわかる通り彼らも魔族だ。」
「…そのようですね…ですが……」
ナバルは何かを言いかけて彼らを見やる。
「…ノックス殿。私が知る限りでは魔族はかなり重傷者が多いと。命に関わる者もいた、と聞いておりましたが…」
「我々はノックス様に治療してもらったのです。」
「……なんと……!!まさかそこまでの治療魔法を…!?」
ナバルが驚くのも無理もない。
魔族達がスラムにいることは知っていた。
そしてその魔族達が自分達の仲間を治療してもらうよう王城に直談判したことも。
だが魔導師を派遣してみるも、治療など不可能なほど凄惨な状態であった、と聞いていた。
それを完全に治療したなどと、世界でも前例がない。
ノックスの治療魔法は不可能を可能にしたのだ。
「あなた方がノックス様をこの王国に招き入れてくれなければ、仲間はこの世に居ません。そればかりか残された我々にも希望などありませんでした。誠に、感謝致します。」
ノエル達5人はナバルに礼をした。