ナバル・ドレアム
30頭近いハウンドの群れが関所を襲撃してきたあの日は本当に衛兵達は死を覚悟した。
最初こそ連携を活かし上手く立ち回っていたが、徐々に疲れや魔力切れ、装備品の摩耗によりハウンドを処理できなくなり、ついには形勢は不利に。
盾役のドランが踏ん張ってくれていたものの、蓄積したダメージによりついにダウン。
さらに悪いことに血の臭いを嗅ぎつけた別のハウンドの群れがやってきている。
まさに絶体絶命。
そんな時に現れた正体不明の男。
彼の一撃により残っていたハウンドは殲滅。
別の群れのヘルハウンドを含めたハウンドの群れは彼の魔法により消し炭に。
命の恩を感じてはいたものの、そんな実力者が自分達の命を何の見返りもなく助けてくれたことに、ナバル含め衛兵達も訝しんだ。
(どこかの国のスパイなのではないか?)
(犯罪を犯して高飛びしてきたのではないか?)
様々な憶測が飛び交った。
ナバルは詮索はしなかったものの、信用した訳ではなかった。
当初彼をロンメア王国に案内すると言ったのは、彼の素性を明かし、危険人物であれば王国内で対処しようと考えていた。
途中の村で、彼がギルド登録をしておらず、登録を申し出た時はどういうことかと思った。
しかも1文無し。
だが、ギルド登録をしたいというのであれば、必ずボードに手をかざす。
あのボードには『看破』の魔法陣が組み込まれているため、何かしらの犯罪をしていたなら必ず明記される。
それにボードを騙すことは不可能だ。
だがボードに手をかざしたが、犯罪歴はなかった。
となるとあとはスパイかどうか、だが。
(仮にスパイだとしても1文無しなどありえるか?)
普通は有り得ない。
となれば理由は何か分からなかった。
(…いや、彼を疑うのはよそう。)
ナバルは彼をとりあえず信用することにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夜、ノックスからあの話を聞いた。
自分が5歳の頃に『悪魔の口』に落とされたこと。
妹を連れ去られたこと。
13年間そこで暮らしたこと。
そして、自分は人族と魔族のハーフであること。
そんな話を聞かされた時は正直驚きで声にならなかった。
なぜなら『悪魔の口』から出てきた者などこの世に存在していなかったからだ。
だが彼の戦闘を実際に見たから分かる。
嘘は言っていない、と。
ノックスが自室へ戻ったあと、部下を呼び寄せた。
そしてその時に
「俺はノックス殿を信用する。
皆も思うところはあるかもしれん。だが俺は彼からとある話を聞いた。俺からその話をお前たちに勝手にするのは不義理にあたるため言えないがな。
もしも王国内で彼に何かトラブルがあった場合は、俺は隊長職を辞することになるかもしれん。
そのことだけはお前たちに伝えておく。」
皆からは反対の意見が飛び交うものだと思っていた。
が、
「隊長、俺もノックスさんがいなきゃとっくに死んでます。何があったのかは知りませんけど、俺も隊長と同じ気持ちです!それに俺の料理にあんな美味しそうに食べてくれて、ちょっと嬉しかったです!」
「私はまだ彼を信用できずにいます。ですが、隊長がそこまで信用なさるということは、私も少しは彼を信用してみようと思います。」
「ノックス様すんごいから!あんな無駄のない魔法……それに無詠唱……あたしはノックス様に弟子入りします!」
フェリスだけは方向性が違うようだが。
「お前たち、ありがとう。」
そうして夜は明け、ナバル達はノックスと共にロンメア王国へと歩みを進めるのであった。