転生『ノックス』
前世で転生もののライトノベルならいくつか読んだことはある。
まさか自分がそんなことになるとは思いもよらなかったが。
それにしてもなぜこの子は殺されたんだ?しかもこんな場所で。
この子の現状況に思いを馳せていると
「…痛ぅっ………!!!!」
とんでもない頭の痛みと共に、頭の中に何かが流れ込んできた。
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楽しげな家族の日常。父親の帰りを今か今かと待ちわびてる自分。妹?と思える子は父親の帰りを待てずに寝てしまっていた。
父親が帰ってきた。手にはいくつか牙を持っている。フォレストボア?という獣の牙だという。お土産としてそれを貰った俺ははしゃいでいた。
俺は父親と一緒に風呂に入るようだ。
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何者かに家を焼かれて追われている。
妹は泣き叫んでいて母親に抱っこされていた。父親も必死に俺たちに逃げるように声を荒らげていた。
だが相手は馬に乗っていてすぐに追いつかれてしまいそうだ。
父親は自分が引きつける間に逃げろと俺たちを逃がした。
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妹がグズる。父親に会いたいと。妹は年齢にして3歳くらいか。
母親が俺たちにいろいろと言い聞かせてる。妹には兄の言うことを聞くように、とか。
そして母親は俺に妹を預け逃げるよう言っている。必ずまた迎えに来るから、と。
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追い詰められる俺と妹。そこは『悪魔の口』という場所だとか。
相手に体を切りつけられ、妹は奴等の仲間のひとりが抱えている。相手は俺を片手で軽々と持ち上げて高笑いしている。
魔族と人族のハーフで高値で売れると話している。奴等に反撃すべく、前に父親にもらったフォレストボアの牙で相手の右目を切りつける。
思わぬ反撃を喰らい激高した相手は俺の胸元に剣をズブリと刺して貫き、そして剣が引き抜かれ、奴等の高笑いとともに俺は『悪魔の口』に投げ捨てられた。
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「う゛ぉぇええええええっ!!!!」
吐いた。ありったけ吐いた。
……これは記憶か……?
怨念にも近いようなものだ。この子の恨みや後悔の念が俺に渦巻いてる気がした。
いや、実際には俺自身も同じ気持ちだったのだろう。何にしても胸糞の悪い記憶であり、この子もまた理不尽に殺されたようだった。
分かったことがいくつかある。
この子の名前は『ノックス』。妹は『ルナ』。
状況的には妹は生きているだろうが、ろくな目には合わなそうだ。俺とは無関係なのではあるが、なんとしても助けてやりたい。
それと、俺と妹は魔族と人族のハーフであること。
父親が魔族で母親が人族だった。あの記憶だけでは両親の名は分からなかった。が、無事でいるはずもないだろう。生きているとは到底思えない。
そして、俺が今いるここは『悪魔の口』。
上から見た光景だと大地に裂け目があり、そこに転落させられたようだ。
あとは、この子の家族を襲撃してきた奴等で、この子を殺した相手の名は『ノース』。
覚えておこう。
俺には直接的には無関係だが、俺はもう理不尽を許すことは無い。前世のように良い人であろうとは思わない。いくら魔族とはいえ、子供をこんな容易く殺すような輩は、相手が何者でも許されない。相手を殺そうとする輩は、自分が殺されてもいいということだ。
この子の復讐は、必ず俺が遂げてみせる、と俺は決心した。