レベルを公開しない理由
「あの辺りに今回の討伐対象の『ゴブリン』が生息してる。」
そう言うとリカルドは雑木林の辺りを指さした。
『森の梟』メンバーとノックスはさっそくその雑木林へと歩き出す。
道中には色々と教えてくれた。
まずはモンスターの生息域。城壁近くは衛兵が討伐するため、あまりモンスターも近寄っては来ない。基本的に離れた所で、水辺に群れを作る。
これについては『悪魔の口』でも同じであった。
Bランク以上の討伐クエストともなると関所の外に行くこともある。
そして、ダンジョン。
このロンメア王国領内に確認されているダンジョンは2つ。
ロンメア王国から北東にある『湿地』のダンジョン。それと、南にある『荒地』のダンジョン。
ダンジョンは魔素が滞留する洞窟などが変化して出来上がるものだという。
ダンジョン内にでてきたモンスターは死体が残らない。
奥に行けば行くほど強いモンスターが出現する。
というもの。
なぜ魔素によりダンジョンが形成されるのかは『森の梟』達もよく分かってない。
彼らは今のポジションで自己満足しているからだろう。
ノックスは考えた。
(魔素が滞留する、ということだったが『悪魔の口』はダンジョンではなかった。彼らの話が本当ならば、あそこでは倒した敵の死体が残っていたし。
ダンジョンが長期間の魔素の滞留により起こされることであるならば、『悪魔の口』は空が開けているから滞留しなかったのか。
もしもあそこがダンジョン化していたら餓死していたな…
…にしてもダンジョンとは面白そうだな。別にランクをあげることにこだわりがないからある程度地盤を作ったらダンジョンに行ってみるか。)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
林の中は色んなモンスターが個々に生息していた。
カエルやムカデやヘビ。
前世と違う点で言うなら全てサイズがでかい。
『森の梟』メンバーは連携を活かしてそれらのモンスターを撃破しては額の汗を拭いながらチラチラとノックスの顔を見てドヤ顔になってる。
ノックスにはそれがなんの意味か分からなかった。
「ま、この辺の敵はこんなもんだ。どうだ?実戦を見てみて?」
「…ん?あぁ。」
「なんだ、あまりに凄くて言葉にならねえか?」
「リカルド、昨日冒険者になったばっかりなんだ。大目に見てやれ。」
「もっとつんおいモンスターとやりあいたい!」
「もっとすんごいモンスターとやりあいたい!」
「にしてもここらにはゴブリンはいないようですね。」
ノックスは気配感知をしてゴブリンの群れの居場所を探す。
「あっちの方角にゴブリンらしき気配があるが?」
「なに?なんだあんた、知ってんのか?」
「魔力感知でわかる。」
「魔力感知だと?」
「あぁ。」
「ほう?魔力感知とはいいスキルじゃないか。だけどな、あまり他人に自分の持っているスキルは言わねえこった。先輩からのアドバイスだ。」
「ということはレベルも?」
「当たり前だ。レベルなんてのは特に他人には秘匿だ。結婚する相手にも言わないやつも多いくらいだぞ?」
「…なるほど。」
ギルドに登録する際にレベルを聞かれたり知られることがなかった理由。
一昔前まではレベルをも見分けられる『鑑定』の魔法陣であったそう。
だが、レベルというのは個人情報の中でも特に重要なのだとか。
命の値段が軽いこの世界では、高レベル者が低レベル者を虐げたり、また、犯罪行為も横行していたそうだ。
本当に信頼している仲間同士であればレベルを公開することもあるが、基本的にレベルを秘匿にするのは自分が犯罪行為に巻き込まれないようにするための自衛だということ。
そのため、ギルド登録の際には『鑑定』よりも『看破』に変わった。
『看破』ではなによりも過去の犯罪歴を知ることができるため、そちらのほうが優先順位が高かったのだろう。
「その『鑑定』は魔法陣さえあれば誰でも他人のレベルを知れるのでは?」
「他人に対して許可なく『鑑定』を行うのは重罪だ。極刑にはならんが、奴隷落ちになっても文句は言えねぇ。だが、世の中にゃあ『鑑定』のスキルを持っている奴もいるらしいけどな。」
「ということはそいつは他人のレベルを覗き見し放題というわけか。」
「そうだな。ま、もしそんなことが知れればさっきも言ったように奴隷落ちだがな。」