魔力枯渇
「ちょいちょいちょぉぉおおおい!!おじさんこんなの聞いてないよぉぉおおお!!!!」
グシオンの群れとの戦闘にはファウストらの姿もあった。
ジョアンが『縮地』で切り刻み、ヨークは魔術で敵を一掃。
だがやはり、そのどれもグシオンには無意味であった。
ただ、全てが無意味だったわけでも無かった。
ジョアンが背後からグシオンに襲われそうになったその時、ファウストが『透明』を用いてジョアンの手を引き、それによってジョアンも透明化したのだ。
その時、グシオンは透明化している自分たちを見つけられないようであったのだ。
「……ふぃ〜〜、どうやら『透明』は、彼らにも見えないってワケだねぇぇ。」
「……んな事言ったって、これじゃあいずれ魔力切れが起きちまうさ。」
「だったら、今のうちに遠くへ逃げちゃおうかねぇぇ。」
「……それ、本気で言ってんのかい?」
「……ジョークだよジョーク。でもまさか、こんな事になるなんてねぇぇ。おじさん参っちゃう。」
「それよりいつまで手ぇ握ってんだい!とっととあたいらも戦闘に戻るよ!」
「はいよ、っと。」
ファウストらが戦闘に復帰し、無駄とは分かりつつもグシオンとの戦闘を再開する。
すでに一帯はグシオンの群れが溢れ返っており、グシオンは我先にと仲間を踏んづけてでも攻撃しようと必死であった。
が、その時。
何者かがとてつもない速度でグシオンの群れを横切ると、忽ちグシオンの体が細切れにされた。
「ノックス様!!」
「……ジョアン。それにヨークとファウストも。ケガは?」
「あたいは大丈夫さ!」
「……まだいけますが……如何せん敵の数が余りにも……」
「このままだとジリ貧だよねぇぇ。ノックス様は何かいい案でも?」
「あぁ。だがそれにはハデスの元へ行かねばならん。」
ノックスはグシオンで溢れている中ハデスを探し出そうと駆け回っていたものの、あまりのグシオンの数により探し出せずにいた。
「それならファウスト、アンタの出番さね!」
「……んぇぇ!?お、おお、おじさんがぁぁあ!?」
「アンタの『透明』なら、グシオンも見えちゃいない。ここはあたいとヨークに任せ、アンタはノックス様と共にハデスを探すんだよ!」
「……うむ。それがよかろう。」
「そうなのか。ならファウスト、構わんな?」
「………全く………貧乏くじだねぇぇ………んま、ノックス様、宜しく頼みますよぉぉ?おじさん、まだ死にたくないからね。」
ファウストはノックスの肩に手を置いて『透明』を使用する。
途端にノックスの姿も消え、先程まで敵意を剥き出しにしていたグシオンらは突如消えたノックスらの居所が分からなくなっているようであった。
「……ファウスト、悪いが急ぐ。俺の背に捕まれ。」
「んぇぇ!!?……かわい子ちゃんならともかく………」
「………このまま奴らの群れの中に放り投げるぞ?」
「はいはいぃぃい!!!!分かりました分かりました!!」
ファウストはノックスへと背負われ、ノックスは地を蹴ってグシオンを踏みつけてハデスの元へと駆けて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……あそこか……」
ファウストを背負ったノックスが、ようやくハデスの元へと辿り着く。
ハデスの周りには大量のグシオンが溢れ、辺りはグシオンが幾重にも折り重なっていた。
「……あんな大量に……さ……さすがのおじさんも……ちょっと絶望してるかなぁぁ………」
ノックスが魔力を練り上げて無理やり足場を形成する。
隆起させた足場にいたグシオンらを風魔術で一掃させ、ファウストを下ろした。
と、そこを目印としたのか、アインが『集中』を使用して高威力の火魔術を放って道を作り、それに合わせてノエルとナタリアが駆け込み、跳躍して足場へと参上した。
「ノックス様!」
「ご無事で!」
「ノエルとナタリアか。ちょうど良かった。お前たちに頼みたい事がある。」
「はっ!」
「なんなりと!」
「ハデスの周りにいるグシオン。一時的でいい。俺の合図と共に一掃しろ。そしてすぐさまナタリアの『鈍化』をかけろ。」
「「はっ!!」」
ノックスから頼られたことが嬉しかったのか、相当にダメージを負っていた2人だが威勢よく返答した。
そしてノックスは、手にしていた手榴弾へとありったけの魔力を練り上げ、重力魔術を付与させる。
その恐ろしいほどの魔力量に、そこにいた誰もがその異常さを検知した。
「……ノ、ノノ、ノックス様ぁ!!?」
近くにいたファウストは冷や汗を流すが、ノエルとナタリアはノックスを信用して合図を待つ。
「……まだ………まだまだ………!!」
足元からはグシオンが層を成してなんとか足場にたどり着こうと折り重なる。
「……まだ………まだだ…………!!!!」
ノックスの異様なまでの魔力にベリアルが上空から近づき、
『ワシも手伝うぞ!!』
と声を上げた。
「奴らを薙ぎ払え!!」
ノックスの合図と共にノエルは『縮地』を利用して群がるグシオンを斬り刻む。
ナタリアも地を蹴り、薙刀でもってグシオンを撫で斬りにせしめてゆく。
それに合わせるかのようにベリアルは人形態へと姿を変え、槍と火魔術によりグシオンの群れを一掃してゆく。
3人の連携により、無限に再生するグシオンであっても、その再生が追いつかない。
ようやくハデスの周囲にいたグシオンが一掃され、ハデスの身が顕になった。
すぐさまナタリアが『鈍化』を使用し、グシオンらの動きを緩慢にさせる。
その瞬間、ノックスは凄まじい速度でハデスの元へと駆け寄り、手榴弾へ最後の魔力を込めた。
途端に手榴弾からバキンと音を立て、中に仕込まれていた魔石が砕ける。
ノックスは手榴弾を持っていた右腕ごとハデスの胸元へと突っ込んだ。
それに気づいたハデスがゆらりとノックスを睨みつけた。
「………諦めて………我が神の元へ………逝くがいい………!!」
「悪いが諦めは悪いほうだ!!」
手榴弾が炸裂し、ハデスの体内で超重力が巻き起こる。
ノックスはすぐさま手を引っ込めようとしたものの、自身の重力魔術に加え、扉の向こう側から大量のグシオンが右腕に捕まり、ブラックホールに飲み込まれまいとしがみついている。
ノックスは、自身の腕にしがみつくグシオン越しに、黒く禍々しい姿を見た。
およそ人とは形容し難く、頭部から7本の角を生やし、13枚の翼が見て取れる。
ハエを想起させる巨大な複眼がノックスを睨みつけ、ノックスの魔術を阻止せんとばかりに怒りの形相で睨みながら腕を伸ばしている。
「………貴様がゼディウスか……!!……悪いがこの扉は閉じさせて貰おう………!!」
作成したブラックホールは増幅装置によってさらに拡大し、空間が歪む。
右腕にはグシオンが群がり、ブラックホールの重力に飲み込まれまいと大量にしがみつく。
ノックスは仕方なく自分の右腕を刀で切り飛ばし、ハデスから離れた。
寸前にゼディウスを睨み、
「……じゃあな。」
と言葉をかけた。
「…………ぐっ…………!!……貴様………一体なにを…………!!?」
扉が閉じかけているハデスは、胸を押さえ込んで苦しみだす。
何とか扉を開こうと両腕で抵抗するものの、体内に投げ込まれたブラックホールは周囲を巻き込んでさらに膨張する。
ハデスは力の限り抵抗するが、ついに扉は完全に塞がってしまった。
「…………な………何を…………したのだ…………!?」
「………ハァ………ハァ…………悪いが………扉を…強制的に………閉じさせてもらった………!!」
ノックスがハデスの扉を閉じた瞬間、突然それは起こった。
今まで何度斬りつけようが、何度魔術を撃ち込もうがすぐさま再生していたグシオンが、突如として再生する事が無くなったのだ。
「……よしっ!!ノックスさん、どうやら仮説通りです!!奴らをこの世界の理に引きずり込むことに成功したようです!!」
リョウヤがその様子をノックスに伝える。
「………ハァ………ハァ…………のようだな………!」
ノックスはありったけの魔力をブラックホール作成のために捧げ、そのせいで魔力枯渇に陥っている。
普段なら切り飛ばした右腕をすぐさま回復させていたが、今のノックスにその余力は残されてはいなかった。
「………よくも………我が神の慈悲を………!!」
ハデスはノックスをギラりと睨みつけ、猛スピードで斬撃を浴びせた。
ノックスは力を振り絞って何とか身をよじるも、ハデスの斬撃は胸元を斬り裂いた。
「「ノックス様!!」」
近くでグシオンを掃討していたノエルとナタリアが、ノックスを救出すべく動き出す。
しかし、その行く手をグシオンが塞いだ。
「このっ!!」
「邪魔をするなァァア!!!!」
すぐさまグシオンらは2人により排除されたが、その一瞬の間にハデスは自分とノックスを囲うようにぐるりと魔障壁を展開させた。
「……貴様らは………そこで見ているがよい………我が神の野望を砕いた貴様は………貴様だけは………私の手で葬ってやろう………!!」
ハデスは魔力を練り上げ、左手をノックスへ向けて翳す。
やがて特大の火魔術が現れ、ノックスへ向けて射出された。