ナバルの報告
「ハウンドの群れ、さらにはヘルハウンドの出現。……そしてそれらを苦もなく殲滅したノックスという男………。ヘルハウンドの件についてはまだしも、その男、にわかには信じがたいな…。」
ナバルの報告を聞いていたのはロンメア王国第3支部総括のハルバートという壮年の男だった。
ナバルから関所を閉鎖したという報告を受け、詳細を直にナバルから聞いていたのだ。
ハルバートはロンメア王国の衛兵の中でも有数の実力者である。
実力を評価されて叩き上げで総括という役職を賜っている。
冒険者のランクで比較するならば彼はすでにランクAの冒険者の実力を保有している。
ヘルハウンドはランクAの者同士のパーティでやっと倒せるレベルである。
というのも、群れを成して行動するモンスターであり、その統率性が凄まじいからだ。
それをたった1人で、しかもヘルハウンドに何もさせずに殲滅させたノックスという男の存在を疑うのは仕方のないことかもしれない。
何より、それだけの実力者であるにも関わらず『ノックス』という名に聞き覚えがない。
ギルドへの登録の際には【犯罪歴】が無いらしいが、それ以前にギルドに未登録だったことが信じられない。
この世界では身分証明書として成人すれば持たされることが国に関わらず義務化されているのだ。
驚愕だったのは、ノックスについて詳しくナバルに聞いてみると、なんと過去に『悪魔の口』に転落させられ、そこから自力で脱出して来たのだと言う。
この事は他言無用だとナバルに念を押す。
もしもその話が本当ならば、ノックスという男は世界で初めての『悪魔の口』の生還者だからだ。
となれば色々な者たちから引っ張りだこになるだろう。
穴の内部はどうだったか?
モンスターはどんなモンスターだ?
半年前に起きた地震との関係は?
など。
…それにしても、意外だったのはフェリスだ。
彼女は魔導オタクであり他人に対して興味がない。いや、他人どころか自分にも興味がない。
せっかくの器量を台無しにしており、彼女を知る者は誰も女として扱っていない残念な奴だ。
そんな奴がしきりに「ノックス様の弟子になります!」などと宣ってきたのには驚いた。
ドランやホランドもノックスのことは信用している。もちろんナバルもだ。
ハルバートはナバルの報告を聞いて、そして皆のノックスに対しての信用度を聞き、実際に会ってみたいと思った。
一体どれほどの修練を積んだのか。
そして、その男がこのロンメア王国に本当に害をなす人物ではないかどうかを。




