祝杯
5人は食卓に付き、料理を注文する。
そして、無事にロンメア王国に帰ってきたことを祝して乾杯した。
ノックスは一応
「18歳だけど酒はいいのか?」
と確認した。
するとこの世界では酒は15歳から許可されているとのこと。
そもそも世界では15歳で成人と見なされる。
命が簡単に失われてしまう世界であるがこそだろう。
その事に感謝しつつビールをゴクリと呷る。
「ぷっはーーー!!!!今日のビールは一段と美味しいですね!」
とドラン。
「…つくづくノックス殿には感謝だな…」
「同感です。ノックス殿、改めてありがとうございます。」
ナバルの言葉にホランドが続く。
「のっふすはは、あひはほー!!」
フェリスは口いっぱいにご飯を溜め込みつつ、おそらくは感謝の言葉を発した。
だが当のノックスはと言うと、みなの感謝の言葉に反応しつつも
(…ちがう!…これはちがう!!!!……こんなのは………ビールじゃなぁぁぁい!!!!)
と絶望していた。
前世のビールは、ガラスのコップに注がれて黄金色をし、何よりもキンキンに冷えていた。
この世界のビールはエール。前世で飲んでいたビールはラガーである。エールには独特の風味があり、甘い。
がそこは置いておくとしても、このエール、ぬるいのだ。
この世界では冷蔵庫などあるはずもなく、とにかくぬるいのだ。
(エールなのは仕方ないが、ぬるい!!ぬるすぎる!!!!キンッキンに冷えたビールは……)
食事に関してはノックスに不満があるはずもない。
が、この日、ノックスは独自で必ずやキンッキンに冷えたラガービールを飲む、と新たに目標が加わった。
食事をしている時、隣に座っていたホランドが話しかけてきた。
「ノックス殿、少しよろしいでしょうか?」
「ん?なんだ?」
「ノックス殿が魔族とのハーフという話についてです。」
「ん、あぁ…」
「人族の中には『人族至上主義』の者もいれば、教会が率いてる『勇者至上主義』があります。
おそらくノックス殿の御家族を襲ったのは、その2つのどちらかの勢力かと。」
「『勇者至上主義』だと?」
「えぇ。教会は人族の者に祝福をし、『勇者』の称号を与えているのはご存知ですよね?
勇者は過去に魔王を倒したとあります。
『勇者至上主義』の連中は、勇者をあげ讃え、勇者こそが絶対であり、そして、魔族を徹底的に排除すべきだという偏った考えを持つ連中のことです。」
「妹を攫ったのは勇者である可能性が高い、と?」
「可能性の話です。」
「ふむ…。となると、俺がこの国にいることが教会にバレるとマズイのでは?」
「ロンメア王国は教会には属しておりません。当然この国で勇者などが魔族相手に問題を起こすとなると国際問題になります。」
「ということはこの国には他にも魔族が?」
「いますよ。まあ、かなり少数ですが。」
それを聞いて少し安心した。
この国は魔族排斥派などではないということだ。
「ノックス殿は年端もいかない時に襲撃されたので、自身が魔族であることに負い目を感じておられるのではないかと。ですが、それはほんの一部の者にしか過ぎないということをご理解ください。」
「ありがとう、ホランド殿…」
「私も幼少の頃はこことは違う領内で生まれました。なので、ノックス殿のお気持ちは、少しは分かるのです。」
エルフ族は高い魔法知識や能力がある。
他の領内では、そんなエルフを目当てにエルフ狩りが行われたこともあるらしい。
それに、エルフは容姿も優れている。
変態貴族の奴隷にされた者もいる。
ホランドは小さい頃は自身の出自を呪ったこともある。
だが、だからこそ、ホランドにはノックスの気持ちが痛いほど分かる。
「私がこの国に流れ着いた時に世話になったのがナバル隊長です。
その時はまだ隊長ではありませんでしたが。
そしてこの国を見て、私が守りたい国はこういう国なのだ!と。つくづく思いました。
衛兵として隊長のもとに就けた時は嬉しかったんです!」
ホランドは酔いが回ってきたのか饒舌になり出した。
「ホランド、お前は飲みすぎだ。まったく。」
と注意されていた。
その後もホランドは意に介さずに演説していたのだが。
ホランドが一頻り演説している間、ドランに話しかけた。
「ドラン殿は酒は作るのか?」
「俺に『殿』なんて不要ですよ!まぁ酒は作れないこともないですよ。なぜそんなことを?」
「俺はこの世界をよく知らないもので。酒を作ると密造になったりなどは?」
「密造なんてのは薬師に未登録のものがポーションを作ったりするとそうなりますよ。酒は自分で作ろうが自由ですよ。」
「…ほう。ではこんなことはできるか?…………」
「……えぇ!?そんなことしちゃ腐っちゃいますよ!?」
「それが腐らせずにできるらしい。なんでも…………」
「……ふむふむ。…なるほど。興味深いですね…!」
「俺もできる限り協力もする。」
「でもなんでノックスさんはそんなこと知ってるんです?」
「あ、えっと……子供のころ……その…両親が……」
ノックスは不意に投げられた当然の疑問の答えを持ち合わせていなかったためにしどろもどろになってしまう。
だが、
「あぁ!!す、すいません!!辛いこと思い出させちゃったみたいで!!」
と、いい様に汲み取ってもらえた。
ノックスは着々と自分の目標に向かって前進していた。