ミートソースパスタ
魔石はオーガの物以外は全て『森の梟』達に譲った。
「譲った」というよりもともと彼らが討伐したにも関わらず、命の恩ということで全てノックスに譲ろうとしたのだが断った。
ドグとメグはゲイルの両脇に抱えられて、最初こそジタバタ暴れては
「ノックスさまのお側に〜!!」
「ノックスさまについてく〜!!」
と叫んでいたが、ついに観念して脱力している。
さすがにノックスもこの2人を連れていくつもりは無い。
『森の梟』達は最後までノックスに感謝を告げ、
「次に会う時までには恥ずかしくないように努力します!!」
と頭を下げた。
魔石はすぐに換金してもよかったのだが、まだ手元には金はあるので保留にした。
なによりもまず、宿と飯の確保が先決だった。
宿は昨日とは違い、『ガルーダの寝床』という看板が掛けられた宿にした。
ノックスはその一室で荷物を下ろし、ベッドに腰掛けながら考えた。
いずれはどこかで自分の家を確保したい。
前世では賃貸アパート暮らし。
一人暮らしだったので1Kのこじんまりとしたアパートだった。
この世界で暮らすにしても広さはこじんまりとしているほうが性に合うかもしれない。
いや、せっかく2度目の人生なんだから豪華なマイホームとかも持つべきか?
どちらにせよ、まずは妹の保護が最優先だな。
いや、相手の勢力次第では先に拠点を構えるほうが先決かもしれないな。
『拠点』か…。
ここロンメアでは他種族でも犯罪歴さえ無ければ迎合される国。
ここに拠点を構えるのは悪くはない。
以前のホランドの話によると『教会』が絡んでいることは確実だろう。
その『教会』がどれほどの勢力なのか見極めないと、だな。
あとは魔族。
この国を軽く見て回ったものの魔族は見当たらなかった。
国の外れにはスラムがあるらしいが、おそらくはそこに魔族達がいるかもしれない。
彼らを探し出し、直接話を聞くほうが色々と分かるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ノックスはその後、夕食を取るべく街に出かけた。
街には色々な料理屋があり、そこらじゅうから食欲をそそる香りが立ち込める。
すでに行列を成している人気店もある。
ノックスは迷いつつもパスタ専門店で晩飯を摂ることにした。
ミートソースしか置いてないという徹底ぶり。
他の味を注文しようものなら店長から締め出されるという頑固なオヤジの店だ。
味付けに関しては1級品なのだが、偏屈オヤジのせいか、店はそこまで混雑していなかった。
だがノックスにとってそんなことはどうでもよかった。
むしろそこまでこだわり抜いた店で、ミートソースしか置いてないにも関わらず生き残っている店なのだから、味も相当美味なのだろうと確信していた。
そしてその考察通りであった。
パスタを口に入れるや、爽やかなトマトの酸味が広がる。
ゴロッとした肉はジューシーで口に入れると溶けていく。
ハーブもいくつか使用されているのだろう、様々な香りが鼻を抜ける。
パスタはモチモチで中に少しだけ芯がある『アルデンテ』。
文句のつけ所が無いほどに美味なパスタであった。
前世でもこれほどまでに美味しいパスタを食べた記憶が無いとまで感じさせられた。
ノックスは1人、
「…美味すぎる………」
と呟きながら黙々とパスタを食していく。
店長もあまりに感激して涙目になりながら食べているノックスを見て、顔には出さないものの内心は嬉しかった。
ノックスはこの国に着き、新生活を迎えるのであった。