ノックスv.sオーガナイト
思えば簡単な依頼であった。
新人冒険者にいい格好を見せつけていい気分になりたかった。
いつものように。
中には自分たちに憧れて進んで舎弟になるやつもいた。
実入りもよくなり、いい女を抱けたし、いい飯も食えた。
同じランクの冒険者よりいい生活を送れた。
…なのに、こんなところでオーガ?それもオーガナイトまで?
なぜ?なんで俺たちがこんな目に………
リカルド達は後悔していた。
自分たちの浅はかな行動は反省すべきではあるものの、こんな不運に巡り会うとは。
パーティ皆の目も絶望している。
だがそんな中、1人だけ飄々としている者がいる。
ノックスだ。
「…仕方ない。俺がやろう。」
戦意を完全に喪失している『森の梟』を見て、少し呆れた後、ノックスは仕方なく代わりにオーガを相手取る。
オーガナイトはノックスの動きを注視していた。
そしてオーガナイトはオーガ達に司令を下す。
グルルルゥゥゥウガァァア!!!!
『いますぐにそいつを抹殺せよ』
そう言っているようにも聞こえた。
そしてオーガ達が一斉にノックス目掛けて走り出す。
刹那
「…舞散れ…!」
ノックスがそう唱えたかと思うと、ノックス達を中心に竜巻が巻き起こる。
竜巻に飲まれたオーガは空中へ投げ出され天地無用となっている。
そこへ風の刃がオーガを切り刻む。
圧倒的虐殺。
竜巻は血飛沫で赤く染る。
…やがて竜巻がおさまると、バラバラになったオーガの肉片や腸がボタボタッと音を立てて地に落ちる。
数体残っていたオーガは恐怖していた。
腰砕けとなり、その目にはもう、恐怖以外何も映っていないかの如く。
だが一体だけ。
オーガナイトだけは違った。
ノックスの魔法に驚きはしたものの、戦意を喪失しておらず、逆にむき出しにした。
ノックスもオーガナイトを見やる。
そしてオーガ達と同様に『森の梟』達も戦慄し恐怖していた。
オーガナイトは腰に携えていた剣を抜き、ノックスに向けて構える。
ノックスは左手で刀の鍔に親指をかけている。
「グルゥアッ!!!!」
オーガナイトは地を蹴りノックスへと斬り掛る。
袈裟斬りにすまいと振られた剣をノックスは上半身を軽くひねって躱す。
空振りしたオーガナイトだが、空振りした勢いそのままに体を回転させ二撃目を横1文字に見舞う。
ノックスはその斬撃を鞘で受け止めた。
ガギィィィン!!!!
剣と鞘がぶつかり合い火花を散らす。
オーガナイトはぶつかった衝撃に体を仰け反らせた。
が、ノックスは体勢を崩さずに平然と立ち、体をのけぞらせているオーガナイトを冷たい目で見ている。
オーガナイトは即座に後ろへと飛び移る。
オーガナイトは肩で息をし、大量に汗をかいている。
対してノックスは平然としている。
そこまで動いたわけではないが、2人の力量の差は歴然。
一瞬の攻防のうちにオーガナイトは自分が死ぬイメージを幾度となく味わった。
それにより精神をかなり疲弊させられたのだ。
ノックスから攻撃させずに距離を取ったオーガナイトは、さすがオーガの上位種と言えるだろう。
が、時すでに遅し。
オーガナイトはノックスを相手にするべきではなかった。
「…次はこちらからいく。」
ノックスはゆらりと刀を鞘から抜き出す。
オーガナイトは体をビクッとさせ後方へと逃げようとした。
が、動かなかった。
オーガナイトは目の前にいるはずのノックスがいないことに気づく。
チン…!
と、鍔鳴りがオーガナイトの後方から聞こえる。
ノックスは瞬時にオーガナイトの後方へと移り、抜刀していたはずの刀を納刀。鍔と鯉口がかち合う。
振り返ろうにも体が動かない。
それもそのはず。
この時既にオーガナイトはノックスにより首から上を斬られていた。
脳からの命令が断絶された体は脱力してドサッと崩れ落ちる。
その弾みで首が転げ、自身の首のない胴体が目に映る。そしてその向こうにいるノックスを見やる。
オーガナイトは絶命するまでの一瞬の時間であったものの、自分を屠った相手の姿を目に、遅まきながらの恐怖を感じ、絶望した。
そして、やがてその目から輝きが失われていった。