援軍
大量に現れたグシオンにより、衛兵らは徐々に押されてゆく。
何をしても無駄と分かりながらも、体力が保つ限り戦っていたが、それが切れた者らはグシオンの餌食となってゆく。
「『砂粒縛・礎』!!」
ノックスは群がるグシオンへ向けて砂粒縛により動きを封じる。
「『抜魂術・朧』!!」
そうして動きを封じたグシオンへ向け、魂を引き抜きにかかる。
「……チッ……!!」
しかし、グシオンの魂を引き抜く事は叶わなかった。
仕方なくノックスはグシオンを刀で断ち切り、そのまま術者であるハデスの元へと駆け寄ってゆく。
ハデスはその間も更にグシオンを生み出し続け、一帯はグシオンにより埋め尽くさんというほどである。
大量のグシオンを切り裂きながらノックスが再びハデスの元へと舞い戻り、尚もグシオンを生み出し続けるハデスを細切りにした。
しかし、傷口はすぐさま復元され、ハデスはノックスに斬られたことなど気にも留めずにグシオンを生み出し続けている。
「……ならば……!!」
それならばとノックスは固有魔法の付与術式をハデスの足元へと展開させた。
魔法陣からはアズラエルの時と同様にすぐさま異様な光を放出させたものの、光が反転したかと思いきや、魔法陣が粉々に砕けてしまった。
それを感じたハデスはゆらりとノックスを見やる。
「………無駄だ………私には効かぬ………私は既に……我が神と同化したのだ…………
………大人しく………我が神の贄となるがよい……!」
ノックスの元へ大量のグシオンが我先にと襲いかかる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……や……やめでぐれ………だ………だれ………か…………!!」
グシオンの群れにより衛兵らがついに捕まり、無数のグシオンが、まるで子供がおもちゃを破壊するかの如く手足を引っ張って引きちぎる。
噴き出した血で興奮したのか、グシオンは更に「ほっほっほっ」と笑い声のような鳴き声で衛兵らに更なる攻撃を与えている。
不気味な笑い声がそこらじゅうでこだまする中、衛兵は1人、また1人と無惨にもグシオンらによって殺されてゆく。
「……はぁっ……はぁっ……全くキリが無い……!!」
「……統括……!!このままでは……!!」
「ゲラート!!ハデスは何者なのだ!!」
「……いいいい今それを聞きますかねぇぇ!!?」
ゲラートは手錠を掛けられながらも、なんとか体を捻ってグシオンの攻撃を掻い潜っている。
「いいから説明しろ!!このままでは全滅するぞ…!!」
「……と言われても……ハデスはよくお祈りをする時間が設けられてるって事でね。」
「……それが何だと……!」
「彼が信仰している神は、大昔に居たって言われてる悪魔だって、そんくらいだよ…!
確か……ゼディウスやらなんとかってな…!」
「……それだけか……!?」
「今言えるのは、この世界のあらゆる攻撃は、奴には効かないってことさ…」
「……チィッ……!!」
グシオンの群れが更に数を増して襲いかかる。
なんとか凌いでいたブラックウッドとゲラートであったが、徐々に押されて窮地へと追いやられていた。
「……ブラックウッドさん……俺の手錠、外してもらえないですかねぇ……?」
「……ハァ……ハァ……ば、馬鹿を言うな……!!それで逃げ延びるつもりなのだろう……!!」
「……それなら最初っから大人しく捕まったりしないですよ……それに、このままじゃ2人とも殺られますよ……?」
「……………クソっ…………!!」
ブラックウッドに考える時間はあまり無かった。
ブラックウッドは胸元のポケットから鍵を取りだし、ゲラートへと投げ渡す。
「……よしきた……!!」
ゲラートは手早く解錠し、急いでブラックウッドの手を取った。
「……お、おい……なにを………!!」
「…ちょいと飛ぶよ……!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ノエルはレヴィアとザリーナ、ロザリオと共闘してグシオンの群れを相手にしていた。
だが斬っても再生され、あらゆる魔術も効かないグシオンを相手に手こずっていた。
なおも増え続けるグシオンにより、状況はどんどんと悪化してゆく。
「……マズイのう……早くハデスを始末せねばならんと言うのに……!!」
グシオン相手に試行錯誤している中、守られる立場となったリョウヤが、なんとか活路を見出すべくグシオンを鑑定により分析する。
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【名前】グシオン
【種族】????
【年齢】????
【性別】????
【レベル】????
【HP】????
【MP】????
【力】????
【すばやさ】????
【スタミナ】????
【魔力】????
【スキル】????
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「……名前以外……全部不明だなんて……!?」
衝撃の結果にリョウヤが狼狽えていたところへ、背後からグシオンの群れが襲いかかった。
「リョウヤ!!」
「……!!!!」
襲いかかるグシオンの群れに対して、デュバルが身を呈して庇う。
「……ぐぁぁぁあああああああ……!!」
「デュバル様!!」
リョウヤは急いでコイルガンを構え、デュバルに群がるグシオンへ向けて発砲する。
「くそっ!!くそぉぉおおお!!!!」
手足を引きちぎられ、グシオンはその手足を玩具のように振り回したり、あるいはバリバリと嫌な音を立てて咀嚼する。
「……リョウ……ヤ…………逃げ……るんだ………!!」
息も絶え絶えになりながら、デュバルはリョウヤに逃げるよう命じた。
「………い……いや………なんなのよこれ………夢……?……悪い夢でも……見てるのよきっと……!」
「デュバル様!!クソっ!クソぉぉぉおおお!!」
感情的になるリョウヤとは違い、レイカは現実逃避していた。
タクトの死にもあまり動じることが無かったリョウヤだったが、デュバルに対しては激しく動揺していた。
「……あ……あぁ………デュバル様………そんな………!!」
瀕死のデュバルをなんとか救い出そうとノエルも奮闘しているものの、膨大な数となったグシオンにより阻まれてしまっていた。
それどころか、圧倒的な数の暴力により、視界はグシオンの群れで埋め尽くされる。
そこに居た誰もが死を覚悟したその時であった。
上空から突如として氷の槍が降り注ぎ、グシオンの群れを貫いた。
それだけでなく、特大の火魔術がグシオンを焼き払った。
「ガハハハハハ!!ようやくワシの出番というところじゃのう!!」
「……ベ……ベリアル……なぜお前が……!?」
「遅なってしもうたのう、姉上よ。ワシらはノックスに言われ、第2陣としてここに来ておったのじゃ。」
ベリアルに続き、ナタリアやアイン、リドルにモズ。マイナやヨハンナ、ハイゼル、ホークにセト。
さらにスケルトンたち。
それだけでなく、コリンたちイブリースの兵が勢揃いしていた。
「ノックス様のご命令により、参戦する!!この群がる正体不明の敵を排除せよ!!」
ナタリアが威勢よく号令をかけると、一斉に皆がグシオンへと攻撃した。
アインはデュバルに群がっていたグシオンを風魔術で吹き飛ばし、すぐさまモズが治癒魔術を行使した。
さらにアインは魔術を練り上げ、モズらを囲うように大地を隆起させてドームを作る。
「しばらくはこれで大丈夫です。」
モズはドームの中で『防壁』を行使し、デュバルの治療に専念した。
「……なんで………僕らは……君たちの敵なのに……?」
「ノックス様のご命令です。」
毅然とした態度でモズは言い切ったものの、その手は僅かに震えていた。
「……ありがとう………ございます………」
リョウヤは溢れた涙を袖で拭った。
一方、ドームの外では激戦が繰り広げられていた。
どれだけ高威力な魔術を放ったとて、グシオンはすぐさま再生する。
『鬱陶しい奴らよのう!!ワシが薙ぎ払ってくれる!!』
ベリアルは龍形態へと移行し、グシオンの群れを相手取る。
「ベリアルよ!!近隣住民への被害は最小限に留めよとノックス様からのご命令だ!!」
『わかっておるわ!!』
ベリアルは1度上空へ飛翔し、その後急降下してグシオンの群れへと突撃する。
とてつもない熱風にグシオンが巻き込まれ、通り際に爪で八つ裂きにされては炎で焼かれた。
すぐに再生が始まるものの、ベリアルの範囲攻撃により多少攻撃の手が緩む。
「俺らも負けてらんないッスよ!!」
「……それにしたって……こんなの勝ちようが無いじゃないの。」
「ノックス様ならなんとかしてくれるッス!!」
「楽天的ね。」
「信用してるって事ッスよ!!」
アインはグシオンの群れに怯むこと無く果敢に魔術を撃ち込み、それに釣られてマイナらもグシオンの群れへと向かっていった。




