オーガの群れ
「あんたが言ってたのはこの当たりか?」
「あぁ。正面の茂みの向こうにゴブリンがいる。」
「魔力感知すげー!」
「魔力感知べんりー!」
獣人族兄妹が耳をぴょこぴょこさせて少し感動している。
彼らは猫の獣人族であった。
犬系の獣人族ではあれば鼻が利く。猫系の獣人族は跳躍力や瞬発力、あとは夜目が利く。
もふもふな耳を触りたくなるものの自重した。
茂みから窺うとゴブリンが10体ほど群れを成している。
『森の梟』達はひそひそと作戦を立てていた。
獣人族兄妹と副リーダーが左右に分かれ、ゴブリンの群れを気付かれずに包囲するよう回り込む。
こちらから見れば獣人族兄妹が左右に、副リーダーは向かい側へと回り込んだ。
配置に着いたことを確認すると
「かかれ!!」
リカルドの合図とともに左右に分かれていた兄妹とリカルドが攻撃を仕掛ける。
ぎゃあぅぅぅうううう!!!!
ゴブリンはいきなりの襲撃に驚き一斉に悲鳴のような叫びをあげる。
兄妹はすばやさを活かしてゴブリン達に手傷を追わせていく。
リカルドは確実に一体ずつにトドメをさして倒していく。
それでもゴブリンの反撃によりリカルドや兄妹も手傷を負うが、魔導師の男がその都度回復している。
後方でゴソゴソと小声で呟いているのは詠唱だろう。
やがて襲撃により恐れを為したゴブリンはリカルド達のいない逆側へと逃走を図ろうとするも、待ってましたと言わんばかりに副リーダーのゲイルが逃げようとしたゴブリンの正面に出る。
数分後、ゴブリンの群れは『森の梟』によって全滅した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうだ?すげぇだろ?」
とリカルド達はドヤ顔でノックスを見やる。
が、ノックスはと言うと視線を別の方向へ向けている。
「モンスターがここにくる。数は…2~30体ほどか…?」
敵を感知していた。
「な、なに!?ここにか!?」
「どうやらな。血の臭いに釣られてきたようだ。」
獣人族兄妹2人の耳がぴょこっと動く。
そしてノックスが見ている方向へと視線をやる。
しばらくすると
ドドドドドドドド………!!!!
という地鳴りのような音が迫ってきた。
「地表のモンスターというのはつくづく血の臭いが好きだな…」
ノックスは『悪魔の口』でのモンスターと地表のモンスターを比較した。
『悪魔の口』にいるモンスターは、基本的に血の臭いがしたからとドカドカやってくるものはいなかった。
それもそのはず。『悪魔の口』という閉鎖的な空間では、地表のような生ぬるい環境ではない
地表とは違い、危なければ逃げるという手段が成り立ちづらい。
なによりも『悪魔の口』のモンスターは地表よりレベルが格段に上なのだ。
「ここは危険だ!!すぐに一一」
リカルドが逃走を指示しようとしたときには既に群れに囲まれていた。
「こ、こ、こいつらは…!!」
「なんてこんなとこに…!!!!」
「オ、オ、オーガ……」
『森の梟』とノックスは30体近くいるオーガの群れに既に囲まれていた。
「へぇ。お前らが『オーガ』という種族名か。」
ノックスは呑気に構えている。
オーガは体格が3メートルはある。
赤や青や茶といった体色で人型。筋骨隆々である。厄介なのはオーガは武器を使う。武器と言っても棍棒ではあるものの、奴らの豪腕から繰り出される棍棒は石をも簡単に砕いてしまう。
「…終わった………」
「しにだぐにゃい…!!じにだぐにゃいぃ!!!!」
「だじゅげで!!だじゅげでぇぇ!!!!」
「こ、こんなことになるなんて…!!」
皆一様に絶望していた。
だがまだ戦う意思はあるようだ。
だが、オーガの群れの中に一体、明らかに別の者がいる。
そいつは他のオーガよりも背がかなり小さい。人と比べて同じくらいである。
そしてオーガのように醜悪な顔をしていなかった。
何よりもそいつは棍棒ではなく剣を携えている。
その姿を確認した『森の梟』達は、さっきまではまだなんとか戦おうと手にしていた武器を落としてしまう。
「…オ、オーガナイト………」
みなが膝から崩れた。




